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秋 斷 章   /  鈴 木 正 夫

秋 斷 章
    鈴 木 正 夫

心よ、わが心よ、

深き眠りより

目覺めてよ。

永き夢より

目醒めてよ。

悲しき、嬉しき、淋しき、

あまりにも變り易き夢に

われら切に疲れ果てたり。

悲しさよ、嬉しさよ、淋しさよ。

過ぎし夢に見しすべてよ。

快き忘却のうちにひそみてよ。

   ◇

いねがてに目覺めてあれば虫の音を

わびしと覺ゆ秋深む頃

       (一四、九、三〇)


鈴木正夫君の尊父、甲斐の國なる鄕家

に在りて病あつく、一日、彼愴惶とし

て歸省せんとする際、余に一篇の詩稿

を託せり。詩情哀切。

いままた、遂に死報至る。余、哀悼の

言葉なし。(菊池與志夫)

(越後タイムス 大正十四年十月十一日 
      第七百二十三號 五面より)


#詩 #越後タイムス #大正時代



         ソフィアセンター 柏崎市立図書館 所蔵



※同紙面の品川力さんの記事をご紹介します。

『求婚廣告』に非ず
    品 川  力
◎最近の僕の寫眞を三枚送ります。
これはいづれも菊池君から、とつて
もらつたものです。――まるで泥棒
猫のやうだ――とは母親の批評です
するとあちらでも、こちらでもまこ
とに適評だといふのですから、あき
らめるよりほかありません。
◎いま思ひ出したやうに寫眞など送
ると、いかにも妻君が欲しくなつた
と云ふことになりさうです。といふ
のは姉の友惠がいよ/\近日結婚す
るからです。
◎――君は話の上手い奇麗な妻君を
もらつて、言葉の出さうにない時は
妻君から喋舌つてもらふさ――と、
いかにも耳寄りの話を菊池君がする
のです。さすがにその筋の専門家は
お察しのいゝものだと感服してゐま
す。
◎もう十年もたつたら、そこらから
自分の好きなの引ッぱつてくるさと
は、親父の云つたことです。この道
にかけては存外話せない親父の、そ
こらからが氣に入つたのですが、十
年とはけしからんと思ひます。
◎こんな事はどうだつていゝのです
が、どうしたものか僕は、いくら美
人でも越後の方だけは好きでないの
です。これはどなたにも宣傳してお
かないと、本人がいくら氣にいらぬ
と頑張つても、越後の女でなけりや
駄目だなんといふことになつて、無
理にも厭なものを頂くといふ、取返
しのつかぬことになりますから――
さあ何んだか「求婚廣告」になりさう
ですから、これで切り上げます。
◎菊池君の書斎にはほとんど日本作
家の少說ばかりですが、僕のとこに
は日本の少說は一册もありません。
英文學、科學、敎育、評論などの類の
みです。全集ではトルストイとドス
トイスキイそれからニイチェとジパ
ニス、バクウニンがあります。
           (――私信)

越後タイムス 大正十四年十月十一日 第七百二十三號 五面より


#品川力 #トルストイ #ドストエフスキー #ニーチェ #ジバニス
#バクウニン

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