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5レベルリーダーシップ - 最も腑に落ちたリーダー成長論

リーダーシップは旅のようなものだとよく言われます。
どんな人でも初めからリーダーとして完成していたわけではなく、いくつかの段階を経てリーダーとして成長してゆくものだというのは私自身の社会人経験としても、人事として数々のリーダーを見ている中でも実感します。

どのようにリーダーが成長してゆくのかについては、色々なモデルがありますけれど、その中で私が最も信頼しており、リーダーの成長について語るときに使うものにJohn Maxwell5 Levels of Leadershipがあります。

John Maxwellは日本ではあまり知られていない人かもしれませんが、アメリカでのLeadership論やLeadership開発のGURU(グル=尊師)とも呼ばれている人で、もともとは牧師さんだった人です。そこから講演、作家としても活躍しつつ国際的なリーダーシップ開発団体をいくつも設立しています。
アメリカで最も信頼されているリーダーシップ論の権威と呼ばれています。

彼の説くリーダーシップの五段階について私が初めて知ったのは、メンターと一緒にリーダーシップ研修を行った時でした。
私とメンターとの話については、過去に以下のnoteで書かせてもらっています。

行ったリーダーシップ研修は、新任管理職に対して行うフォローアップ研修でした。
管理職になってから2−3ヶ月経った頃というのは管理職としての仕事がどんなものかが朧げながら分かってきつつ、自分の立ち位置やリーダーとしてのスタイルをどのようにしてゆくのかについて悩み迷う時期になります。
その時期に幾つかのヒントを得てもらおうという研修の意図にバッチリ叶う内容であったため、私の中に強く印象として残っているのです。

では、リーダーシップの五段階とは如何なるものなのか、それは英語の頭文字に全てRがついていたりします。順番に見てゆきましょう。

第一段階:Right(権力)のリーダーシップ

リーダーシップの第一段階はRight、すなわちリーダーが持つ権利によるリーダーシップです。
フォロワーがリーダーのあなたに付いてゆく理由は、あなたがリーダーであるから。言い方を変えるとリーダーの言うことには従わないといけないから従っている、付いていっている状態です。

John Maxwellはこの状態をPosition(地位や肩書き)のLeadershipとも呼んでいます。リーダーというpositionであるが故に人がついてくる。それは従うことがフォロワーの義務と考えるからです。逆に言えばリーダーでなくなったら誰もいうことなど聞こうとしないかもしれません。

ちょっとネガティブに聞こえ、低レベルになのかと思うかもしれませんけれど、誰でもリーダーになって最初の段階はここです。
自分はリーダーとして何をなすべきなのか?
フォロワーにどう働きかけ、何をしてもらうべきなのか?
そんなことを考えている時点ですでにリーダーとしてのPositionから他者に関わってしまっているわけです。

「私がリーダーなんだから、みんなついてきてよ」
みたいな考え方に無意識に支配されていて、それが言動や行動に現れます。
でも、それが極めて自然であり、そこを否定しては自らのアイデンティティ・クライシスにもなりますし、周りから見ても頼りないブレブレの存在に見えてしまうでしょう。リーダー然としていることは最初は必要でしょうし、悪いことではありません。

ただ、ここに留まらずに、次の段階に進むことが大事です。

第二段階:Relationship(関係性)のリーダーシップ

第二段階はRelationship、相手との良好な関係性によるリーダーシップです。
フォロワーはあなたが好きだから、あなたと一緒に仕事がしたいから、あなたとの関係を大切に思っているからついてきます。

John Maxwellはこの状態をPermission(許可とか同意)のLeadershipとも呼んでいます。ちょっと分かりにくいかもしれませんけれど、権力のある人に言われたからやるのではなく、言われた以上のことをその人と一緒にやりたいと望む関係性を作ることを自身に許可している、みたいな感じかなと思います。

なぜ言われたこと以上のことをやろうとするか?
それはその根底に相互理解を通じた相互信頼があり、その安心感(心理的安全性と言っても良いかもしれません)から心地よさ、楽しさを感じるからでしょう。実際このレベルの関わりのできるリーダーがいるチームは仕事をするのが楽しいとか、会社に行くのが楽しいとかの状態になります。

リーダーの成長において最も重要なことの一つが、決してこのレベルと飛び越えて先にいかないこと、だとJohn Maxwellは説いています。なぜならば、人と人とが一緒に働く上でこの部分は精神的な繋がりに関わってくるからです。
最も繊細で壊れやすいものでもありますし、簡単に作れるものではありません。実際多くの有能なリーダーはこのレベルをよくスキップして次のレベルに行ってしまうことが多いです。でもそうすると後になって関係性がギスギスしてきたりするのです。

その一方で、このレベルにずっと留まっているだけでは「仲良しクラブ」的になってしまいます。ここでの関係性をしっかり拵えた上で次のレベルに進む必要があります。

第三段階:Results(成果)のリーダーシップ

三つ目の段階はResults、つまり成果を出すことによって人がついてくるリーダーシップです。言い方を変えると、あなたと仕事をすると成果を上げられるから人がついてくるということです。

John Maxwellはこの状態をProduction(生産)のLeadershipとも呼んでいます。
つまりリーダーと一緒に何らかのタスクやプロジェクトを行い、みんな一緒に一人ではできないような大きな成果を成し遂げることによって、達成感と有能感に満たされている状態を作り出しているわけです。

リーダーとなったその人と一緒に仕事をすると成果が出るのかどうかは一緒に仕事をするまで分かりませんから、おそらくですがリーダーが実績を出してきている人であるかどうかの評判を聞いて「この人はデキる人だから、一緒に仕事をしたらうまくいきそうだ」的に考え、ついてゆくのだと思います。

組織で人が集まる以上、そこには組織の目的や業務の目標があるでしょう。どんなにチームの関係性が良くても、一緒にしていて成果がいつも出ないようであればお互いに無能感に苛まれ、傷の舐め合いをするだけのチームのようになってしまうかもしれません。
信頼関係ができてきたら「よし、みんなで頑張ってこれの結果を出そうよ!」みたいになり、みんなの力で成果に繋げればチームの結束もより強くなるものです。

リーダーの成長はここでは終わりません。
単発の成果を出すか出さないかを超えて、継続的に人がついてくるようにするためには次の段階に行くことが必要です。

第四段階:Re-productrion(再生産)のリーダーシップ

第四段階は、Re-production、すなわち人が成長してゆく環境を作ることによって人がついてくるということです。つまり、あなたと仕事をすると自分が成長できるからついていこうと考えてもらってるということですね。

John Maxwellはこの状態をPeople Development(人材育成)のLeadershipとも呼んでいます。文字通り人材開発が上手いリーダーであるということです。

このレベルのリーダーは二つのことをしていると思います。
一つはメンバーの行動を成果をよく見て、できているところを認め、さらに良くなってゆくためのフィードバックを与えることで、相手の成長を応援、支援すること。
例えば、One on oneでのフィードバックや、メンバーのキャリアについて興味を持ち本人の成長のためのアドバイスやリソースを提供すること、などがそれにあたります。

もうひとつは、メンバーが成長する環境を提供すること。
これは必ずしもメンバーにとっては歓迎することではないかもしれません。多少嫌がられることになったとして、相手の成長のためと考えてその人の能力を伸ばすためのタフなタスクを与えたり、やったことがないことにトライさせたりということです。
「面倒なこと言ってくるなぁ」と一旦は思われてしまったとしても、後で振り返ったときに「あの時は大変だったけれど、あそこで私はすごく能力が伸びた。かけがえの無い体験だった」と思えるようなそんな体験を提供できるのがRe-productionのリーダーシップです。

最終段階:Respect(尊敬)のリーダーシップ

リーダーの成長段階としての究極はRespect、つまり尊敬によるリーダーシップです。人々はあなたのことを心から純粋に、尊敬してるから、心酔してるからついてきます。

John MaxwellはこのレベルのことをPinnacle(頂点)のLeadershipと呼んでいます。文字通り究極の姿ですね。
このレベルでは、成果とか成長とかではなく、その人の人間性に惚れ込んでいるからこそついてゆくわけで、その結果としてより以上に頑張るから成果も出るし、自分の限界を越えようとするから成長も起きるのです。

なかなか行き着くことができるものではない境地ですし、John Maxwellも誰がそのレベルに達しているとは本にも書いていないのですが、私のメンターが例えばと言って例に出したのは、ネルソン・マンデラマハトマ・ガンジーでした。

彼らもおそらく、生まれた時から尊敬を集めたリーダーであったわけでは無いと思いますので、何らかの経験を通じてリーダーシップのレベルを上がっていったのだろうとは思います。
これは私の想像ですが、彼らは決してこのレベルのどこかをスキップしたりとか近道をしようとはしていなかったのではないかと思います。地道にコツコツと積み上げつつ、自分の軸はブラさないで彼らの理想に向かっていった…
そこに人は感動し、その姿勢を尊敬し、ついて行こうとなったのではないかなと私は思います。

自身のリーダーシップを振り返って思うこと

私自身が最初にリーダーシップを意識したのは四半世紀以上前に管理職になって部下を持った時でした。
その時にキャリアショックに陥ったことは別のnoteに書かせていただきましたけれど、やはり最初に発揮したのは間違いなくRightのリーダーシップでした。

人事から経営企画にやってきた私は、仕事のこともよく分からなければ業務能力的にも明らかに部下に劣っていたと思います。でも仕事をしてもらわないといけないから、そのための指示をする。
不本意ながらマネジャーの言うことだから聞いてくれ、みたいな関わりになっていましたし、部下も「上司が言うんじゃしょうがない」と渋々応えていました。

チームの雰囲気が良くない、皆が楽しそうに仕事をしていないと感じた私は、私自身がキャリア・ショックでグラグラのブレブレの状態ではありましたけれど、メンバーと食事会をしようと考えました。
正直、会社からは一刻も早く帰りたいような精神状態ではあったのですが、この険悪な感じは放って置けないと思ったからです。

幸いなことに、美味しいものを食べることは皆が好きだったので、居酒屋ではなくちょっと良いレストランを予約し、私のポケットマネーで皆が食べたいものを食べながら、メンバーそれぞれが日頃どのようなことを考えながら仕事しているのかをただただ聞き、知らなかったことには素直に驚き、その一方で自分の悩みも吐露しました。

その翌朝、メンバーから「おはようございます」とにっこり挨拶がありました。思えばそれまで会社に来てから黙って仕事をしていたのだと気づきました。
「あ、おはよう。昨日は楽しかったね」
そこからRelationshipのリーダーシップが始まりました。

その後私は、経営企画やマーケティングのことを必死で勉強し、部下の知識に追いつこうとしました。
そんなある時、副社長とのプロジェクト・レビューで役員から質問された部下が言葉に詰まった時に、勉強した知識をもとに「そこはこう言うことなんです」と助け舟を入れて部下のプレゼンを援護しました。

その後で部下から「ありがとうございます、助かりました」の一言に私は、
「よく頑張っていたね。私の言ったことピントはずれてなかったかな?まだまだ勉強中でさ」
と頭を掻きながら言いました。
「でも、君の準備が良かったからだよ。プレゼン、うまく行ってよかったね」
部下は自身に満ちた表情になりました。Resultsのリーダーシップ、ちょっとだけできたかな、と思いました。

別の機会では、マーケット・リサーチの補佐役ばかりやっている女性の部下に、シックス・シグマのプロジェクトをアサインしたことがあります。
本人は「私なんてできません」と言って嫌がっていましたけれど、そこを何とか説き伏せてグリーン・ベルトのトレーニングに送り出しました。もともと頭の良い人だったので、統計のことに興味を持ち、プロジェクトの進捗は順調でした

そこで私は、プロジェクトの最終レビューの前にレビュワー一人一人にコンタクトしました。そこで伝えました。
嫌がっていた彼女が頑張っていること、すごく頑張り屋でプロジェクトの進捗も素晴らしいこと、彼女のプレゼンを注意深く聞いて、良いと思ったところを褒め、さらに良くなるところへのアドバイスをしてもらいたいこと…
レビューでは、彼女は尊敬しているシックスシグマのマスター・ブラックベルトから素晴らしい分析でありプロジェクトだと褒められ、眼をうるうるさせて感激していたようでした。

その後、彼女はすっかり自信をつけ、補佐役ではなく自分からマーケット・リサーチのプロジェクトをリードしたいと言うようになりました。
これがRe-productionのリーダーシップになると言えるかはわかりませんが、彼女の成長が私にとってこの上ない喜びだったことは間違いありません。

このリーダーシップの5レベルは、必ずしも段階を踏んで登っていくというわけでもありません。第二段階から第一段階に一旦落ちることもあります。

例えば、同じチームで仕事をしていたあるメンバーが管理職に抜擢された時、それまで他のメンバーと良い関係性を持っていたとしても、周りの見る目は変わってしまいます。
そこで今までの関係性に頼って馴れ馴れしく話しかけたり、なぁなぁで済まそうとしてもそうはいかなかったりします。リーダーになった時点で、相手との関係性はもう一回作り直すことになるのです。

その意味で、5レベルリーダーシップはとても良くできていて、無理せずに最初のレベルからきちんと積み上げてゆく考え方をすることが大切であることを教えてくれます。


興味を持たれた方は、最もわかりやすいと思われる日本語訳の本が出ていますので読まれていかがでしょうか。
もう20年近く前に書かれた本ではありますが、内容的には今読んでも十分に素晴らしいものだと私は思います。

今あらためてこの本を読み直してみて、私などはおそらくいつまで経っても最終段階には到達できないだろうなと本当に思います。

でも、人事に携わり人を育成することを使命とする者として、第四段階には到達したいものだなとは思います。

まだまだ道は遠いんですけれど、ね。

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