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面舵いっぱい。スプーンを持て。
今日も海は大荒れだ。
あなたが乗っているこの船は大きさこそ巨大だが、もはや遭難船と言っていいほどに行き先が分からなくなってしまっている。
何せ動力は「人力」だ。それは他の多くの大型船も同様だが、乗組員が力を合わせなければ、ますます迷走することになるのは明らかだ。
その乗組員は何と総勢1億人以上もいるが、最近では高齢者も多く、逆に子どもはどんどん減っていて人員のバランスが悪い。昔は風まかせでも何とかなったものだが、これだけの人数を抱えて十分な軍資金もなく、貿易もうまくいかなくなっている。
もはや水をかくためのオールの支給もままならない。各自手に持っているスプーンでも駆使して、微力だろうが漕ぐしかない。少しでも前に進むためには。
そして今、数年に一度遭遇するような航路の分岐点に差し掛かっている。全員の意思を結集して判断を下し、行くべき方向を決定しなければならない。
そう。いよいよ選挙の日だ。
こんな状況においても、信じられないことに選挙に行かない人がいるらしい。何てことだろう。
実際、この巨大な人力の船において、たかが一人がスプーンを持たなかったところで、大した影響はないだろう。しかしそんな人間が半数近くもいたら、進むものも進まない。行くべき方向だってままならないものだから、目指すべき方向を間違ってしまうことも十分に起こりうる。
選挙に行かない人というのは多くの場合、自分のことしか考えていない人に違いない。
「これだけ人がいるんだ。自分一人が参加したところで何も変わらないし、参加しなくても大勢に影響はないだろう」
心のどこかでそんなことを考えているのではないだろうか。私も若い時分はそう考えていた。正直に言えば、選挙に行かなかったこともある。
自分一人のことだけを考えるなら、それでも生活には大した影響はないだろう。この国においては、多少金がなくても餓死するようなことはほとんどない。中途半端な裕福さが、独りよがりな人間を量産しているのかもしれない。
しかし、そうした独りよがりな人間こそが、歩きスマホで人にぶつかったり、優先席を堂々と占有したり、煽り運転を繰り返したりして、直接的・間接的に人に迷惑をかけるのだ。
やはり利己だけではよくない。かといって利他というのも少しハードルが高い。だったらいっそ、自分を含めた「利全」の精神が必要なのではないだろうか。
政治家という人たちは何だかテレビの向こうの遠い存在で、こちらに伝わってくるのはゴシップネタにしかならないような無駄な議論の応酬ばかりする人たちのように見えてしまっているのも問題なのかもしれない。政治はもっと身近な問題として考えられるようになるべきだと思う。
しかし政治というのは、自分が関わろうが関わらなかろうが、身のまわりの全てに影響する。政治がなければ、ケガや病気を病院で治療することもできないかもしれないし、電気を使ってご飯を炊くことだってできないかもしれない。
そして政治家は、我々庶民が持つ小さなスプーンよりもはるかに大きな、しかし数の少ないオールを持つことを許された人たちだ。当然、自分たちが信頼できる人間に持ってもらうべきだろう。
だからと言って、オールを持った人たちだけに任せているわけにもいかない。オールだけでは当然推力が足りないし、稀にオールの使い方があまり上手くない人もいる。どれだけ微力だろうが、1ミリも参加せずに寝ているような人間にはなってはいけない。
何もそんなに難しく考えることはない。一度選挙に行ってみれば、自分が投票した人や政党がどうなったか、少しは結果が気になるはずだ。それが参加するということだ。
自分も含め、家族や近しい人たちも含めたすべての国民が、これからどちらに向かうべきかを選択する、ある種の投資のようなものだと思ってもいいかもれない。もちろん、お金は一切必要ないし、自分には何の損もない。
むしろ参加しない理由が見当たらない。
さあ、スプーンを持とう。
Photo by Joel Bengs on Unsplash
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