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T Groupで学んだ大切なこと

以前にnoteでアクションラーニングについて触れたときに、「プロジェクトチームをコーチしたり、組織開発を行うために何を学んだら良いかと聞かれたら私が迷わずお勧めするものが二つある」うちの一つがアクションラーニング、そしてもう一つはT Groupであると書きました。

どちらもGroup Processを扱うものなのですが、正反対と言っても良いくらいアプローチが異なっていながら、うまく統合して使いたいものだと私は思っています。
と言うのも、両方の考え方が組織開発においては必要になってくるからです。

今回はT Groupとはどのようなもので、私がそこから何を学び、それを今どのように活かしているのかついてお伝えしたいと思います。

T Groupとは

T GroupのTはTrainingのことを指します。つまり、Training Groupを略してT Groupと読んでいるわけです。

そもそもの始まりは1946年、と言いますから第二次大戦後の今から80年以上前に起源があります。心理学者のクルト・レヴィンが教育者やソーシャル・ワーカーを集め、人種差別撤廃のために何ができるのかを話し合うワークショップを開催したときの対話の手法を通じて気付いたところから、人間関係についての気づきを得るためのトレーニングとして応用がなされ、作り出されたものだと聞いています。

ここでの「気付いたところ」とは、人々の集まりにおいて、同じ場と時間を共有しても、話されている内容やそれに対する反応だけでなく、メンバー間で起こっていることに対する人々の認知がそれぞれ違っている、と言うことでした。
その違いを語り合うことで、人々がグループを理解し、グループに関わる自分自身の関わり方やあり方を知ります。
何回も対話を繰り返すことで、他者への関わり方をダイナミックに変化させる体験学習が行われ、それにより個人もグループも成長してゆくことになります。

具体的には、「今、ここ」でそれぞれが感じていること(これをプロセスと呼びます)を率直に表に出して、それが他者にどのように影響を与えるのか、フィードバックがどのように返ってくるのか、から人とのより良い関わり方を学んでゆくことになります。

進め方として「非構成の対話の場」と言う形が取られます。
議題や話題を決めずに特定の時間(70分から90分ぐらい)を8名から10名ぐらいの人たちと一緒に円形に配置された椅子でお互いの顔が見渡せるように座って過ごします。
非構成の対話の場は、10数回繰り返されます。その間に講義や別のアクティビティを挟んだりしているトレーニングもあります。

トレーニングなので、グループの中にはトレーナーが入るのですが、何かを教えてくれう訳でも積極的に関わるわけでもなく、場を支えているような存在であり、トレーナーも一緒に場に入って語ることになります。

90分間、全く口を聞かないで終わる回もあれば、感情的な言葉が飛び交って心がザワザワさせられたりすることもあります。
この辺りは言葉で説明しても、実際に体験しないと分からないかもしれません。

参加のきっかけ

T Groupのこと私が知ったのは、2010年台の後半のことでした。
どうやら自分がやっていることは「組織開発」というものらしい、とぼんやりわかってきた頃です。
そこに至るまでの私のことについては、以下のnoteで書かせていただきました。

ちゃんと勉強しないとダメだなと思って組織開発を学ぶに連れて感じたのは、日本のそれがやや「手法」に偏ったものになってきていることでした。その一方で、組織開発のコミュニティに行くと組織開発実践者が体験しておくべきものとして、T Groupがあり、それは組織開発の源流だと言われていました。
いつかは参加して、組織開発の理念や哲学に触れてみたいものだと何となく思っていました。

その後、仕事が忙しくなってなかなか機会が作れないなと思っていた私でしたが、2015年に転職して現在の職場に来てから1年経って、やはり今行っておいた方がいいかもしれないと思い立ちました。

当時は仕事にも慣れてきたので業務に特に支障があったわけではなかったのですが、会社が変わったことで文化的な壁みたいなものをなんとなく感じていました。
仕事は先に進んでいくのですが、何か表面的で深みがないような感覚があり、漠然とした不安を感じていました。これでいいんだろうか?、と。

言葉を変えると「手応え」のようなものを感じられない、届いているような感じがしないと思っていました。自分の身勝手な思い込みで仕事をしていないか、あるいは手応えがない事に物足りなさを感じて組織を去ることになりはしないか、と。

そう考えた時に、手応えがないのは実は自分の今いる環境が「プロセス」や「感情」への関わりが必要な組織であり、淡々と仕事を進めているだけでは人がついてきていないのではないか、と感じられました。同時に自分が「プロセス」や「感情」に関わることを無意識に避けてきていたかもしれないことに気づき、このままだといつか限界がくるという危機感のようなものが湧き上がっていました。

この感覚が正しかったことは、T Groupから戻ってきてからしばらく経ってから当たっていたなと分かりました。

五泊六日のプログラムなので日程の調整が大変でしたが、人事の仕事の繁忙期から外れる時期が分かった時点で、予定をブロックし何がなんでも参加するのだと、後から入ってくる予定を悉く後回しにしました。そして、合宿の地であり、T Groupの里とも言える清里の清泉寮に向かったのでした。2016年6月のことでした。

参加してみて起きたこと

T Groupのようなプログラムでは、友人や知人が全くいないような状況の中で参加した方が自分にとっての学びになるであろうと考えて、日本体験学習研究所(通称JIEL。しかし現在は解散しています)のT Groupに参加することにしました。

都会の喧騒を離れた清里の自然の中でリフレッシュされながら、知っているメンバーが一人も居ない非構成のグループの中に身を置くことで、自分の中に何が起こってゆくのかをじっくりと味わうことになりました。
そして13回のT Groupのセッションを通じて、実にいろいろなことが起こりました。
その時の気づきの生の言葉、以下に書き出してみます。

人は自分自身を守るために本能として人と人との間に壁を作る。壁は他人の感情に侵略され支配されないように自分を守ってくれるが、一方で人との間に距離を作り人を見えなくする。でも、実はそれは幻想であり、相手の感情を受け入れて戻したり返したりすることが人にはできる。

1回目、4回目、5回目、6回目、12回目のセッションからの気づき

10秒前のその人と今のその人は違うと知っていることが人(の可能性)を信じると言うこと

8回目、9回目、10回目のセッションからの気づき

問題解決(衝動)と二つの価値観

6回目、7回目のセッションからの気づき

「分かった」ではなく「分かる」という感覚

4回目、6回目、8回目、9回目、10回目、11回目からの気づき

「居て欲しい」・・・「気にかけることで存在する」

これは全体を通じての気づきでした

一つ一つの気づきの解説をしてゆきたいところですが、とっても長くなってしまいそうなので、簡単にポイントをまとめると次のようになります。

T groupではこなすべきタスクや話すべきお題(コンテント)がないので、純粋にグループの発達に目が向きます。しかし、それは発達させようとして関わってできるものではなく、相互の関係性を整えることで出来上がって行くものでした。

自分自身の中では外面の平静を装っていても、実は内面で様々な感情の動きが起こっていて、それを見ないように見ないようにし抑え込んだ状態で、グループに関わっているのだと気づかされました。
「問題」に反応して組織に関わり、それが解決に向かうとスッと身を引き組織との関係性を希薄に保とうとするところであったり、何か人のプロセス(心の中で起こっていること)に関わることに遠慮のようなものが働いていました。

しかし「貴方が居ない」という事を強烈に味わう出来事があり、人が自分に対して感じているかもしれない想いを自分自身が抱くことになりました。
それは言いようのない寂しさのようなものでした。「あなたに居て欲しい」という思いが関係性を支えているのだという事を実感したのでした。

終えてからの混乱

得難い体験をした。やっとT Groupを受講できた。
晴れやかは気持ちで清里後にした私は、その後の日常に戻ってから大きな混乱を体験することになりました。
頭の中を色々な思いや考えが巡り回ってしまって、仕事の生産性がガタ落ちになってしまったのです。

メンタルと言うわけではなかったと思いますが、人と向き合うと相手の感情が流れてこんでくる、いや実際は自分の中で作り出した相手の感情と自分の感情との間の葛藤が起き、両方を尊重をしようと折り合いをつけることを試みるので、日々ものすごく精神的に疲労するようになりました。逆に言えば、今までそれをしようとしてなかったということです。

今まで感じたことがない胸のあたりのざわざわする感じを抱えたまま、これが今までの自分に足りなかったものであり自分に必要だと思っていたものなのだから、と自身に言い聞かせながら持ち堪えていました。
それでも、耐えられない時もあり、何人もの友人に自分の状態をシェアして意見をもらいました。
持つべきものはこんな訳の分からないことでも話せる友人だなと思ったものです。

1年ぐらいは自分自身の中での葛藤状態は続きましたが、やがてそれに慣れたかなと思えるようになってきたころ、同僚から「最近いい感じだね」との声を聞くようになりました。
人のプロセスを理解し、感情を受け止めながらも自身の感情も大切にすることが自然にできるようになってきて、「何を思っているのかがわかる」ので「伝わるものが伝わる」ようになったようでした。

自分を抑え偽って場に貢献しようとするのではなく、もっとAuthenticでありながら、人と場と一緒になって共に同じ方向を目指し共に居ることができるようになったのかもしれないと思います。

今に活きていること

ダニエル・キムの成功の循環モデルの中では、関係の質が最初に出てきます。

ダニエル・キムの成功の循環モデル

T Groupに出るまで私は「まず結果を出すこと、それが関係性を強めることにつながる」と考えていました。TeamのCoachingを行う場合もTeam Buildingを行うことはしますが、それは相互理解と目指すゴールの共有による方向付けが目的であり、メンバーの関係性は目標に向かって行く中で結果としてできるものであり、意図的にメンテナンスできるものではないように思っていたかもしれません。

T Groupでは目的が最初にあってそれを共有するものではなく、ただただ関係性とそれの自分への影響や他者への影響をみてゆくことになります。それを経験して初めて、なぜ人は協働できるようになるのか、組織が人の経験や能力の足し算ではなく掛け算になり得るのかがわかったように思っています。

2019年に私は、大阪の会社に出向しました。
社会人になりたての頃に大阪で6年間の営業した経験がある私は、関西圏と関東圏の文化の違いは骨身に染みて分かっていましたし、出向先の会社には全く異なる文化があることも分かっていました。

でも、T Groupでの学びを経て相手のプロセスを理解して懐に入り込む関係性を構築することと、道理やロジックで問題解決することを自由に行き来できるようになった私は、翌年の新型コロナウィルスのパンデミックで在宅勤務が始まっても、人間関係の構築で悩んだり困ったりすることはなかったと思います。

T Groupに出ると何ができるようになるの?と問われたら
私は、
相手と「打ち解ける」ための自分の在り方を学ぶことができる
と答えるでしょう。

人と人とが共に暮らしたり、仕事をしている以上、そこには人間関係があります。
人間関係はすぐにはできず、じっくりと温めながら作ってゆくものではありますけれど、壊れる時には簡単に壊れてしまいます。

当たり前のことのように思われるかもしれませんけれど、簡単なことではありません。
そして、人間関係を構築してゆくための起点となるのは自分なのです。

人と関わるときに自分に何が起きるのか?
それに気づくだけでなく、その場で修正し、そのフィードバックまでをもらうことができる学習の場がT Groupなのではないか、と私は思っています。

T Group参加中に清泉寮から撮った八ヶ岳方面の写真です

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