【内容言及】アニメ『君たちはどう生きるか』で示される二つの矛盾と解消と想像世界の構造
アニメ『君たちはどう生きるか』には主人公・牧眞人の抱える二つの矛盾が登場し、それが作品内の現実と想像とを繋ぐ原動力になっています。登場する多次元宇宙の中のひとつの世界は、対応する矛盾を抱えています。これはそれぞれ父と母に愛されるための嘘です。おもしろいのは、眞人は理屈の上ではそれが矛盾だとわかっているけれど、腹の底からはわかっていない点です。これがこの作品を普通のSFではなく多様に解釈可能な作品=芸術にしている点です。
一つ目の矛盾は、自分で石を頭にぶつけて、怪我をするところです。結果として、眞人は父からの愛情を得ます。
この傷は、現実と想像とを繋ぐ聖痕にもなります。怪我をして寝込んでいるときに初めてアオサギが言葉を発します。水の中、深層心理に沈み込んでいくとも解釈できます。ハリーポッター。
二つ目の矛盾は、母の喪失を受け止めきれず、夏子を嫌っているのに、母と夏子を重ねて探しに行く点です。結果として、「物語」が生まれ、駆動します。母を探してなんとやら、というわけです。
二つ目の矛盾の解消
岩戸に籠り御幣に守護された夏子に拒絶されることによって、眞人は二重に引き離されます。
母からの拒絶と、夏子は母ではないことを一挙に臓腑から理解します。
あえていえば、東洋的、原始神話的です。海、大地。生と死。
一つ目の矛盾の解消
大伯父の継承を断り、嘘をハッキリ言明することで、この嘘は解消されます。
全ての矛盾が解消し、メビウスの環が解消されたので、この後すぐに塔という箱庭世界にカタストロフがおとずれます。
あえていえば、西洋的、一神教神話的です。石、宇宙。創造と破壊。
二つの矛盾を、二つの世界が象徴します。海と大地が宇宙を支え、生命を循環し、宇宙が海と大地に秩序、システム、メカニズムをもたらす。
わらわらを巡る摂理を目撃した夜に、眞人がおばあさんたちに「ごめんね」という場面は非常に重要です。
ヒミが深遠へ墜ちる大伯父に「ありがとう」という場面と対応しています。
父性原理は母性原理をコントロールしようとする。それは秩序とリスクを同時にもたらします。第三の矛盾といってもいいでしょう。
子供たちはそれぞれに相対する原理に言葉を送ります。これはいわゆるロゴス、コトホギという行為です。ここをサラッと描いていることが非常に素晴らしい。常に重要なことは隅っこにあります。
二つの矛盾を抱える世界を繋ぐのが、原初の森であり、アオサギであり、木とアオサギの羽でできた弓矢です。
アオサギはキリコを含めた三人のやりとりで指摘されるように、嘘×嘘を体現した矛盾したトリックスター的な存在です。現実であり想像。人であり鳥。飛べない鳥。火の鳥に出てくる猿田彦が連想されると思います。
トリックスターと友達になるというモチーフは、カオナシやジコボウなど、ジブリの中にあるとても思想的な要素です。
最後に感想。ラストシーン、兄弟が弟だったことが意外でした。なぜか妹だと思っていました。
君どうについては、ここでそのほかいろいろ語っています。
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