2024年8月は如何に

2024.8.9

昨日南海トラフ地震臨時情報が出るまで、あたしは黙々と手紙を書いていた。夜中から白紙の紙を何枚も並べてこねくりまわしていると朝になった。原稿ができない作家の机はこんな感じかなと思った。清書を2枚破り、まだ途中である上に、ずっと座っていたから急に腰痛がきて、寝て起きても治らなくなった。

寝て起きてテレビをつけるとなにやら騒然としていた。あたしはいつも水の音や換気扇の音の中にサイレンを幻聴してしまう。今日は一層気味悪いなと思いながらシャワーを浴びた。ツイッターのトレンドには、買い占め、買いだめ、ガソリン、富士山噴火、パニック、ドラッグストア、という単語が並んでいたので、あたしの近所はどんなものかしらと、家族を連れてスーパーの様子を見に行った。

閉店間際にも駐車場が混んでいてたしかに人が多かったけど言うほどではなかった。あたしは歩きなので関係なかった。カップ麺とトイレットペーパーがよく売れていた。滅多に来ない深夜のスーパーで、みんな少し楽しそうだった。あたしとあたしの家族はこの時間の常連なのでなんだか変な気持ちになった。とくになにを買い込むでもなく、お菓子と冷凍パスタをカゴに入れて立ち去った。平麺のカルボナーラが好き。カップヌードルのしょうゆ味が売り切れていた。でもきっとみんな今日食べるんでしょう、それ。深夜シフトの少ない店員たちが忙しなくてちょっとかわいそうだった。

キャラメルコーンとサイダーを買ったのでいまからこれでアマプラを開く。「おんなのこきらい」を観る。手紙の続きを書く。朝になったら電車を乗り継いでわざわざ遠いイオンに行く。松屋のうまトマハンバーグが食べたいんだけども、まだ売ってるんだろうか。

災害時の備蓄が全然ない。水は9本ある。非常食が舌に合わないので、賞味期限が半年持つゼリー飲料3つ、カロリーメイト3つ、ビスコ1箱があたしの命綱になる。甘いものしか無くてうんざりする。

あたしはいつもいろんなことに怯えて生きている。ハザードマップを読み込んだし、もし家が燃えたら何を持ち出して逃げようかと、一週間に一度は考える。あたしが大事にしてるぬいぐるみのうち、どの子を持って逃げればいいのかしら。選べるわけもなく、ざっと20匹ある綿の塊を、片っ端からリュックに詰めて階段を転げ落ちる想像を、いつもする。保険証や通帳よりも先に。

あっちでは戦争、あっちでは侵略、こっちでは地震が起きるので、買えなくなる前に欲しかったロリィタを取り寄せしようと思ったら全店在庫切れになっていた。もしかして今年中には手に入らないんだろうか。いま、あたしの「一年」はとても長く、とても貴重で、この若さに変えられるものは何もないのだが。

家でニュースをつけると非常事態気分になるが、外に出るとなんだかふつうに平和だな、と思う。玄関の外に立派なバッタがいた。バッタなら虫かごで飼ってもいいなと思った。次の瞬間この刹那を歴史に刻みつけるような出来事が起こっているかもしれないけれども、あたしは今眠たいので、映画を観るのはやめて布団に入ることにする。

明日が歴史になるかと思ったら文字を書きたくなる。手紙を日記を文章を書く。紙とペンと音楽さえあればあたしは幸せなので、新品のペンを揃えて、モバイルバッテリーとイヤホンをよく充電しておく。今日じゃなくても毎日そうしてる。未来の教科書に載るのは2024年8月なのか、はたまた、9月か、10月か、5年後か、10年後か、如何に。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?