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[レインボーリール東京2019]LGBTショートフィルムの魅力

毎年、7月に開催され、今年で28回目となった「レインボーリール東京〜東京国際レズビアン&ゲイ映画祭」は、日本のLGBT関連の中ではもっとも長く継続しているイベントです。

劇場公開されたり、DVDなどのリリースや配信される機会も少ない世界のLGBT関連の映画を見られる貴重な映画祭なので、毎年通い続けるファンも多いです。

かくいう僕もその一人であり、毎年なるべく多くの作品を見ては、その記録を何らかの形で残していきたいと考えています。

この映画祭でしか見る機会のない作品が少なくないですが、中でもショートフィルムを集めた「短編映画集」は、ほぼ確実に一期一会の作品ばかりです。それゆえ、毎年「短編映画集」だけは絶対見逃さないようにしています。

ショートフィルムは長編映画と違って、絞り込んだテーマ(1つ、ないしは2つ)を10分〜30分程度の長さで描くもので、短いゆえにアイデア・脚本・演技・演出などの力量がはっきり現れます。「おおっ」と驚かされたり、「やるな」とニンマリさせられたり、ストレートに感動させられたりと、好みの作品に出会えるとクセになってしまうこと確実です。

レインボーリール東京では、欧米のショートフィルムを中心に「短編映画集」を上映していましたが、2016年からは、アジアと環太平洋諸国のショートフィルムを上映するようになりました。

その理由は、2015年に設立されたAPAC(Asia Pacific Queer Film Festival Alliance/アジアと環太平洋諸国の18のLGBT映画祭の連盟)にレインボーリール東京が参加したからです。2016年以降、レインボーリール東京では毎年、APAC加盟の映画祭が推薦する短編映画集を上映しています。

2016年以降のラインナップを列挙すると。

<2016年>
「虎の威を借りる狐」インドネシア
「ソウォル路の夜」韓国
「ママには言えない私の秘密」台湾
「スクールデイズ」香港
<2017年>
「始まりの駅」アメリカ・中国
「晴れ舞台」パキスタン
「誕生日パーティー」アメリカ
「ある日」インド
「モモ」韓国
「ダム」オーストラリア
<2018年>
「新入生」オーストラリア
「言葉にできない」インド
「繭」中国
「ルッキング・フォー?」台湾
※太字の作品は特に印象に残っているもの。

それまでほとんど見る機会のなかったアジア各国のLGBTショートフィルムを見られるようになったのは、何よりの収穫です。毎年の「短編映画集」がさらに楽しみになりました。

今年は「ブラックリップ」(オーストラリア)「ヒジュラーの恋」(インド)「ジェントルマン・スパ」(台湾)「最高のプレゼント」(タイ)「帰り道」(韓国)の5本が上映されました。

各作品の概要とその魅力をご紹介します。


『ブラックリップ』

孤独な日々の中で見つけた唯一の光
それは他人の彼氏だった

◾︎物語

密漁されたアワビを高値で売りさばく中国系移民ホン。しかし約束の時間にブツを届けてこないことを不審に思い、アワビの供給元の白人ダイバーを訪ねる。そこには彼氏とお楽しみ中のダイバーがいた。警察の取り締まりが厳しくて潜れない、というダイバーに引き取り金額を上げること条件に交渉するホン。渋々潜ってアワビを採ってきたダイバーから買い取って街に戻ろうとするホンだが、そこにダイバーの彼氏が声をかけてくる。彼氏との会話から2人の壊れかけた関係に気づくホン。そしてホン自身が抱える悶々とした欲望にも気づくのであった。

◾︎注目点

移民大国オーストラリアの都市には、様々な移民のコミュニティが存在します。アワビを密猟するダイバーから買い取って中華料理屋に横流しする商売をしている主人公のホンは、白人のダイバーと関わる以外は、ほぼ中国人としか交流しない中華系コミュニティで生活しています。

移民大国というと、多様性を受け入れている国のようなイメージがありますが、実際にオーストラリアに行くと、それは単なる妄想にすぎないことを実感します。もともと白豪主義であり、大英帝国への憧れが異様に強いプライド高き白人オージーは、有色人種に対して興味・関心を持ってない人が多いです。国を成り立たせるため時に応じて必要な人材を移民として受け入れていますが、決して多様性に溢れたフレンドリーな国という印象はありません。例えば、シドニーのゲイバーやハッテン場では、アジア人は空気のような扱いでスルーされることも珍しくありません。

そんなオーストラリアの狭い中華系コミュニティで暮らすホンが、自分の性的指向をオープンにできるはずもなく、孤独で寂しい生活をしているだろうことは想像に難くありません。だからこそ、ダイバーの彼氏(白人)と性的関わりを持てたことで大いに心が高揚したでしょうし、その喜びがぷっつり途切れたことで覚えた絶望の深さも理解できます。

短いながら、ゲイの孤独と切なさがじんわり染みてきて印象深かったです。そして主人公ホンを演じた役者さんの、飾らない男臭さが魅力的で目が離せませんでした。

[英題]Black Lips
[監督]エイドリアン・チャレラ
2018|オーストラリア|15 分|英語、北京語


『ヒジュラーの恋』

男としての本能に従うのか
第三の性として生きるのか

◾︎物語

インドで第三の性とされる「ヒジュラー」のコミュニティーに属するラッジョ。町で見かけた女性にひと目惚れしたラッジョは、コミュニティーと社会の両方から許されない恋に悩む。

◾︎注目点

インドやその影響の強いパキスタン、バングラデシュ、ネパールなど南アジアの国々では、「ヒジュラー」と呼ばれる男性でも女性でもないとされる存在が古来より認められています。もともとは、先天的に半陰陽(両性具有)として生まれたことで村社会で受け入れられなかった者を引き受けるカースト外の集団として誕生したと考えられているヒジュラーですが、肉体的には男性や、GID(性同一性障害)、トランス女性などもコミュニティーに加わりヒジュラーとして生活している例も多いといいます。

ヒジュラーのコミュニティは、導師を中心に複数名〜10名前後の弟子が集まって家族のように生活しています。

ヒンドゥー教の寺院で宗教的な儀礼に携わったり、新生児の誕生の祝福のために一般家庭に招かれ歌ったり踊ったりしてお祝いをする聖者としての生業を本来は生活の糧としていました。しかし現在では、大都市では男娼として売春したり、街中で人にチップを要求する物乞いとして暮らす者も少なくないため、不浄の存在として蔑まれることもあるそうです。

本作の主人公は、都会のヒジュラー・コミュニティで暮らす青年。ヒジュラーとしての稼ぎはよく、導師からも可愛がられている様子。しかし、彼は男性として飲食店の厨房でバイトもしており、そこの常連客である女性が気に入っているようです。ひょんなことからその彼女と仲良くなり、映画デートをすることになり浮かれる彼を見ていると、ヒジュラーとして生きていくことに迷いがあるのでは、と思ってしまいます。

デート当日、映画館入り口で彼女を待っていると、映画館に向かってくる彼女にヒジュラーがまとわりつきチップをせがむ様を目撃してしまいます。あからさまに迷惑そうな表情をする彼女と、それを気にせずチップを要求するヒジュラーたち。

自分がヒジュラーとしてどのように振る舞い、それがどのように見られているのか、その時に初めて客観的に見えてきた彼は、彼女に会わせる顔がなく逃げてしまいます。そしてヒジュラー・コミュニティに戻っては、絶望のあまり号泣するのでした。

果たして彼はヒジュラーとして生きていくのか、男として生きていくのか。アーティストでもある彼が最後に作り上げた彫像は女性でした。彼の人生の選択を、見る者の想像に任せる終わり方が印象に残りました。

[英題]Duality
[原題]Dvita
[監督]ヴィシャル・ヴァサント・アヒレ
2017|インド|15 min|ヒンディー語


『ジェントルマン・スパ』

好きになっても実らない
初めて知るゲイの恋愛の真実

◾︎物語

ゲイ向けマッサージ店で清掃員として働く青年ハオ。店の客カイと知り合いになったハオは、カイに水泳を教えてもらうことになる。次第にカイへの気持ちを募らせていくハオだが…。

◾︎注目点

台北に何軒もあるゲイ向けマッサージ店。均整のとれた体つきの爽やかマッチョな青年たちが、マッサージと称して個室で性的なサービスをするシステムで人気を集めています。

そこで部屋の清掃スタッフとして働くハオは、マッサージ・ボーイたちとは大違いのデブ体型。お菓子大好きなハオは、周囲のマッサージ・ボーイとも仲良くやっていて、そこそこ楽しい毎日を送っているようでしたが、ある日、個室に忘れられていた財布を持ち主のお客カイに届けたことから、彼の苦悩が始まります。

既婚の水泳教師であるカイは、誰にでも優しくして無意識に人を傷つけてしまうタイプ。財布を届けてくれたハオにも当然のように優しく対応したのですが、ハオはその優しさを「自分に対する好意」だと勘違いしてしまいます。

ゲイとしての経験を少しは重ねていれば、「お金を払ってマッサージ・ボーイを指名するカイの好みは均整のとれたマッチョ体型だから、自分のようなデブは好みではないはず」と理解して岡惚れ(相手の気持ちがよく分からないのに恋すること)なんてしないものですが、恋愛経験に乏しいハオは一気にカイを好きになってしまいます。

年代や体型、髪型など好みのタイプがはっきりしている人が多いゲイの世界では、夢のような大逆転が起きる可能性は非常に少ないわけで、成就しない恋に苦悩するハオには厳しい現実が待っています。

その後、ハッテン場でデブ専の細身マッチョとお互いの体(腹)を褒めあう会話で映画が終わったところから察するに、ハオもゲイの世界の現実を知り自分を受け入れてくれる相手を探し始めた模様。厳しい現実を知り、ゲイの世界に一歩踏み出した青年の成長物語として、味わい深い作品でした。

[英題]Gentleman Spa
[原題]癡情馬殺雞
[監督]ユー・ジーハン
2019|台湾|18 min|北京語


『最高のプレゼント』

自分の居場所が不安定だと知り
困惑するトランス男子高校生

◾︎物語

男の子の服を着て男友達とつるむ少女イスフィ。親友ニタの誕生日が近づき、イスフィはニタを喜ばせるプレゼントを考える。ヴェネチア国際映画祭 2018 オリゾンティ部門短編映画賞受賞。

◾︎注目点

舞台はインドネシアの高校、トランス男性のイスフィは男として同級生男子とつるんでいましたが、親友女子高生ニタには事実を伝えていて、彼女の家に遊びに行く時はヒジャブ(ムスリムの女性が頭髪を隠す布)を被り女子を装いニタと同じベッドで眠ったりもします。

学校でつるんでいる男子校生たちはイスフィをトランス男子だとは思っていないようで、イスフィにとっては学校とニタという2つの居場所があり、それなりに楽しく暮らせていると思っていた模様でした。

男子仲間の一人の誕生日に、他の仲間たちがサプライズのお祝いを計画。それは童貞の彼に娼婦をあてがい童貞喪失させようというものです。イスフィは仲間たちとともに彼を車に乗せて、街娼が立ち並ぶ通りを走ります。

仲間の一人が窓外の綺麗なお姉さんに声をかけたところ、その彼女はレディ・ーボーイ(トランス女性)で、「うわあ、気持ち悪りい!」と馬鹿みたいに盛り上がる男子たち。それまで楽しそうにしていたイスフィは急に表情を失います。

トランス女性を受け付けず冗談の種にして盛り上がる男子の中にいて、トランス男性のイスフィは自分の居場所だと思っていたところを失っていくような気持ちになったのでしょう。

表情を失ったイスフィの顔のアップで映画は終わります。イスフィはこの先、自分の居場所を見つけることができるのか。イスフィの将来に幸あれと思わざるをえない幕切れでした。

[英題]Gift
[原題]Kado
[監督]アディティア・アフマッド
2018|インドネシア|15 min|インドネシア語、マカッサル語


『帰り道』

痴漢のトラウマと親友への恋心
2つの問題を乗り越えていく少女

◾︎物語

下校中に見知らぬ男に胸をつかまれた女子高生ムニョンは、いつもの通学路を避けるようになる。親友ウンジェは様子のおかしいムニョンを心配するが、ムニョンは理由を話そうとしない。

◾︎注目点

韓国の高校を舞台に、親友の二人の少女を中心にした物語です。

エンターテインメントにおいては、アジアの中でも圧倒的な力を見せる韓国作品らしく、今作も物語のアイデア、構成、演出、演技など、他の作品を凌駕する完成度の高さでした。

ここで描かれるテーマは2つです。家の近所の道で痴漢に襲われてトラウマを抱えてムニョン。そして彼女は親友の少女ウンジェに恋しています。

学校帰りにムニョンの家にウンジェが遊びに来るのが毎日のルーティーン。ところがある日を境に突然ムニョンはいつもの道を通るのを嫌い、階段を登る遠回りのルートで帰りたいと主張します。いつものルートは痴漢に襲われたところであり、トラウマを抱えたムニョンはその道を通ることができないのです。

理由を明かさないムニョンを不審に思うウンジェ。さらにムニョンはウンジェへの恋心が強くなっていき、悩みが深くなるばかり。

結末を重くも暗くもできそうな展開ですが、今作では主人公ムニョンが見事に悩みを乗り越え成長した姿を見せて終わります。恋心を告げられたウンジェとの関係がどうなるのかは観客の想像に委ねながら、爽快感の残るラストでした。

[英題]A Blind Alley
[原題]골목길
[監督]オ・スヨン
2017|韓国|27 min|韓国語


今年の「短編映画集」は、クオリティーの高い粒ぞろいの作品が揃っていると感じました。その中でも出色である「帰り道」をラストに持ってきたのは大正解でした。単純なハッピーエンドではないものの鑑賞後に爽やかな気持ちが残ると、プログラム全体の印象もよくなるものです。

また、来年も魅力的なショートフィルムに出会えることを期待しています。





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