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令和2年7月豪雨の話

2020年の7月、九州などを中心に梅雨前線による大雨が降った。

これに関するnoteはやはり書いた方がいいかな…って思っていたのだ。気象を研究している端くれとして、この事態に貢献出来ることといえば、少しでも多くの方に知識を共有し、幸にして今回被災してなくても、今後の参考になることをこのnoteに綴りたいと思ったのだ。

自分のnoteの中では雪に関するnoteが一番最長なのだけど、今回のnoteはその長さに匹敵する長さだ。むしろ、それよりも長いかもしれない。さすが、コツコツ1週間かけて書いてきただけのことはあるってもんだ。

ざっとでもいいので一読してもらえたらと嬉しい。


最後にはなりますが、被災された方々には心からお見舞い申し上げるとともに、1日も早い復興を願っております。


以上、<始めの始めに>でした。

では、通常運転でスタートです!


2020年7月15日に防災学術連携体の緊急集会「令和2年7月豪雨について」をYouTubeのライブ配信で見ていた。

家にいながら、各専門家さんたちのお話を聞けるのは本当にありがたいことである。

というか、楽。

議論に参加したい場合はやはりオフラインだろうけど、こういう集会で議論に参加するというよりは聞きたいと思うものはオンラインでも十分であるというのが、このご時世で得られた数少ないプラスの面だと思う。


今回は、折角だからその内容を少しばかり書いてみようと思う。自分の復習のためでもあるが、やはり広い人に見て欲しいなぁと思うので、微力中の微力だけど書いてみようと思う。

先に断りを入れると、このnoteはざっくりした話で書く。正確にいろんなことを知りたい人は気象庁などのHPに飛ぶなり、YouTubeライブはアーカイブで残っているので、それをかいつまんで視聴されるのが良いと思う。


後、自分は気象学が専門の人間なので、それ以外の部分(地質や河川など)に関しては完全に素人が話を聞いて理解したレベルで書く(一応大学でそういう話も勉強したけど…)。かつ、メモ書きしている部分(つまり自分の興味を持った所)を書くので、抜けている話もたくさんあるし、書く話題の量に偏りがあることは最初に言っておきます。


まずそもそもとして、”防災学術連携体”ってなんやねん?って感じだけど、HPの”防災学術連携体と日本学術会議”というページにある目的にはこう記されている。

日本および世界の自然災害に対する防災減災を進め、より良い災害復興をめざすために、日本学術会議を要として、防災に関わる学会が集まり、平常時から相互理解と連携を図ると共に、緊急事態時に学会間の緊密な連絡がとれるよう備える。平常時から政府・自治体・関係機関との連携を図り、防災に役立てると共に、緊急事態時に円滑な協力関係が結べるように備える。学術連携を図ることで、より総合的な視点をもった防災減災研究の向上発達をめざす。(防災学術連携体HPより)

つまり、防災に関わる学会の集まりということか。

今回は、日本学術会議、日本気象学会、日本リモートセンシング学会、日本地質学会、砂防学会、日本建築学会、日本災害看護学会が発表されていた。自分がいつも参加しているのは気象学会なわけだけど、改めていろんな学会があるもんだなぁって思った次第である。


開会挨拶が終わった後は、豪雨災害ということもあって日本気象学会(京都大学防災研究所 竹見哲也准教授)から今回の梅雨前線に豪雨の話があった。

今回の豪雨は、

1. 九州から太平洋沿岸地域、中部地方の山間部で雨がとても多く降った。

2. 1時間降水量も6時間降水量も多く、九州と中部地方の山間部で観測史上1位を更新した。

3. 24時間降水量も72時間降水量でも多く、九州と中部地方の山間部で観測史上1位を更新した。

4. 梅雨前線が長い間停滞し、その状況下で前線帯で形成された低圧部の東進によって豪雨が発生した。

5. 中国大陸から東シナ海を通って大量の水蒸気が流入した。

という特徴があったそうだ。


多分、1番目はニュースなどで気象情報を見ていた方であれば、そうだろうなとわかっていただけると思う。

2番目と3番目に関して。1時間降水量と6時間降水量、24時間降水量も72時間降水量をわざわざ区切って書いているのには意味がある。

〇〇時間降水量は〇〇時間にどれだけ雨が降ったかを表す量で、例えば6時間降水量と言われれば6時間に降った積算の降水量を示す。まぁ、まんまですな。

そして、1時間や6時間降水量は短時間にどれだけ雨が降ったかを見ていて、24時間や72時間降水量は比較的長い時間にどれだけ雨が降ったかを見ていると言ってもいい。

72時間降水量が多いけど、その間の6時間降水量は少ないといった場合、それは短時間に強い雨は降ってないけど、長雨で降水量が増えているという見方になり、その逆であれば長雨ではないけど短時間に強い雨が降ったという事になる。

しかし、今回の1時間降水量、6時間降水量、24時間降水量と72時間降水量が多いということは、長雨かつ短時間に強い雨も降っているということなのだ。

こんなにドカドカと雨が降られては、いくら河川で洪水対策をしてあったとしてもなかなか厳しい状況だろうし、土砂災害の危険性も高いということだ。


今回の降水量は過去の記録と比較しても凄いことが分かる。以下は、2020年7月15日に気象庁から発表された報道発表資料から引用したもので、降水量の総和と1時間降水量50mm以上の発生回数の表だ。

令和2年7月15日気象庁報道発表『「令和2年7月豪雨」の観測記録について
~降水量の総和と 50mm 以上の発生回数の記録を更新しました~』
より

今回の豪雨は、昨年上陸した多摩川が氾濫するとか騒がれた令和元年東日本台風(2019年台風19号 (HAGIBIS))や、西日本を中心に河川の氾濫や土砂災害が起きた平成30年7月豪雨よりも、降水量の総和は多いし1時間降水量50mm以上の発生回数も多かったのだ。


4番目の”梅雨前線が長い間停滞し、その状況下で前線帯で形成された低圧部の東進によって豪雨が発生した”に関して。

まず、なんで梅雨前線が長い間停滞したんだ?という話に関しては、以下の毎日新聞の記事を見ると、

異例となる前線停滞の長期化は、日本の南側にある太平洋高気圧に一因がある。例年この時期は、太平洋高気圧が張り出して前線を北へ移動させるが、今年はその力が弱い。東京大大気海洋研究所の木本昌秀教授(気象学)によると、インド洋の海面水温が平年より高いことで赤道付近の熱帯太平洋の気圧が低下し、太平洋高気圧を引き留める形になっている。日本の北上空で吹く偏西風が、朝鮮半島付近で南側に蛇行していることも前線の北上をしにくくし、日本付近の比較的狭い範囲で停滞が続いているという。
日本付近に居座る梅雨前線 弱い太平洋高気圧が一因 豪雨メカニズムを探る(毎日新聞 2020年7月15日)

とある。つまり、梅雨前線を北へ押し上げる太平洋高気圧も弱ければ、北に行こうにも偏西風の南側への蛇行によって阻害され、結果として梅雨前線は長いこと停滞した、ということだろう。

そしてこの前線帯に低気圧が生じると、低気圧には反時計回りで風が吹き込むので、東シナ海などから大量に水蒸気を輸送することを助け、結果的に5番目の”中国大陸から東シナ海を通って大量の水蒸気が流入した”につながる。

こんな感じ?(偏西風の蛇行が変にカクカクなのは一重にkeynoteによる作画能力が低いためである…)


今回はまだ速報解析なので、細かいところはこれから研究が活発に行われるのだろうと思っています(多分、秋に開かれるオンラインでの気象学会でも発表があるはず)。


さて、ここまでは研究している分野の話なので細かく話してきましたが、ここからは専門外。なので最初に書いてた通り、一気に話の進むスピードが早くなりますので悪しからず。


次は九州大学の小松利光名誉教授から河川関連の話があった。

球磨川の水害は流域全体に多く雨が降ったことが原因であり、過去の水害(昭和47年、57年など)と比較しても、降水量が多かったそうだ。

筑後川の水害の原因もやはり多く雨が降ったことで、荒瀬水位観測所というところでは観測史上最高水位を記録したそう。

尚、平成29年7月九州北部豪雨では、福岡県(朝倉市)などの狭い範囲に短時間で集中的に降って、西日本豪雨では被災地は広域に広がっていたものの、氾濫した一級河川は肱川(愛媛県)だけだった。

梅雨前線並びに今回発生した線状降水帯は東西に伸びているわけだけど、九州の河川も東西に伸びている。これは、九州の背骨が如く南北に伸びる九州山地が水源であるためで、そのお陰様で流域全体で降水量が多くなったんじゃないかということみたいだ。


後印象に残ったのは、(川の上流で降水が多かったから)洪水の位相のピークは上流→中流→下流となるはずなのに、本川の下流側で早くなっているところがあり、これは支川からの流入が原因で支川の治水対策も必須であるというお話だ。

ここで”本川”と”支川”に関して軽く説明しといた方がいいだろう(ていうより、自分も曖昧だったのだ)。

国土交通省国土技術政策総合研究所HPより

上の図は国土交通省国土技術政策総合研究所のHPから引用してきたものだ。そして、説明は以下のように書いてある。

大小さまざまな川のことを総称して河川とよびます。河口から最も遠い谷から、河口へつながる川を、その川の本川または幹川(かんせん)といいます。本川に合流する川を支川といいます。(一部抜粋)

多摩川や利根川といった川が本川で、その支流が支川というわけですね。

そして、上で書いた”洪水の位相のピークは上流→中流→下流へとなるはずなのに、本川の下流側で早くなっているところがあり”というのは、自分の理解では以下の図のような感じかなと思う。


そして今回の球磨川の水系を示した図が以下のものになる。

第48回河川整備基本方針検討小委員会 参考資料5 「球磨川水系の特徴と課題」(国土交通省)より抜粋

今回の球磨川で言えば、川辺川という支川があり、この川辺川からの流入によって川辺川合流点より下流、つまり人吉市街地などの方で水位のピークが早まる、つまり洪水が起きるタイミングが早まったということだ。

つまり、大きな河川にだけ着目して治水対策してもそれは不十分であり、本川と支川を含めた河川の流域全体で治水対策しなければならないってことみたい。

これは結構重要な視点だと思った。本川に高い堤防を築いたとしても、支川の対策が疎かになってたら洪水が起きるかもしれない。かつ、水位のピークが早くなり洪水が起こるのも早くなるということは、それだけ避難する時間も削られるということだ。理屈はさておき、こういった知識も持っておいて損はないと思う。


河川の話は結構長くなってしまった。”一気に話の進むスピードが早くなります”とか宣言してたのにもかかわらず…。まぁ、許してください。今度こそ早くなります。


日本リモートセンシング学会(衛星関連という認識)からは、今回の事象に関わる衛星の紹介があった(という認識)。ひまわり8号、だいち(ALSO-2)、Sentinel-1など。特に、だいちは雲を透過することが可能なので、雲があっても浸水状況を把握することが可能とのこと。

これは結構凄いことで、地上からだと見れる範囲が限られるし状況の全体を把握するのは難しい。しかし、衛星という地球の外から俯瞰して見るものがあれば、全体の把握は簡単になる。


次は地質学会からであった。

地質学会の発表も興味深かった。今回の豪雨災害が起きた場所は地質がとても複雑なところらしい。それを雑に描くと以下のようになる。

第48回河川整備基本方針検討小委員会 参考資料5 「球磨川水系の特徴と課題」(国土交通省)より抜粋した図に加筆


先ほど示した図に加筆した。黄色の楕円体で示した部分が”付加体”と呼ばれる部分だ。付加体とは、

海洋プレートは海洋地殻とその下のマントルの一部からなります。海洋地殻は、海嶺で噴出した玄武岩溶岩の上に、深海堆積物や海山を載せています。これらの一部は海洋プレートが沈み込むときに、海溝にたまった土砂とともに大陸側に押しつけられ、はぎ取られてしまいます。これを付加作用といい、はぎ取られた地質体を「付加体」といいます。(国立研究開発法人産業技術総合研究所 地質調査総合センター

とのこと。この付加体は硬い地層みたいだ。球磨村周辺からこの付加体にかけて硬く急峻な地形となっているそう。

また、約250万年前の火山噴火によって、肥薩火山岩類が形成し、球磨川の流路は堰き止められた。

尚、人吉盆地は沖積低地堆積物、つまり球磨川が運んできた土砂で形成されているそうだ。

故に、人吉盆地は地質的に見ればどこを川が通ってもOKだけど、付加体と肥薩火山岩類が両脇にあるところは、河川が通れる場所は限られるって感じだそうだ。

流れる水の量が多くなった河川が周りの土を削りながら流れてくれれば、川幅は広がって流れることが出来るので水位は緩やかに上昇することが期待できる。しかし、球磨川は中流から下流の途中までは両脇ががっちり固められていて、その上流に盆地がある。ということは、人吉周辺は地質的に見ると、元から水が溜まりやすい土地であるということだ。


他にも砂防学会、日本建築学会、日本災害看護学会のお話もあった。もちろん聴講していたけど、このnote、この辺で息切れである…。

この緊急集会を聴講して思ったのは、やはり自分の住んでいる場所を地学的な側面から見ることはとても重要だということだ。気象に始まり、河川、地質など。住む土地がどういう場所なのかを知らずに住むのは、やはりこの災害が多い国に住む人間として恐怖を覚えるわけだ。

近年では、地方を盛り上げようと様々な施策が官民問わず行われている。個人的には、最近だと徳島県上勝町「ゼロ・ウェイスト」に取り組まれている方、岡山県倉敷市児島にあるEVERY DENIMの方や、日本各地で運営する家に定額で住めるサービスADDressの代表の方など、各々のオンラインセミナーを聞いたりして、地域に関すること、取り組まれていることなどのお話を聞く機会も多かった。

そして、自分自身も47都道府県全てに旅行したことがあるくらい、都会田舎問わず日本各地に好きな場所はたくさんある。

今回被害が大きかった人吉にはSLがあるので乗ってみたいなと思ってたし、その下流の方には球泉洞という鍾乳洞もあって訪れたい場所であった。


こういう風に日本全国各地は魅力的なところがいっぱいで、1つの場所が好きになって一点集中で盛り上げようとする方もいれば、もう少し全体的(各所で)に盛り上げようとする人もいる。しかし、皆んなどんな視点から見ていても、その土地に対する愛着というものを少なからず持っているし、自分もそれなりにある。

しかし、防災という観点から見るとやはり覚悟しておかないといけない部分はやはりあると感じる。つまり、その土地に住むからには洪水やら土砂災害やらに巻き込まれるかもしれんよってことを知っておき、かつその備えをきちんとしなければならないということだ。

洪水や津波の危険がある地域なら、集落を高台に集団で移設するとか、土砂災害の危険がある場所には住まないとか、ダム建設は嫌でも治水のために渋々でも了承するとか。どれもこれも面倒だしお金がかかることだと思う。しかし、何かしらの手を打つ必要は必ずあるのだ。


科学は日々進歩している。気象予測の精度も10数年前に比べれば格段に向上しているし、それは河川や火山、地質関連だって同じだと思う。そして、その情報をなるべく広く伝えられるような努力もしなければならない。しかし、それにはやはり限界があると感じるところがあるのもまた事実だ。

その地域に住んでいる方、そしてその地域に大なり小なり参画しようとしている方は、上記してきたことを留意して欲しいと思う次第だし、自分もそのように戒めたい。


<参照HP一覧>

防災学術連携体:https://janet-dr.com/

気象庁:http://www.jma.go.jp/jma/index.html

国土交通省:https://www.mlit.go.jp/index.html

国土交通省国土技術政策総合研究所:http://www.nilim.go.jp/

国立研究開発法人産業技術総合研究所 地質調査総合センター:https://www.gsj.jp/HomePageJP.html


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