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最悪で最高な大人。【舞台感想】

新卒で働いていたことを、時々思い出す。

もう3年以上前のことだけど、今思い出しても全然泣けるし、なんなら書きながらもう泣いてる。

辛い時期だった、と一言で片付けるには薄すぎるくらい、辛い時期だった。

周りの目が気になってしまう性分の私が、なぜ人と人、部署と部署を繋ぐ進行部に配属されたのか。
上からの無理難題、現場からの怒号。
間に先輩を挟んでいても、どうしても辛くて。
私に直接飛んでくる怒号ももちろんあって。

怒られたとて、一気に仕事ができるようにはならぬ。
仕事というのは日々の積み重ねだ。

たしかに、新卒で働いていたあの3ヶ月間は短かったけど、私なりに前には進んでいたように思う。

前に進み、社会を知り、働く人を知り、大人を知る。

『他人の不幸で飯を食う仕事』と当時のディレクターが笑いながら言っていたのには流石に閉口した。

テレビ局で働いていて、毎日のように入ってくる悲しい事件、痛ましい現場の映像。
そのどれもに心が揺れ、傷つき、どうして私はこれを淡々と「仕事」として受け入れなくてはならないのか。

もっと他に、私のとるべき態度があるんじゃないか。
目の前で流れる悲惨な事故の映像を、ただのVTRとして受け流すことはとうとうできなかった。

大人ってそういうもの?
仕事だから、お金になるから。
そういう理由で、なんでもないような顔して、明日も働くのか?

周りの人はよく飲みに行っていた。
水曜日、今週もまだあと2日あるのに、日が変わるまで飲んでいた。
私もたまに、上司に連れて行ってもらった。

上司はまだ慣れていない私に言った。
「こうやって飲んでみんなで楽しく話して、また明日からやってけるようになるんだよ。それの繰り返し。」

飲んだ後は「たしかにまだやれるかも?」なんて気になるけど、現実、現場、仕事はそんな一時の高揚感じゃ乗り切れないと翌日知る。

大人は酒に逃げられる。
お金に逃げられる。
働いた結果、月末の私はこれまでのアルバイトでは見たこともない金額が振り込まれていた。

たぶん、これが大人。
辛いことがあっても、殴りたい上司がいても、起きるのが辛くても。
折り合いつけて、どこかで拠り所を見つけて、ただ明日を迎えてまた仕事をするだけ。

***

少しでも自分を奮い立たせるため、いろんな曲を聴いた。

『もし俺がヒーローだったら』

『悲しみを近づけやしないのに』

ヒーローってなんだろう。
汗水流して、時には血を流して、敵と戦うことなんだろうか。

実は、そうじゃなかった。

新卒で入った会社、仕事から逃げ出したときの私は、今から思えばかなりのヒーローだったように思う。

みっともなく会社に泣きながら電話して、その後病院に行って、そのまま「辞めます」とまた会社に泣きながら電話して。

全然カッコよくなんかなかった。
体も心もボロボロ。
それでも、すべて終わったあとの飯が最高に美味かった。

あのとき決断した私がいるから、今の私がいる。

今は心身ともに健康。

あのときは、心も体もすり減る直前だった。
そんな自分を救ったのは、みっともなく泣き続けた、あの頃の決断した私だった。

***

大人って最悪だよ。

全部が全部自分に返ってくる。
お金は使えばなくなるし、お酒は飲みすぎたら気持ち悪くなる。

誰も住民税払っといてくれないし、ガス電気水道は自分でハガキ出さないと口座引き落としにならないし、トイレットペーパーは自分で買わないとなくなるし。

誰も私の苦しみを理解してくれないし、代わりに悲しいこと全部被ってくれたりもしない。
自分の都合のいいようにも人は動かないし、隣の人には隣の人の人生があって、苦しみがあって、そして喜びがある。

たった1人で劇場に来たのに、周りに知らない人がたくさんいる。
その状況になると、私はいつも同じことを考える。

ここにいる人たちみんな、私の知らない世界で生きている。
私にも、ここにいる人たち誰にも分からない悲しみ、苦しみ、そして喜びがあるんだと。

だからと言うわけじゃないが、時給で働く人がみんな苦しい事情があるとか、新卒で正社員だから幸せに働けてるとか、決めつけない方がいいよ。

少なくとも私は、今日劇場で大好きな劇団を久しぶりに観られて幸せだ。

そのあと1人でこの感想を書きながら黙って乗る電車の時間も、手頃な量の晩ごはん(遅い)を求め、スーパーで値引きされた寿司を買って帰る充実感も、
全部が全部幸せだ。最高だ。

大人は最悪でもあり、最高だ。

辛いことばかり起こるこの世の中で、
大切にしたいものを、やっぱり大切だと気づいたとき。
それを抱えて生きて行くのが、大人だと思った。

***


久しぶりに大好きな劇団・劇団献身の舞台
『最悪な大人』を観劇。

なんとなく暗くなっている(ような気がする)日本で、その中でも楽しみを見つけ出せる。
そんな演出、演技がたくさんあった。

絶対に笑わせてくれます。
気になる方、お近くに住んでいる方、ぜひ足をお運びください。

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