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クラークスデール - オールドアメリカが生きる街

最も優れた海外旅行ガイドブックは?と問えば、多くの人が「地球の歩き方」と答えるだろう。私もそんな地球の歩き方愛好家の一人で、年に一、二度行くアメリカに必ず持参している。
だがアメリカ旅行を繰り返すうち、よりコアでよりディープな経験を求めるようになり、ある事を思い始める。ー(情報が足りない…。)
勿論、NY、LAなど一つの都市に絞って創刊されているものの情報は申し分無い。一方で有名な観光都市以外の情報が本当に少ない。
その内自ずと海外のサイトや現地で情報を集めるようになり、多くの場所を訪れたが、アメリカには想像以上に知られていない魅力が溢れている事に気付かされた。
アメリカ=NY or ハワイ or LAというイメージが一般的かと思うのだが、ローカルにも沢山の魅力がある事を是非知って欲しい。そして出来れば足を運んで欲しい。この媒体を通して、ガイドブックでは知り得ないアメリカの魅力を伝える事が出来れば幸いだ。
前置きは以上。

さて、二ヶ月程前にアメリカ南部を巡る旅をしたのだが、その道中で立ち寄り、今ではすっかり心酔してしまったとある田舎街がある。
それがミシシッピ州のクラークスデールという人口1万6000人にも満たない小さな街だ。
ミシシッピ州の北西部に位置し、歴史的・人種的な背景からブルースを育んだ、いわゆるミシシッピデルタ地区にあるその街の特徴はその街並みと雰囲気にある。
崩れかけの煉瓦通り、錆びついた看板、レトロなダイナーに集まる近所のご老人、老朽化した商店街…オールドアメリカを体現するその佇まいは訪れる人々にまるでタイムトラベルしたような感覚を味わせてくれる。
E.Tやアウトサイダー、ITやストレンジャー・シングスで見たあのノスタルジックな世界がそこにあるのだ。

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ブルースの生まれ故郷と称するだけあってこの街では365日、本物のブルースのライブを味わう事が出来る。
個性豊かなライブハウスやレストランで奏でられる活きたブルースの音色は私のような余所者ですら一瞬でアメリカの原風景に浸らせてくれる。
その体験はきっと誰にとっても生涯忘れられない想い出となるはずだ。
そんな素晴らしい体験が出来る街が日本では殆ど知られていないなんて何と勿体無い。勿体無さ過ぎる。この文章を読んだ人にその魅力が少しでも伝わってくれれば良いのだけれど。

私が訪れたのは8月中旬、気温は30℃を超え快晴ではあったがムンムンとした蒸し暑さが立ち込めていた。憂鬱な環境ではあったが幸いここはブルースの街。どういう訳か蒸し暑さと黒人音楽は良く似合う。
演者も観客も汗をダラダラかきながら聴くあの感覚は何とも言えない特別感がある。もしあなたがアメリカ南部を訪れる事があるなら夏をお勧めしたい。

ボブ・ディランの名盤「Highway 61 Revisited」でも有名なハイウェイ61号線(別名ブルース・ハイウェイ)を抜け、ダウンタウンに向かうとまず出迎えてくれるのは交差点の真ん中にそびえ立つThe Blues Crossroadsと記された青いギターのモニュメント。

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ブルースやロックのファンであれば、伝説的ブルースマンであるロバート・ジョンソンが極上のギターテクと引き換えに悪魔に魂を売り渡した…という逸話をご存知であろう。
その物語の舞台となったと言われるのがここ、The Blues Crossroadsなのだ。ロバート・ジョンソンが存命中にここに十字路は無かったなんて裏話もあるが、そんな野暮な事は言わないでCrossroadでも聴きながら遠い過去に想いを馳せるのが良い。

田舎町だけにダウンタウンも非常に小規模なのだが、それでも至る所にブルースにまつわる店がある。生演奏を見たいのであればブルース好きのメッカとも呼ばれるRed'sGround Zero Blues Clubは外せない。個人的にはBluesberry Cafeもお勧めだ。

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いずれもミシシッピブルースの伝統を受け継いだ素晴らしいジュークジョイントである。
ジュークジョイントとは、かつてアメリカ南部において苛酷な労働を課されていた黒人達が唯一の憩いの場として仲間と歌やダンスやギャンブルを楽しんだ場所のこと。
土と歴史の匂いが漂うこの空間で堪能する手練れたローカルバンドの演奏は、どんな著名アーティストのコンサートにも代え難い価値がある。
ブルースの本場という誇り故か、どのバンドも本当に演奏が上手い。
Bluesberry Cafeに入る前、黒人のご老人に「音楽は好きか?」と声を掛けられ、勿論と答えると「じゃあ仲間だ」と優しくハグをしてくれた。
ライブが始まるとそのご老人はステージでドラムを叩いていた。
演奏や歌の素晴らしさだけじゃない、人柄や音楽に対する姿勢含め心底感動したのを覚えている。
パフォーマンス中、観光客に「どこから来たんだ」と尋ねるシーンがあり、10組ほどいたうち半数はスペイン、残りはアメリカ国内、イギリス、フランス、そして日本という内訳だった。(因みに僕が日本と答えると「日本人がライブに来てくれたのは初めてだ!」と異常に喜んでくれてこちらも嬉しかった。)
どうやらこの街には世界中から音楽好きが集まっているようで、外の喫煙所で交流出来たのも良い思い出だ。

この街はフェスも盛んで、画像の通り2019年だけで21回(!)もブルースフェスを中心に開催される。再度言うが人口1万6000人にも満たない小さな街でだ。全く羨ましい限りである。

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どれも小規模ではあるが、国内外から多くのブルースファンが集まり毎度中々の賑わいを見せているようである。
私が次回この街を訪問する時は、そのフェスに参加する時だろう。それまでにもっとブルースに詳しくなっておこう。
街並みやフェスの様子が分かる動画を見つけたのでリンクを貼り付けておこう。

ライブ以外だと世界初のブルース博物館であるDelta Blues Museumや、レコードやアートや本や衣類などあらゆるものを取り扱うCat Head Delta Blues & Folk Artも見逃せない。

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もしギターを嗜むのであればBluestown Musicという老舗ギターショップに行くのも良い。

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Rock & Blues Museumという行ってみたい博物館もあったのだが、今年の3月に残念ながら閉業してしまったようだ。

もう一つ、クラークスデールを訪れる際にはShack Up Innというホテルに宿泊する事を強くお勧めする。何故か。最高だからだ。
写真を見て貰えれば分かるが、絵に描いたような"忘れ去られたアメリカ"を体験できる。

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綿花プランテーションの倉庫やトタン小屋を改装した部屋で、写真だけ見ると不安になるだろうが中は意外と清潔で快適。レトロで雰囲気のあるインテリアにも拘りを感じるし、空調も効いていてシャワーもちゃんと出る。
玄関先のポーチに置かれた揺り椅子に座りながら、ゆっくりと流れる時間に身を委ねてみる。貸しギターを弾いても良い。何と豪華な時間だろう。思い出しただけで幸せな気持ちが溢れ出る。
ロビーにはバーとステージもあり、日によってはここでもブルースを楽しむ事が出来る。

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すぐ横にもHopson Commissaryという雰囲気の良い元綿花工場のバーがある。ここでもタイミングが良ければライブを楽しめる。

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Shack Up InnはBooking.comなどでは出てこないので、予約の際はホテルのHPから。このHPが見てるだけで面白い。
どの部屋or小屋にするか思う存分悩んで欲しい。

そんな魅力溢れるクラークスデールであるが、残念ながら日本からのアクセスは良くない。直近の大都市であるメンフィスから南西に車で約1時間半の距離にあるが、そもそもメンフィスにすら日本からの直行便は出ていない。
テキサスかワシントン辺りで乗り換えメンフィスに入り、そこから更にレンタカーで移動...というハードな旅路になるが、それ程掛けても行く価値がある事は約束しよう。
また別の記事で書こうと思うが、メンフィスもまた音楽と文化に溢れた良い街である。
もしオールドアメリカの雰囲気が好きなら、本物のブルースを味わいたいのならクラークスデールとメンフィスを併せて堪能する旅行を企画してみては如何だろうか。

そんな事を書いていたら私自身が猛烈に行きたくなってきた。
来年の夏に行けると良いな。

最後まで読んで頂きありがとうございます。