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画家 青木重光の軌跡
本当は奇蹟と書きたかった。病に打ち勝って、画家として思うままに創作の日々を送る。それが青木さんの願いだったはずが、志半ばで鬼籍に入られてしまった。病に負けたとは思っていない、新たな人生を歩むために旅立っていったのだ。
デザイナー 青木重光と私
青木重光さん(享年67)は、インダストリアルデザイナーとして活躍された。企業内デザイナーに始まり、デザインファームに籍を置き、自身の名を冠したデザイン事務所を設立し、世界的に知名度の高いドイツの iF DESIGN AWARD を受賞するなど、数々の実績を残された。近年病に侵され、闘病の末、2024年の晩春に永眠。
青木さんとの縁は、公益社団法人日本インダストリアルデザイン協会/エコデザイン研究会(環境委員会)の活動で、数年間ご一緒させていただいたことに始まる、2000年代中頃のことである。協会会員であるデザイナーが学生向けに開催するワークショップで、厳しく辛辣に指摘される姿はプロフェッショナルデザイナーとしての矜持そのものであった。
十歳上の世代である青木さんの活躍は、私が学生時代に憧れたインダストリアルデザイナーの姿であり、正直うらやましく思ったものである。私はフロッグデザイン(ハルトムット・エスリンガー氏)に憧れを抱いてデザイナーを志したが、青木さんのようなスタイルのデザイナーを目指すには、私が社会に出た1990年代初頭ではもう遅かった。バブルは弾け、無限の可能性を追い求める活況な時代は終焉を迎えていた。十年の差は大きかったのである。
ものづくりを取り巻く要素が複雑化している現在では、純粋にデザインを、スタイリングを、モノの存在を追求する仕事に面白みを見出すことが難しくなっている。デザイナーが技術革新とともに歩んだ冒険の時代は過ぎ去ってしまった。
JUKO アオキ 透明水彩画展
デザイナーとして地位を築いた青木さんは、本当は画家になりたかったのだという。病と闘ってきた近年、数々の水彩画を残され、鎌倉の画廊で個展を開く準備をされていた。在廊予定の最終日にお会いするつもりでいたのだが、ついに叶うことはなかった。
私は青木さんとの約束を果たすため、ベスパに乗って鎌倉を目指した。海岸通りは潮の香りが心地良い、五月晴れの午後だった。一部ではあるが、素晴らしい水彩画をしばしご堪能いただきたい。
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最期に
青木さんは自分の人生の軌跡を、後進のために文章にまとめようとしていた。昨秋のある晩、チャットでのやり取りでこの企てに『協力してもらいたい』と書かれたことに快諾し、草稿の完成を心待ちにしていた。
私が知っているのは青木重光の一部にすぎないし、ここに内々のエピソードを書き連ねるのも野暮である。本当の彼の姿については、友人たちの協力で執筆が続けられているので発刊を待っていただきたい。きっと、素敵な仕上がりになることだろう。
私は、急性心筋梗塞で生き残った経験から「死は無自覚にやってくる」と思っていた。しかし、闘病を重ねる毎日で自分と向き合う時、死の訪れを感じ取れるようになるのかもしれない。個展での再会を約束した私に、青木さんは『1ヵ月先の展示会は自分の席は天国かもしれません。お許し下さい。』と書かれていた。それは現実となってしまったのだが、ご親族によれば【亡くなる直前まで、作品の選定、配置、個展はどのようなものにしたいか、全て指示をし、『何があっても個展は開催してくれ』と託して旅立ちました】とのことであった。
死を自覚した時、果たしてどんな行動がとれるだろうか。青木さんのように強い意志で自らの最期を締めくくることができるだろうか。
人生を、成りたかった画家として終えた青木重光さん。私が憧れたデザイナーの背中も、格好良かったです。
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(了)
※青木重光さんの作品写真は、ご親族の許可を得て撮影したものです。
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