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なぜリモートワークで人が壊れてゆくのか?

3年間に渡った新型コロナウィルスによるパンデミックも、ここにきて(2023年2月)ようやく落ち着いてきて人類にとっての驚異という段階は終息したと言っても良い状態になってきました。

この流れに伴い日本でも徐々にRTO(Return to Office)が定着しつつあると思います。リモートワークで仕事ができることが分かったので、部分的にそれを認めることはあっても出社して仕事をすることを基本とする形でのハイブリッド・ワークスタイルが、(業種にもよると思いますが)主流になっているのではないでしょうか。

私の会社でも昨年7月ぐらいから徐々にRTOを始めていますが、その少し前ぐらいの時期から急激にメンタル不調を起こす社員が増えてきました。
具体的には、適応障害とか鬱の症状で休職に入ったり、退職してしまったりしました

それまで元気に働いていたように見えていたにも関わらず、ここにきて急に調子が悪くなったのは決してRTOで会社に来たくないからではなく、どうやら長く続いたリモートワークによる精神的なストレスが臨界点に達してしまったからのようです。
…と言い切れるのは、休む人や辞める人の話から聞こえてくるのは「疲れてしまった」とか「もう堪らない」という声があるからです。

リモートワークがどのようにして徐々に人の精神を蝕んでいってしまうのか、リモートワークに関する調査から得られた情報や私の会社の社員へのヒアリングから聞こえてきたことを交えながら考察してみます。

オンラインミーティングというチャレンジ

緊急事態宣言が出たことで緊急避難的に在宅勤務がスタートし、zoomやMicrosoft Teamsでのオンラインミーティングが日常となりました。
人によっては、朝から晩までずっとオンラインミーティングが入っているようなスケジュールになっている人もいました。
そんな中で「オンラインミーティングは一日3回までが限界である」という情報が入ってきました。

一日4回以上リモートワークで会議をしている人のストレス度が高いということのようですが、どうやら海外でも同様の研究がなされているようです。

3回という数字の信頼性はともかく、オンラインミーティングがなぜストレスになるのかの理由はいろいろ考えられます。

まず、視線が合わないこと。相手が何を考えているのかを目を見て感じ取ることを人は自然に行なっていますがオンラインミーティングではカメラを通じていることと同期の遅れなどからリアルに目が合ってる感覚は得られません。

体全体が見えない一方で、常に正面の顔を映していることも人によってはストレスでしょう。体の動き、手の動きがわからないのでコミュニケーションが取りにくい感覚が強くあると思います。

細かいところだと、複数の人が同時に話すと言ってることがキャッチしにくくなることもあります。
他にもいろいろあると思いますが、対面の会議に比べるとオンラインミーティングは明らかに制限事項が多く、プレゼンテーション型の会議であればなんとかなりますが、複数の人間が意見交換を行う場合には向いていません

でも、私たちはそれをやっています。すると、どうなるか。
無意識にではありますが、リアルの会議であれば得られる見えない情報を補うためにフルに頭の働かせることになります。
目が合わないけれどこんなことを考えているかもしれない、とか。喋っていない人が何を考えているだろうか、とか。
これはとんでもなく疲れることです。

あるいは、おそらくほとんどの人は、オンラインミーティングがあることで裏画面で別の仕事もしているのではないでしょうか。メールが入ってきたらそちらに意識が行ってしまい、おもらず開いてしまったがために頭の中が別の案件に支配される…
そんなことはないでしょうか。

オンラインミーティングに集中していれば、見えない情報を補うために頭がフル回転しますし、内職を始めたら始めたで今度はマルチタスクで頭の中が混乱してきます。
いずれにしてもオンラインミーティングをいくつも詰め込んで行い続けることはかなり精神を消耗することになります。

余白と隙間、休み時間

リモートワークでも会議は、ワンクリックで会議に参加できますし、同じくワンクリックで退室することができます。
手軽で便利ではありますが、これが切れ目なく会議が続く状況を作りがちです。

対面で会議をしていた時は、会議が終わると会議室から自分のデスクに移動したり、別の会議室に移動したりの時間がありました。
その隙間のような時間に気分転換ができたり、仕事仲間との雑談ができました。

しかし、オンラインミーティングは得てして初めに議題が決まっていて、その議題に関して話し合ったら会議は終了、そこからは即自分のデスクワークに戻ることになります。
つまり、仕事の中に余白のようなものがなくなってしまうのです。

同僚が「朝から晩まで切れ目なくミーティングがあるので疲れてしまう」と言っていました。
彼女の場合は自分のカレンダーを社内でオープンにしていて、空き時間にどんどんミーティングを入れてもらって良いと言っていたらしいのですが、ステータスが「話し中」となったときに彼女を話したい人が彼女の時間を予約する意味でTeamsの会議のInviteをどんどん送ってくるのでした。
結果、一つのミーティングが終わるとその先の予定が埋まってしまっていて、自分のことをやる時間が全く取れなかったようです。

忙しそうに「すみません、次のミーティングがあるんで」と30分刻みぐらいで会議に入ってきては抜けていく様子を見て、かなりヤバい状況だと思いましたが、それから少ししてから彼女は体を壊して数日休むことになりました。

孤独感に追い込まれる

対面で仕事をしていたには、目の間のデスクに誰かが座っていました。
ちょっとしたことを聞きたい時には相手に声をかけて教えてもらうこともできました。リモートになるとそれはできません。

相手の様子がわからないので声をかけにくいわけです。
あらためてミーティングをセットできるほど相談事というのは固まっているものばかりではありません。何気なく話を聞いてもらっている中から自分が何で困っているのか、どうすれば良いのかが見えてくることの方が多いのではないでしょうか。

リモートワークでの会議は先ほども触れたように、会議としてセットされているので議題がありアジェンダがあり、時間制限があります。
そこまでするほどではないと思うと相談すること自体を諦めて、みんな忙しそうだし自分でなんとかしようという具合になってゆきます。

このようにして「誰にも相談できない孤独感」の中に沈没してしまう人もいます。
特にパンデミックの期間中に入ってきた新入社員にはこのパターンが多くありました。いろいろ聞きたいことがあるのだけれど、聞かずに自分で調べないといけない。でも調べた結果があっているのかどうかが分からず不安なので誰かに相談したい…
でも、タイムリーに相談ができずにモヤモヤを抱えたまま行動を起こし、うまくいかなくて悩んでしまうのだけれど、それも相談する相手がいない…

孤独感だけでなく無力感と絶望的な感覚を持ってしまい、残念なことに鬱症状に入る人も出てきました。
自分から聞くことができなくても、一緒にいれば周りが様子がおかしいと察することができたのですが、リモートワークではそれができません。相談できずに辛い状態であることが見えないので誰も関わらなくなってしまうのです。

何が解決策となり得るのか?

このnoteの冒頭にリモートワーク慣れしただろうと思っていてRTOが見えてきたという矢先にメンタルの人が増えてきたと書きました。
実際にはRTOが近くなったからではなく、これまでのリモートワークで蓄積していたストレスが閾値を越えてしまったために壊れる人が続出しているのだということは、社員へのヒアリングから分かってきたことです。

一方で、どうしたら壊れる人を出さないで済むのかも段々とわかってきました。
最後にいくつか発見してきたことを挙げておきたいと思います。

まず、意図的に休憩を挟むこと、です。
以前別のnoteで勤怠管理について触れた時に休憩は大切であると書きました。
切れ目なく会議を挟んでパソコンに向かって作業をし続けては疲れてしまいます。リアルに出社していた時には移動時間などで自然に取れていた気分転換や休憩は意図的に挟まないとリモートワークでは憔悴してしまいます。
理想的には1時間の枠で50分働いたら10分休む。25分で5分でも良いかもしれません。

ずっと部屋の中にいないで、たまには部屋から外に出て太陽の光を浴びてきたり、コンビニに何かを買いに行っても良いでしょう。じっとしているのではなく動き回ることで気分を変えるのです。禅でいう「一息半歩」ですね。
また、逆に10分から15分間の仮眠をとることをしても良いと思います。在宅勤務の場合は、会議で集中した後5分の空き時間ができたらそこでベッドに横になって目を瞑って体を伸ばしてみるくらいやっても良いと思います。その後の生産性が爆上がりするわけですから。

実は効果があるのが、チャットを活用すること、です。
ちょっとしたことの相談をしたい時に、チャットに「時間ができた時にちょっと話せる?」を打っておきます。こうすれば相手が集中している時でも邪魔をせずに、チャットを見れた時に連絡をくれます。そこで音声を繋いで相談をすれば良いでしょう。

職場の仲間でグループチャットを作り、それを始業時から就業時まで立ち上げっぱなしにしておくと「共にいる」感覚が得られます。
「そろそろ仕事たたむねー」
「お疲れ!」
みたいなやりとりが、音声ではなく相手の仕事の邪魔をすることなく、文字で行われることになります。チャットの場合は絵文字やGIFも使えるので、メールと違って緩みのある表現でのコミュニケーションが取れます。

そして最後にもう一つ。
「議題のないミーティング」を定期的に行うことをお勧めします。
私は「チェックイン」と呼んでいますけれど、オンラインミーティングでカメラをオンにして一緒にランチを食べる、みたいなものでも良いかと思います。

これはオンラインミーティングの中で語れないことを語るための時間です。
たわいのない話や仕事に関係のない話でも構わないと思いますし、愚痴を聞いてあげるための時間であっても決して悪くはないと思います。
この時間があることでお互いの様子がわかりますし、自分と同じように他の人も頑張っていることが伝わると頑張ろうと思えるのではないでしょうか。

お互いの様子がわかるということは、ストレスがたまっているのかいないのか、健康に影響が出ているのか出ていないのかがわかることにもなりますので、リモートワークによって壊れて行かないようにする予防であり、兆候を掴むためにはとても有効です。


パンデミックで一般的になったリモートワークは、今後も続いてゆくことになると思います。ハイブリッドな働き方が主流になるとは思いますが、様々な事情がからフルリモートが継続する人もいると思います。

自分がそうなったら、ここで書いてきたことを自身でやってみられると良いかなと思いますし、職場の誰かがそうなったら、前半で書いてきたようなことがその誰かに起こっていないかを気にしてみてください。

たとえリモートワークで別々の場所にいたとしても、私たちは誰かと繋がって仕事をしているのですから。


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