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選択の科学 ~The Art of Choosing~ Sheena Iyengar著を読んで

 少し前に、『選択の科学』という本を読了した。現代はThe Art of Choosingとなっているので、邦題の訳はちょっと意味づけが異なってしまうのが残念。しかし、Artという言葉が、単に芸術や美術におけるアートという意味ではなく、哲学的な意味を含んでいることを考えると、バッチリとくる邦題は難しいのもうなずける。

 もともとはビジネススクールの講義で教授からジャムの実験に関するエピソードを聞き、その元ネタがこの本だと知って手に取ったのがきっかけだった。人は豊富な選択肢があればいい、というわけではない、ということを証明した実験として有名なエピソードということだったが、恥ずかしながら私は知らなかった…(なのでこの本を読んだわけですが)

 著者はSheena Iyengar(シーナ・アイエンガー)というコロンビア大学ビジネススクールの教授。インド系アメリカ人の彼女は両親がインドからアメリカへ移住し、アメリカで生まれ育った。著者はシーク教徒の両親の影響のもと、インドとそれ以外の国の違いについて注目をした。特に、選ぶ、という行為について。しかも、彼女は、ある年齢になってから盲目となったため、世界を見る目がさらに研ぎ澄まされたのだと思う。

 この本の面白いところは、人は常に選択をし続けて生きている、という点に着目し、選択とは何か?選択という行動の原理は何か?選択肢の数は意味があるのか?など、それがわかると人生における最良の選択ができるのではないか?という点に着目した点だ。

 その中で著者は、選択をする上で「~からの自由」と「~をする自由」について書いている。つまり、何かを選択するにあたって、制約があるときとないときで自己満足感が異なる、ということに言及している。

「~からの自由」は集団主義的傾向の強い環境に身を置いていた人が自己決定感を求め、「~をする自由」は個人主義的傾向の強い環境に身を置いていた人が自己決定感を求めがちである、と書かれている。大きなスケールでいうと資本主義と社会主義のそれぞれの環境に身を置いていると、求める自己決定感に違いが生じるということでもある 。

  ちょうど今の日本で言えば、コロナが沈静化してきて3月中旬からマスク着用の義務がなくなったけれど、マスク着用義務からの自由という国の方針が出たにも関わらず、相変わらず同調圧力なのか横並びという集団主義的傾向の強い日本ではマスクを着用し続けている人が圧倒的だ。一方、個人主義的傾向が強い人はマスクを着用しない自由を選択して自己満足感を高め、マスク無し生活を謳歌している。しかし、街に出れば、それは少数派。つまり日本は集団主義的傾向の強い環境であり、選択において自己決定感の満足よりも、集団と同じ選択をすることに満足感を持つ国民性であることが如実に表れている結果だと思う。

 少数派が徐々に増えて、キャズムを超えたら集団のマスクをしないという選択に従う人が爆発的に増えることが予想できる。

 これはどちらの自由が良い悪い、ということではなく、選択とは国、地域、政治、文化の違いといった外的要因により異なるという前提に立って、世の中を見ることで視野が広がり、自分の考え方の傾向を把握し、それでもなお自分も適切な選択をすることができるようになる、という示唆でもある。

 朝起きてから、就寝するまで日々多くの選択をしている私たちに、改めて「選ぶとはどういうことなのか?」について考え方の扉を開いてくれる良い本なので、ぜひ読んでみてほしい一冊。


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