雨降る日に見た夢

わずかに肌寒さを感じて目を覚ました。
腰のあたりで捻れて細くなっていた薄手の掛け布団を、右手で引っ張り上げる。

普段は、5時にもなれば太陽の光がカーテン越しに透けて十分明るいのに、今朝はほとんど光が差し込んでいない。
薄暗い部屋の中、雨の音だけが静かに響く。
その心地いいリズムに身を委ねるように、もう一度目を瞑った。

まだ半分ぼんやりした頭で、さっきまで見ていた夢を思い出してみる。
嫌な夢だった気がするのに、こうして反芻してしまうのはどうしてだろう。
「夢だった」と確かめることで、きちんと安心したいからだろうか。


昔、仲良くしていた同じクラスの男の子が出ていた気がする。
あの頃はまだ小学生で、恋愛の真似事みたいに一緒に帰ったりしたっけ。
大人になってから偶然再会して、懐かしさのなか話が盛り上がって、そのまま恋愛関係になった、ような気がする。
でも、これは現実じゃなくて、夢。
どうしてこんな夢を見たんだろう。
……あぁ、たぶん、そう。最近よく行くスーパーの近くに、その子の実家があるからだ。無意識に思い出したから、夢に出てきたんだろう。


嫌な夢は、そのひとつ前に見た気がする。
どんな夢だっけ?
思い出そうとするのだけれど、輪郭がぼやけてうまく捉えることができない。
するするこぼれ落ちていく夢の破片を、拾って、繋ぎ合わせていくと、少しずつ形になってくる。

そうだ。
もう一度、試験を受けないと資格は得られないという現実を突きつけられる夢だった。
いや、夢だからそれは現実ではないのだけれど。

そうか。もう一回、あの試験に合格しないといけないんだ。
どうやって勉強する? 自習室には通える? 予備校は?
こんなにブランクがあるのに大丈夫? 試験までは、あと一年か。
今すぐ勉強を再開しないといけないけれど、もうすぐ出産もあるし、勉強時間はどう確保したらいいの?
そもそも、もう一度合格しないと資格を得られないなら、どうして一旦仕事を辞めたりしたんだろう。
他の職種じゃいけない?
……うーん、やっぱり、次も同じ業界がいいなぁ。
待ってよ、試験まで一年ってことは、来年の春からの社会復帰は不可能ってこと?

どんどん追い詰められるように胸が苦しくなる。いつの間にかもう一度夢の続きが始まったみたいに、思考がコントロールされていく。


そうしていると、突然、ぱちんっ、とスイッチが切り替わるみたいに、「そうだった、夢じゃん」と自覚する。
「ってことは、もう一回試験を受ける必要も、合格する必要もないし、春からの社会復帰も問題ないってことだよね。」

ひとつずつ答え合わせをしながら、ゆっくりと「大丈夫」を、横たえた体に染み込ませる。そうして全部の答え合わせが終わって初めて、ようやく心の底から安堵できる。


どうしてこんな夢を? 
夢を見たときは大抵の場合、どうしてこの夢を見たのか、この人物が出てきたのか考えてみる。
わからないことも多いのだけれど、「たぶんあれが原因」と思い当たることも結構ある。

今回は、noteの記事で司法試験や社会復帰に触れたことがあったから、だと思う。
どうせだったら、もう一回合格する夢だとか、社会復帰してなんとかこなせている日々だとかの夢を見たい。そっちの方が、キラキラして、目覚めたときの気分も爽快だろうに。
でも多くは、こんな風に、悪い方向にいったり心配事が現実になったような夢ばかりが、相当のリアリティーを伴って睡眠を支配する。


心配性だし、悩むことも多い方だと思うから(直したい性格のひとつであり、今後の課題)、そういう無意識の不安だったり心配だったりが、「自分の一番望まない結末」として夢で現れるのかな。


夢の中では、本当にありとあらゆる不幸が起きている。
そのたびに、ぎょっとして胸が締め付けられる。跳ね起きることもある。隣で眠る娘の顔をこれまで何度確認しただろう。
目覚めたときの爽快感はないし、むしろどっと疲れてしまうのだけれど、それでも夢だとわかり、大丈夫だと知ったときの安堵感はすごい。
「本当に良かった」と口に出してしまうほど。


そして、気付く。
今の状況はとても恵まれていること。幸せだということ。
でも当たり前じゃないということ。だから、大切にしなくては。


そんなことを考えているうちに、いつの間にか、また夢と現実の間を行ったりきたり。
最近はうまく睡眠が取れなかったのに、まだ眠れるだなんて、今日はついている。なんてことをぼんやり思う。

静かに降る雨の音が耳に心地いい。たまには、こんな薄暗い部屋もいい。
眠りに落ちる間際、「次はいい夢を」と願ってみたけれど、次に目覚めるまで、もう夢は見なかった。




最後まで読んでいただき、ありがとうございます。