Vertical SaaSの何が面白いか?
※本記事はイタンジ前CEO 野口 真平の記事です
「職種」に特化したSaaSをHorizontal SaaS(Horizontal:水平)と呼ぶのに対し、「業界」に特化したSaaSをVertical SaaS(Vertical:垂直)と表現する。
不動産×SaaS。我々イタンジは敢えて不動産業界に狙いを絞って、業界特化型のSaaSを提供している。
同じSaaSでも、freeeやSansanに代表される凡そ全ての産業の企業に提供できるようなHorizontal SaaSの潜在ユーザーの多さに魅力を感じることもあるが、業界特化型のいわゆるVertical SaaSには業界を跨がない故の面白さがあるので、私は声を大にしてこの限定された深い市場で戦うことの魅力を伝えていきたい。
Vertical SaaSの特徴
顧客の課題は何だろう?
もしあなたが日頃からそのように考え、その解決策を深掘りして考えるのが好きなのであればVertical SaaSが非常に向いていると思う。
Vertical SaaS最大の特徴は業界に特化しているが故に、その業界に最適化して課題をより深く解決できる点だ。
人もシステムもその業界に特化して成長していくところに面白さがあり難しさがある。勿論、特化しているからには顧客の痒いところに手が届くようなサービスでないとならない。
我々イタンジの場合だと不動産業界に特化した顧客管理システム(CRM)や、電子契約システムを提供している。
これらのサービスを他の業界で提供することはできないが、どの業界でも利用できるような汎用的なCRMや電子契約システムにはない、業界にオリジナルな価値を持つ。
例えば、イタンジが提供する「ノマドクラウド」というシステムは、CRMでありながら顧客へ物件を自動提案する機能や、賃貸取引の中でやりとりを自動返答するAIチャットが搭載されている。また、機能的な面だけでなく、不動産業者にとっての操作性という観点でUI、UXが設計されている。クラウドのシステムに慣れていないユーザーでも直感的な操作が可能である点も、支持されている理由だ。
「不動産業」という特徴を捉えて特化しているからこそ、Horizontal SaaSにはない優位性がある。
Vertical SaaSの面白さ
以上の通り、Vertical SaaSであるならその業界に特化することが必要だ。
そして、「最もその業界の課題をデジタル的に解決できる存在となること」がVertical SaaSを提供する会社の命題であり面白さだ。
そうなるためには、顧客の課題がどこにあるか見つけることが重要となる。
おそらくどのVertical SaaSであっても同じだろう。例えば、代表的なHorizontal SaaSであるSalesforceは素晴らしい営業支援やCRMのシステムを提供しているが、我々は不動産業界に特化しているからこその価値をどこで生み出すか考えている。この点を面白いと感じるかどうかでこの仕事に合う合わないかがわかると言っても過言ではない。
もちろん、顧客の課題を見つけるプロセスは全てのSaaSにおいて重要だが、汎用的なSaaSであれば顧客の属する業界の知識はある一定程度で良い。例えば先述のSalesforceの場合、CRMを導入するために顧客の業務フロー自体を理解する必要があっても、そのCRMを利用した先の解決したい課題に対して、業界分析しどういった解決策があるかまでは原則踏み込まない(他に市場があるので必要がない)。
ただし、イタンジのようなVertical SaaSの場合は違う。サービスを広げていくためにはシステムも人も業界に最適化していく必要がある。システムは不動産会社の解決したい課題に合せて設計されており、また、セールスやCS、開発は顧客の課題を深く理解して解決策を提示していくことで価値を感じてもらっている。
結果、開発もセールスもCS(カスタマーサクセス)も、不動産業界×テクノロジーのプロフェッショナルになって、どうやって顧客の売上をあげられるか、コストを減らせられるか、と顧客と同じ目線に立ち解決へと導くことが出来る。
つまり、顧客との距離がVertical SaaSの方がより近いと言える。この辺りがHorizontalなSaaSやSierとの違いだと感じている。
業界を限定していなければ、システム会社として顧客と一定の距離を置きシステム提供に留まり、様々な業界でシステムを広げていける面白さがあるが、Vertifcal SaaSには1つの業界で深く事業に入っていき顧客と一緒に課題を共有し解決をしていく、といった面白さがある。
私はどちらも体験したが、後者の方が性に合っていた。システムを提供してからも長く付き合い、不動産会社の達成したい成約数や生産性のKPIの改善を一緒になって考え結果を出せると、自分達の提供できている価値の実感を得やすかった。
同じSaaSでもHorizontalとVericalでは面白さの系統が異なるのでぜひ参考にして欲しい。
Vertical SaaSで求められる能力
ただ、上記のような面白さはあるものの、顧客の課題を正確に特定しサービスを構築できなければたちまち他のSaaSにシェアを取られてしまう恐怖もある。
市場が様々な産業に跨っていればどこか特定の領域で通用しなくても、別の領域でシェアを取れるなら問題ない。VericalなSaaSはその市場で通用しなければその時点で失敗となるので課題設定は決して間違ってはいけない。
故に、マーケットイン的なアプローチで顧客から徹底的にヒアリングして課題の解像度を高めながらサービスの構築から提供までのサイクルを回していく。
課題を正確に捉えるためには当然、その業界のことを理解していないといけない。そのためイタンジでは、自社の不動産DXシステムを活用しOHEYAGOという不動産業を行うなど、業務のことを不動産会社並みに理解するべく不動産実務研修を用意していたり、顧客とコミュニケーションする時間を意図的に多くとっていたりするのだが、やはり業界未経験だと業界の慣習や業務理解に若干の時間を要する。
よく採用面談で、「未経験でも活躍できるようになるか?」と質問を頂くのだが、確かに業務知識は一定必要だが、それ以上に課題特定能力の方の比重が大きいと回答している。
実際、イタンジに入社する人のうち、元々不動産業界にいたかで活躍の度合いが大きく異なっている訳ではない。そこよりも、上記に述べたようなVerical SaaSとの相性の方が大きい。顧客の課題に対して掘り下げて向き合うのが好きな人は、自然と知識が積み重なり「コンプリート人材」(過去ブログ参照)へと成長している。
Vertical SaaSはキャリアとしてどうか?
とはいえ、「特定の業界に縛られずにどこの業界でも活躍できるようなITに強い人材になりたい」と思われる方もいるかもしれない。
確かに、不動産の知識の部分に関しては他業界でそのまま使えるものではないので、キャリアの選択としては勇気のいることだと思う。
しかし特定の業界においてDXを推進できる人材というのは非常に将来性ある、かつ、どの産業でも通用する本質的な力が身に付くジャンルだと考えている。
また、様々なクロステックの中でも不動産は市場規模も大きく、また日本固有の法制度や商慣習があるため、外資SaaSも入りこみにくい将来性があるといえる。
手前味噌な話だが、ある一定期間勤めているイタンジのメンバーは、顧客である不動産会社からコンサルティングを求められたり、転職の誘いが個別に来ることが多い。業界×デジタルの専門であるが故に、個人としても業界から必要とされるような成長ができると言える。
新型コロナウイルスの影響で、世の中は急速にデジタルトランスフォーメーション(DX)の必要性に迫られ、レガシーと言われていた産業が変革を迎えなければいけないフェーズになった。しかし、DX人材が全く足りておらず、業界を変革できるような人材は全く足りていない。
それを実現するプロフェッショナルの道を選んでみるのも悪くないと思う。
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