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#468-2 読書記録『血も涙もある』然るべき爆発

 随分前ですが、メンタルメンテ(精神のお手入れ)のため、行きつけの占い師さんのところへ行った時に、占い師さんに「山田詠美さんの、『血と涙もある』っていう小説があるんですが、今のいてさんに刺さると思いますよ。」と、オススメされました。
 
 その日のうちに書籍を購入し、帰宅後、即読み始めたら、なかなかにおもしろくて当日には読み終えていました。いや〜〜これは恋愛事情がなかなか複雑で、占いに通い詰めるような人(つまり私!!!)には刺さりまくるよな〜〜〜。

■全体の感想

 すごい。すごくわかる。私は沢口喜久江さんには到底及ばないけど、『いてと娘にお金を残して死にたい』と言った夫に「私はお金が欲しくて結婚したいと思ったんじゃなくて、あなたとおじいちゃんおばあちゃんまで幸せに過ごしたい。と思ったから結婚した。」と言い放った自分や、鈴木くんの前で「夫は結婚する時に、私のために命を賭けられるかどうかまで考えたんだって。そんな話をされたら、こっちだって腹括らなきゃって思うよね。」と強がった自分を壊したくないんだよな。やっぱり。

 人間みな、なんとなく「こういう人間を装おう。」「こういう人間で在りたい。」みたいな”演技”があって、それにより自分にメリットがあるから当然そうしているわけだけど、それを無自覚に、過剰にやりすぎてしまうと、ずっ〜と、ふっと気づいた時になんかしんどい、みたいな状態になって、いずれそれに堪えきれなくなると、しかるべき形で爆発させざるを得ない状況を作り出すのかなあ、と思う。喜久江さんが桃子に対して、嫉妬心を顕にして、彼女を突き放したシーンのように。

 さて、印象に残ったセリフなどをここに書き記しておきますね。

*沢口先生が、私を妬むなんてことあるだろうか。これまでだって、自分の夫を通り過ぎた女たちをさらりと受け流した人が。あんなに何もかも手にして、それでも優しさと思いやりを元手に料理を作り続けて飽きることのないような人なのに。彼女の豊穣な世界に比べたら、私の自由なんて吹けば飛ぶようなちっぽけなものに思えるけど?(p.97 4 lover)

*博愛主義を装いながらも、対峙する人間の本性をチェックする機能に長けてしまったわたしの眼。血の繋がっている姉に対してだって、それは働くのよ。この女、駄目。隙あらば、わたしから何かを奪い取ろうとしている。そんな姉のすっからい正体を見抜いた時から、わたしには人間を査定する力を授けられたのだ。(中略)わたしは、世の中で言われるような価値観で、ものを見ることも人を選ぶことも必要ない、と知ったのよ。自分にとっての温かいものだけに目を留めて、それを大事にして行けば良い。何が人情かはわたしが決める。(P.131 5 wife)

*男は、味方のいっぱいいる妻より、自分ひとりしか味方のいない女の方に欲情するもんなんだよ。多数、対、単数の構図。単数の方がはるかにセクシーではないか(P.150 6 husband)

*二人共、適度に人が良く、そして適度にずるかった。心優しいけれども、意地悪な根性も持ち合わせていた。贅沢でありながら、始末屋の一面も垣間見せた。楽天家なのに小心者だった。不真面目なのに道徳家だった。そして、世の倫理から外れながらも、自分の倫理は譲らなかった。つまり、私たちは、生きるための要素の配分が極めて似ていたのだ。そんな人間には滅多にお目に掛かれるものではない。もし出会えたとしても、親友止まりだ。でも、私と太郎は、その上、裸で体を温め合える。最高。(p174 7 lover)

*そう、わたしは、彼らの恋にとっては第三者になってしまった。(中略)築いて来たキャリアも名声も、年月をかけて練った人格も、保ち続けた優しさも人柄の良さも、太郎をわたしだけの側に居させるには、何の役にも立たないのである。男を四六時中、自分の手許に置いておく術なんてなかった。この年齢になって、ようやくそれが解った。(p196 8 wife)

*出会ってから初めて、おれは喜久江によってプライドを傷つけられました。その時、自分自身にとっての不都合な真実に直面させられることが、どれほど耐え難い痛みを運んで来るのかを知りました。そして他者にそれを感じさせないよう、必死に心を砕いている人間の存在も。もしかしたら、愛するとは、そういった心づかいを、常に持つことなのかもしれません。(p231 9 husband)

好きな人に、傷付きやすい女だって思われるのって快感よね。(p232 9 husban)

*そう、沢口くんの言い回しを借りると、ゆったりぶりっこ、というところか。彼を広い心で受け止めている自分でありたいし見せたい。そう願い続けていたら、本物の自分との区別が付かなくなった。でも、いつかは目が覚める時が来る。(p254 10 people around the people)

血も涙もある 山田詠美



 そしてもうね、この作品は、257P-258Pを読むためだけに他のページが存在しているんだなあ、まじで。(※注: あくまで私にとってはです。)
 私にとってこの小説の主人公は、玉木洋一でしかないですね。玉木優勝。玉木一生愛す。


■血も涙もある 山田詠美


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