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オペレーター


オペレーターとは、[機械類の操作に従事する役の人]だそうだ。例えば[電話交換手、無線通信士、計算機械の操作者]など。
自宅のWi-Fiがダウンして、この一週間実にたくさんのオペレーターなる方々と話をした。みな礼儀正しく、慇懃で、腰が低い。こちらの話を聞いて復唱し、相手を怒らせたりすることのない話術を心得ている。

まず最初に電話をかけたのはプロバイダのサポートセンター。電話口の女性は声からすると私より年上だ。会話の端々のイントネーションが東北訛りのように聞こえて、ふとこのフリーダイヤルは日本のどこに繋がっているのだろう、弘前か、会津か、と夢想したりする。
解決せず次はルーターのメーカーに電話する。こちらの結論はルーターの買い替えだった。え、と絶句する私に「量販店などで、ご予算やご希望の機能に応じてお買い物を」と可愛い感じの声が諭してくる。
かくして新しいルーターを設置し、間違いなく接続したはずなのにやはりWi-Fiは繋がらない。これにはさすがにがっくりときた。今度のはえらい強力やなあ。適当な関西言葉をこぼしてみてもどうにもならない。
新ルーターは別のメーカーだ。こちらのサポートセンターのオペレーターさんはいちばん頼もしかった。声を聞いているだけなのに相手の背筋がしゃんと伸びているのがわかる。眼線はまっすぐ。それも見える。顔立ちさえ想像できる。声は思った以上に様々な情報を孕んでいる。
がしかし、この頼もしき声に導かれてデバイスを操作しても、問題は解決しなかった。おそらくは私より若く、黒髪の、いやもちろん想像でしかないが、ともかく彼女も残念そうだった。

再びプロバイダへ電話する。当然ながら前とは別の女性が出た。そしてここでの結論は回線故障。
「申し訳ありませんが」日本電信電話会社すなわちNTTの故障受付窓口か、テクニカルサービスにかけよという。やれやれ。

自宅からインターネットに繋がらないことに気がついたのは、木曜日の午後だった。水曜は留守にしていたから、どうもそれは火曜に起こったらしい。土日をオペレーター諸氏との対話に費やしても解決しない。次の火曜日にはオンライン会議がある。なんとかそれまでに直ってくれないと。

頻発する自然災害の影響とかで、回線故障受付の電話はまったく繋がらない。[オペレーターにお繋ぎします。しばらくお待ちください]なるアナウンスが流れるのだが、このしばらくが20分を過ぎたりする。はよ繋いでくれと念じても効果なし。ネットからどうにかこうにか修理依頼をして、2、3時間後に電話がきた。

電話口の相手は男性で、ちょっと恐い感じの話し方だ。白いワイシャツで受話器を少し高めに握った、体格も顔つきも分厚い人が脳裏に浮かぶ。「今からですと一番早くて、明日」修理に来てくれるという。マンション全体の回線状況をみるが管理人は居るか、とか、オートロックか、などとあれこれ尋ねられたあと、何かご不明な点はありますか、と聞いてきた。

「あの、その修理でも、直らない可能性はありますか?」
「いえ、ほぼありません。」

恐い声はそう答えた。そうか、それならば。時すでに月曜日。明日の修理が夜の会議に間に合えば、万々歳。どうか、間に合って。

そして火曜日。会議の1時間前になって、ようようWi-Fiは復旧した。聞けば、自宅マンションの何軒かで、同じようなことが起こっていたらしい。ルーターを買い替えたのは私だけかも知れないが、まあ本当に古いものだったからよしとする。
復旧を伝えにきたのは、声の高い、いかにもか細い感じの男性だった。黒髪のきりりとした彼女でも、肩の分厚いワイシャツでもなかった。玄関先でその方の話を聞きながら、ことの終わりというものはこんなふうに素っ気ないのだ、と思う。



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