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私の『人生はまだまだ続く』

20と数年生きていて、その大小はあれど、「人生の曲がり角」というか、ターニングポイントだったと思う日がいくつかある。

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高校2年生の私は、学校帰りにいくらかの軍資金を携え、商品が雑多に入り乱れる某遊べる本屋の前に立っていた。
と言っても本を買いに来たわけではない。当初買う予定のなかったCDの初回限定盤を手に入れるためだった。

親の教育方針により、まともにお小遣いをもらうようになったのは高校に入ってしばらくしてからだったから、この日がはじめて自分でCDを買った日だったことは間違いない。

購入したのはロックバンド・キュウソネコカミのメジャー初フルアルバム「人生はまだまだ続く」。
手軽な各種音楽配信サービスで聴くという選択をしなかったのは、初回盤に付いてくるやたらかわいらしいネズミの描かれた特典ステッカーが欲しかったからだ。
確かステッカーは某遊べる本屋限定。あまりにもちょろい。

購入の決定打が斜め上だったとはいえ、何となく気になっていたバンドの新譜が手に入ったのだから、早く新曲を聴きたくて仕方がない。

はやる気持ちを抑えて、万が一にも落としたりしないように丁重に通学カバンにしまい、急いで家まで自転車を漕ぐ。
夕食もお風呂もそそくさと済ませて自室へ向かい、はがしづらいフィルムをぺりぺりとはがす。
ドキドキしながらCDプレイヤーに入れ、再生ボタンを押す。
アルバムの最後、配信では聴くことのできないボーナストラックの存在を知り、頬が緩む。
ひと通り聴き終える。曲があまりにも力強くて、何だか呆然としてしまった。

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今振り返ってみれば、この日は自分の中の何かが大きく変わった日だったと思う。

こんなにも夢中になれるのかというくらい、狂ったようにその新譜を聴く日々が始まった。
初回特典のライブDVDも、どの曲がどこで演奏されて誰が何を話すのかまで把握するくらいには再生した。

また、CDに封入されていたシリアルナンバーを使って、その年の冬に開催されるワンマンツアーにも申し込んだ。
シリアルナンバーなんて使うのも初めてで、一緒にライブに行くことを快諾してくれた友人に手ほどきを受けながらだったけれど。
そのライブについては以前の記事に詳しい。

皆勤賞を狙えるくらい真面目に登校していた自分が、過保護な親の渋る顔すら振り切り、高校の大掃除を抜け出して東京まで遠征することになるとは、きっと誰も予想していなかったと思う。

そして今でも、そのバンドを応援する日々が続いている。
行ける範囲まで足を延ばして一人でライブに行ったり、彼らの音楽を通した出会いがあったり。

何となくで買ったCDが、自分の中での新しい楽しみを生み、行動範囲を広げるきっかけになり、そこでしか浴びられない音楽と感動に出会うための道しるべになった。
大げさでもなんでもなくて、見える世界が広がったと思う。

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アルバムの最後。例のボーナストラックで、彼らは彼らなりのブルースを歌い上げる。

僕らいつか消えるけど きみたちの人生はまだまだ続く
解散とか休止とかさみしいけど
俺らが元気なうちにまた遊びに来いよ
いつかは必ずさようなら 僕らの人生はまだまだ続く
毎回笑顔でさようなら
最後のその日が来るまで愛してくれよ
(中略)
私は歩くお前の心 深く 芯の方で生き続ける
(キュウソネコカミ/ブルース より抜粋)

彼らの人生はまだまだ続く。
どれだけ時世柄厳しい状況であっても、彼らが諦めずに音楽を届けてくれる限り。
どのような形であれ、私はもちろん、誰かが彼らの音楽に触れている限り。

私の人生もまだまだ続く。
いつかCDを聴かなくなったりライブに行かなくなったりするとしても。
人生のターニングポイントで出会ったCDが、音楽が、私の心の深く芯の方で生き続けるならば、きっと、音楽好きとしての私の人生はまだまだ続く。

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