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わたしとキスして

孤独と対峙するとき、いつも首筋に指の感触を感じてた。指は首から肩をなぞって、かんたんな力でわたしの体を地面に留めた。指は冷たくて迷いがなかった。迷わずにわたしを押さえつけた。

歳を重ねるにつれて、あの指がだれのものだったのか次第に理解できるようになった。

未来のわたしはわたしの姉で、過去のわたしはわたしの妹だ。

19歳、乗り越えられないと思ったとき、未来のじぶんに向けた交換日記を開く。そして書く。

悲しいとき、わたしはたびたび「姉」の硬い胸に泣きついたり、泣き出せずに天井を睨んだりして、「姉」はそんなわたしを慰めるのか、慈しむのか、ただ静かに首をさすったり、わたしの肩や背中や腰を見つめている。

彼女はおおらかであたたかい。まだ若くて、たぶん20代前半くらいだけど、大人びて見える。同じ体なのに、愛がまっすぐだ。彼女にとってはもう過ぎたことで疑う余地もないのだと思う。

反対に、元気なときはわたしが「妹」の様子を見に行く。目を閉じて肩や背中や腰を見て、軽くさすって慰めてやるが、でもたいていわたしは「妹」に睨まれて相手にされない。それでもわたしは「妹」のことがかわいくてしかたないし、どうか元気になってほしいと思ってる。

むかしのじぶんの頬や額や唇を想像してみる。脚とかお腹とかも考える。小さくてかなしい生き物に見える。幼い娘の髪の毛を撫でる母親の気持ちとは、きっとこんな感じだ。他人はどうか知らないけど、わたしはきっとそう感じる。ぎゅうぎゅう抱きしめたりはできなくて、あなたが眠っているあいだの額にキスするくらいしか、あなたを慈しむ方法がない。

じぶんとの交換日記はそんなやりとりだ。

「姉」はいつもわたしを見守っている。「妹」はいつもひとりぼっちで泣いている。わたしはどうだろう。それぞれが孤独を感じてて、わたしも確かに独りで、わたしたちは全く地続きの存在でない。

未来のじぶんの指は、今と変わらず短く、幼いだろう。でもやさしくて、ひんやりして気持ちいい。わたしは「姉」の指が好きだ。「姉」の指は絶対である。わたしも「姉」のようなひとになりたいと思う。いつか。

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