ばあちゃん

 ばあちゃんがガンだった。最初は乳ガン、それから色々なとこに転移して、詳しくは知らないけど、血液と骨とリンパ。ばあちゃんは死ぬ間際まで戦った。そして私の誕生日の次の日に苦しみながら逝った。

「ガンの本が読みたいの」

 そうばあちゃんが言ったのは逝く、三か月ほど前だった。


「あんた本読むでしょ」
「いい本ないの?」

 ばあちゃんも本を読むひとだったけど、ほとんどが近代小説で志賀直哉や織田作之助、太宰治などだった。時代背景的にガンで死ぬよりは結核の方が死の確率は高そうである。いや、明治にもガンはあったのだろうけど。

 ばあちゃんもよく動く人だったから、本屋に足を運び書店員に「ガンの本はないですか?」と訊いたらしい。書店員は頭をフル稼働させて考えた結果、病気の女の子が主人公の男の子と過ごすうちにハッピーな方向へ行くというお話だった。

 結論から言うと、ばあちゃんは途中で止めた。難しいからとか欲していたものと違うからとか言ったけど、私の手元に残った。