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ことわざで覚えるデザイン その6

前回までの内容で、ことわざの特徴について「七五調」「比喩表現」「あるある」といった傾向があることに触れてきました。今回は、その他の傾向の一つ「誇張表現」についてです。

ことわざは、最初に触れたように、過去の経験を伝承する言葉の型です。だからこそ、より人々の印象に残りやすくするために、やや大げさに表現したものがよく見られます。

例えば、

二階から目薬

石の上にも三年

ペンは剣よりも強し

などが挙げられます。

普段の生活で、二階から目薬をさすなんてことは冗談としか思えません。しかし、そのくらい大げさな表現にすることで、そのことわざの意味する所をインパクトを持って伝わるように、工夫されているのです。

ところで、これまで見てきた「比喩」「あるある」「誇張」といった特徴を見てみると、これらは広告のアイデアを考えるときに活用する手法と似ていることが分かります。ことわざを考えるということは、広告の企画と同じくらいクリエイティブな作業なのです。

そう考えると、ことわざというものは何百年も言い伝えられている名コピーのようにも思えてきます。この力を活用して、デザインという経験の伝承に貢献することができれば幸いです。

それでは、今日のことわざです。

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ソフトは画材の一つに過ぎぬ

IllustratorやPhotoshopなどのソフトは、今ではデザインに欠かせないツールです。しかし、デザインをする上でこれらのソフトを使わなければいけないというルールはありません。まずは「伝えたいことありき」です。ソフトを使いこなすことは手段の一つであって、デザインという技術を習得することの目的ではありません。手で描いたって、泥を叩きつけて描いたっていいのです。

脳で描き 手で考えよ

以前、「企画七割手三割」ということわざを書きました。そうは言っても、実際の作業で「うーん」と悩んでいるばかりでは、何も進みません。常に頭の中で絵を想像しながら、それを手で描くことで紙に出力し、検討し続けることが大事なのです。検討段階での作業であれば、いちいちキレイなアウトプットに落とし込む必要はありません。本当に簡単な落書きのような絵でいいのです。いくら頭の中で絵を想像しても、実際に描いてみると、うまくいかないこともよくあります。逆に、手を動かすことで分かることや発見できることも、たくさんあります。何かを思いついたら、手を動かしながら考えるクセをつけましょう。

楽すれば苦あり

いざデザイン作業にとりかかろうというときに、誰しも無意識の内に楽な方を選択してしまうことがあります。「ここはあとで差し替えればいいや」「とりあえず検索して出てきた文章を当てておこう」「最終的に整えるときに作業しよう」こういった考え方が、一番危険なのです。重大な事故につながってしまう可能性もあります。やれることは、気づいたときにやっておく癖をつけましょう。最初に苦労しておけば、後々の作業が必ず楽になります。そもそも楽をしたいなんて、考えないほうが身のためなのです。むしろ、何か判断に迷うようなことがあったら、大変そうな方を選んだ方がいいでしょう。その方が、最終的にはクオリティの高い結果が得られるはずだからです。大変な作業も一度経験して慣れてしまえば、次からはそれが当たり前の基準になります。そうしてステップアップしていくことで、デザインのスキルも向上していくのです。

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今回は、やや誇張した表現を用いたことわざを選んでみました。基本、ことわざには何らかの「教訓」が含まれているものです。その教訓をより覚えやすくするためには、このような「誇張表現」が有効なのです。

折に触れて「あんなことわざがあったな」と思い出すことで、デザインをする上での「心構え」ができるはずです。それはきっと、「ソフトの使い方」のような通り一遍の「方法論」を暗記するよりも、効果があるのではないかと考えています。

また、「比喩」「あるある」「誇張」といった表現については、現在執筆中の本の中でも、面白さのひとつのジャンルとして取り上げています。ことわざは、「面白い表現」の宝庫でもあるのです。

「面白い」のつくり方(仮)/ 岩下 智 著
CCCメディアハウスより6月末頃 刊行予定!

Photo by Shalaka Gamage on Unsplash

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