組織開発をDXする
在宅勤務やハイブリッドな働き方、ギグ・ワーカーの登場など多様な働き方が組織の形とあり方を変え始めています。
「いつ・どこ・誰」が非固定となるニューノーマルの新しい働き方が現れつつある今、旧態依然とした組織開発は機能しなくなりつつあり、デジタルが可能にする新たな組織開発を私たちは模索し始めています。
新たな時代の組織開発に正解はなく、試行錯誤をしながら実践知を結集し、継続的に新たな方法を探究する中から出現するでしょう。
ここ2年ぐらいの急激な社会の変化が組織にどのような影響を与えてきたのかを振り返って整理し、組織開発の新たな可能性の入口について考えてみます。
組織開発の前提
組織開発は、20世紀半ばにグループの中での人間関係がどのようにパフォーマンスに影響を及ぼしてゆくのかを外部からの観察で明らかにしようとした試みからスタートをしたというのが私の理解です。
話されている内容や課題(Content)ではなく、それが表に出てくるまでにそれぞれの個人の中で何が起きているのか(Process)、それがグループ内の人々の関係性に相互にどのように影響を及ぼしてゆくのか。
言い方を変えると、「今ココで何が起きているのか」のプロセスに光をあててそれを皆が共有するところから組織開発は始まっています。
組織開発はそこからさまざまな考え方や手法を取り入れて大きく膨れ上がり、次第に何が組織開発であるのかはぼやけてゆき、漠然とした概念的なものに今はなっています。
会えて、組織開発のわかりやすい例を挙げるとするならば、それは「チーム・ビルディング」でしょう。お互いを知り信頼関係ができることで批判的な意見の応酬ではなく建設的な意見の交換が起きるようにすることができることを目的としているのがチーム・ビルディングであり、それ自体はそれほど難しいものではないことは別noteでも述べさせていただきました。
しかしながら、チーム・ビルディングを含めた組織開発にある前提は、時間、空間、人間の三つの「間」が固定で共有されているというのがあります。
ゆえに、やり方もワークショップやオフサイト・ミーティングなどで全員を一箇所に集め、まとまった時間を共有して共同しながら一つのアウトプットを出したり、共通の理解を作り出したりということをしてきてました。
今起きている環境の変化
ところが、21世紀に入ったあたりから徐々にこの前提が覆り始めます。
前提が変わらざるを得なくなった理由の根底には、世の中がVUCA(Volatile, Uncertain, Complex, Ambiguous)化したことがあります。
VUCAを日本語で言うと、「移ろいやすい」「不確実」「複雑」「先行き不透明」と言うことになりますが、一言で言えば、変化が激しくそのスピードも速いので時間をかけてプランを精緻に作っても、プランを作った時の状況や前提が変わってしまいプランを走らせてから数ヶ月でプランそのものも、プランが出すはずだったアウトプットも陳腐化してしまうような状態、ということです。
そうなってくると、プランは「暫定」でしか作れず、プランを走らせながら状況や前提が変わってしまっていないかを頻繁に振り返り、柔軟にプランや場合によってはアウトプットを変更しながら先に進めるしかありません。
あるいは、状況や前提が変わる前に小さなアウトプットが確実に出るような短期のプランを作り、それが終わったら次という具合に小刻みにプランを積み重ねて動かしてゆくやり方になるでしょう。
いわゆるアジャイルなやり方です。
ゆっくりチームビルディングしてからプロジェクトやプランを粛々と動かしてゆくような悠長な時代ではなくなったのです…
これに加え、ここ数年でパンデミックとテクノロジーの進化が起き、ハイブリッド・ワークやフレキシブル・ワークの導入が進み、「ニュー・ノーマル」と呼ばれる新たな働き方の形が社会的に認知されるようになってきました。
ニュー・ノーマルの働き方においては、人はオフィスに集まらずそれぞれが別々の場所から共通のバーチャル・ワークプレイスにアクセスをしたり、シェアポイントやオンライン・ボードを使ってそれぞれの意見を時間差で共有しています。
また、副業やスポット・コンサルティングのような外部リソースを、タスク単位・時間単位で企業が活用できるギグ・ワーカーもこれから増えてくると思われます。
すなわち、組織そのものであり、仕事の仕方において「いつでも」「どこでも」「誰とでも」が可能になったのです。
この状態当たり前になると、前節で述べた組織開発の前提は崩れてしまうことになります。それをあえて言葉にすると「静的なチーム(Static Team)」が「動的なチーム(Dynamic Team)」に変わってゆくということではないか、と私は考えています。
DXとはIT化にあらず
ここでDXとはどういうことなのかについてもちょっと整理をしてみましょう。
DXはDigital Transformationのことを指し、ウィキべディアによると2004年に提唱された「IT(Information Technology)の浸透により人々の生活があらゆる面でより良い方向に変化する」という仮説に端を発してるとのことです。
ここから、今までやっていたことをITを使ってやるとDXであると捉えている人もいますが、実際にDXが意味するところはもっと次元の違うものです。
DXはプロセスやアプローチを単にデジタルで置き換えるものではなく、プロセスやアプローチをデジタルを活かすカタチに変えてゆくことなのです。
例えば、書類にハンコを押す、というプロセスをPDFと電子署名にするのはIT化です。今までは紙でやっていたものがファイルに変わっただけです。
しかし、PDFにせずに承認プロセス自体を何らかのワークフローに変えればそれはDXになります。
紙がなくなりファイル管理がなくなることで大幅に効率化ができますが、今まで紙に頼ってきたやり方はできなくなり、紙がなくても回るようにビジネスプロセスをワークフロー側に合わせることになります。
組織開発のコンテキストにおけるDX
では、組織開発においてDXするとはどういうことになるでしょうか。
私が組織の中で実験をしたり、他社の事例を聞く中でこういうのがそうかもしれないと思えたものについて述べてみます。
チーム・ビルティングや組織開発のワークショップはオンラインでも可能です。
zoomを使ってカメラをオンにして全員の顔を正面に見ながらの対話は不自然ではありますが、実行可能でしょう。
これは対話のIT化であり、このレベルで止まってしまうとオンライン化により対話の効果は逓減してしまいます。なぜならばリアルであれば感じられる存在感は小さくなり共にいることから得られる情報量も少なくなってしまうからです。
DXのように考えるのであれば、このような単なる対話のオンライン化は避け、オンラインで行うからこそ出てくる別の効果に着目すべきです。さらに言えば、オンラインであることを活かして、従来以上の効果を出すのです。
その方法の一つとしてやってみて面白い効果があったのが「非同期対話(Asynchronous Dialogue)」でした。
以下のコラムでちょっと整理しています。
やっていることはそれほど大層な物には見えないかもしれませんが、出てくる効果は従来の組織開発では出てこなかったものです。
例えば、ワークショップで問いを投げかけられても、すぐにリアクションを返せる人ばかりではありません。
内省的な人は一旦自分の中で味わうようによく考えてから出ないと意見が言えなかったりしますし、特定の個人のリアクションが気になって言いたいことがその場で言えなかったりする人がいます。リアルの場では声の大きい人やコミュニケーションスキルの高い人が場を掌握してしまい、それができない人の意見は圧殺されてしまいますが、実はそういう圧殺されてしまう人の意見が貴重だったりします。
この辺りは、心理的安全性に関する本の中でスペース・シャトルの事故の事例で語られていたりしますね。
今までの全員が同じ場で同じ時間を共有するワークショップからすると邪道としか思えない時間差インプットが、日頃意見を言えない人たちが参加し意見を言えるようにするインクルーシブな状況を作り出していました。
すなわち、デジタルにより今までに出てこなかった効果が立ち上がってきたわけで、こういうのが組織開発のDXだと私は考えています。
組織開発のDXはこれから立ち上がる
ニュー・ノーマルな働き方というのは、デジタルオンリーではないでしょう。
むしろデジタルとアナログの良いところどりをしながら、継続的に変わってゆくことになるのだと思います。
つまり、組織や働き方はまだまだダイナミックに変わってゆくわけです。
そして、そのような状態での組織開発というのは世界的にまだまだ事例が少なく、手本はなく、それぞれが手探りで作ってゆくものになります。
よって組織開発は、ニーズを聞いて設計して実施するようなものではなく、Adaptive Approach、すなわち、いくつかの手段や手法で組織開発のプロセスを暫定的にデザインし、効果を確かめながら修正し進めてゆくものになるでしょう。
それは発展途上であるとも言えますが、ダイナミックに新たなものが発明される最もエキサイティングな領域なのではないかと私は考えています。
今月末(2022年5月)の29日に、「デジタルファシリテーションと新しいOD(組織開発)の可能性を考える」というテーマで、無料の講演と参加者同士の対話の機会をセットしています。
このnoteを読んでOD(組織開発)のDXに興味を持たれた方はぜひ参加してみてください。
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