わたしがダルビッシュ有投手の取材で学んだこと

すごく真面目な感じのタイトルになってしまいました。本当なら

「わたしがダルビッシュ投手の取材で泣いたこと」とか「わたしがダルビッシュ投手の取材後、新千歳空港で泣いた理由」などのほうが内容はストレートに伝わるかと思ったのですが、「泣いた」というネガティブワードが入っているために、何の落ち度もないダルビッシュ投手に迷惑をかけてしまってはいけないと思い、とりあえずあまり波風が立たなそうなタイトルにしてみました。

さて前置きはこれくらいで本題に入ります。

もう何年前のことかも覚えていないのですが(なんせつらい経験だったので記憶に蓋をして、その蓋の上にいろんなものを積んで封印してきたので)以前、働いていた女性向けプロ野球雑誌の取材でダルビッシュ有投手の取材を依頼されました。当時、すでに北海道日本ハムで大活躍していて、しかも女性ファンにも人気のある選手。普通だったら光栄だし、大喜びで取材に向かうでしょう。

ところが、当時のわたしはパリーグでは西武、セリーグでは巨人の取材が多く、正直、ダルビッシュ投手の投球をあまり見る機会がなかったのです。西武戦で投げる「対戦相手」くらいの知識です。

では、なぜそんなわたしに依頼が来たかと言いますと、当時その雑誌は1カ月くらいの間に12球団、さまざまな選手に取材をし、紙面にご登場いただいていました。スケジュールが重なることも多く、一日に違う選手の取材がかぶることが多々ありました。

当然、優先されるのは、普段からその選手に取材をしているライターなのですが、運が悪かったことに、ダルビッシュ投手の取材の日には、すでにほかの取材が入っていたようで、それでもエースが投げられないのであれば、その次に取材に行ける第二エースもいて、当時はA記者とB記者という高校時代からダルビッシュ投手を取材していたいわば両エースがいましたので、たいがいの取材はその2名でなんとかなっていたはずなのです。

ところが、その日に限ってはA記者もB記者もほかの取材が入っている。スケジュールが空ている記者がわたししかいない。そこでわたしに白羽の矢が立ってしまったのだと理解しています。

とりあえず大量の資料を頭に入れ、札幌の、ビール園の近くにある一軍の寮へ向かったのですが…

恐ろしいことに、忘れたい記憶って、それに関連した細部も忘れてしまうようで、どうやってその寮に行ったか全く覚えていないのです。

どんなカメラマンさんと一緒だったかも記憶にない。(カメラマンさんごめんなさい)

なんでそんな事態になったかというと

とにかく緊張していた!

緊張して緊張して、ダルビッシュ投手を目の前にしたときには頭が真っ白になり、当然、自分が用意してきた質問を繰り返すことしかできず、相手の言葉の深い意味を拾って掘り下げることもできず、ただただ緊張したまま取材が終了したのです。

もちろんダルビッシュ投手は真摯に答えてくださったと記憶しているのですが、いかんせん、普段は違うチームの担当記者。突っ込んだ質問もできなかった気がします。しかもなんとなくダルビッシュ投手の「怖そう」というイメージ(これもメディアが作りあげた誤解だと思うのですが)もあいまって、ガチガチのままインタビューを終えました。

惨敗です。野球だったら5回10点差のコールド負けくらいの、手も足も出ない惨敗です。

おそらく取材を受けるほうも、薄っぺらい質問ばかりで、どう答えていいのか戸惑われたのではないでしょうか。それも申し訳なかったです。

そして何より、この紙面を楽しみにしてくれている読者の方にも申し訳ない。

帰り、新千歳空港について、搭乗手続きを済ませ、ベンチに座った瞬間に、自分に対する情けなさとか、読者への申し訳なさとか、原稿の出来を見てもう二度と、仕事を依頼してもらえないんじゃないかという不安とかがドドドドドドっと襲ってきまして。涙がぼろぼろ流れてきました。

そのあとその記憶に蓋をしてなるべく思い出さないようにしてきたのですが、ここのところのダルビッシュさんの動画の、過去の失敗に向き合う姿とか、赤裸々な告白に触発され、閉じていた蓋を開けて今後に生かせる材料を探してみようという気になったのです。

・失敗した理由

①とにかく緊張して、普段の力が全く出せなかった

→緊張した理由は、相手のことをよく知らないという不安。もちろん資料は頭に叩き込んでいても、目でピッチングを見て、継続的に話を聞いていない相手だったため、自信がなかった。その自信のなさが緊張につながってしまった。

解決策)とにかく、自信を持って目の前に行けない相手の取材はお引き受けしないこと。もしくは徹底的に準備をして臨むこと。初めて会ったよく知らない人だと思うと緊張するので、普段からよく取材に行き、「この人のことはよく見ている」と自分に思い込ませること。

②有名な選手を取材して、もしかしたら今後もお仕事につながるかもしれないという下心があったこと

→問答無用、下心はダメ。そんな甘い話はない。

そんな感じで、若かりしころの失敗を振り返ってみました。

わたし自身、この一件だけではなく、いっぱい失敗をして今に至っているので、まだライターになりたてとか、新しい仕事についたばかりの人は、失敗を恐れずにどんどん挑戦してほしいです。現場で若い新聞社の記者さんにもお会いしますが、どんな質問でも、自分で聞いてみたいと思ったことは、聞いてみていいと思います。そうやって徐々に度胸がついて、取材相手のこともわかって、聞きたいこともたくさん出てくると思います。

今まではこの一件を思い出すのが嫌で、あまりダルビッシュ投手の試合も見なかったり、記事も読んでいなかったんですが、これからはしっかり拝見しようと思います。

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