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建設業における発注者のコンプライアンス 工期編

前回に引き続き、建設業のコンプライアンスについての内容です。
今回は契約における工期についての留意点を解説します。


1.工期の設定と短期間にするリスク

工期の設定は、建設工事において重要な要素のひとつであり、適切な工期を確保しないことは、労働者の長時間労働を引き起こす恐れがあります。それにより、事故や手抜き工事のリスクを高める要因にもなり、信用問題や余分なコストを発生させる事に繋がります。発注者が請負人に対して著しく短い工期で請負契約を締結することは、建設業法第19条の5に違反となります。特に元請負人が発注者から早期の引渡しを求められたからといって、下請負人に対して著しく短い工期を押し付けることは、違反となる可能性がある事を注意しなくてはなりません。この法律は、労働環境の改善や工事の質の確保を目的として、通常必要とされる工期に比して著しく短い工期の設定を禁止しています。これにより、下請負人は合理的な期間内で質の高い工事を行うことができ、元請負人の一方的な要求による不適正な契約を避けることができます。

2.「通常必要と認められる期間」と工期に関する基準

「通常必要と認められる期間」とは、建設業において適正な工期を確保するための基準であり、中央建設業審議会による「工期に関する基準」として示されています。この基準に基づかず、不適正に短い期間で契約を結ぶことは建設業法に抵触する可能性が高いです。工期が適切であるかどうかの判断は、各契約において元請負人と下請負人が示す見積内容や契約条件、過去の同様な工事の実績などを総合的に勘案して行われます。重要なのは、工期が短すぎることで労働者が無理な労働をせざるをえない状況を生み出さないことです。元請負人と下請負人の間で合意した工期であっても、労働基準法に定める時間外労働の上限を超える働き方が要求される場合、その工期は不適切と言えるでしょう。

3.工期の変更とその影響

工事の進行中には、天候などさまざまな理由で工期が変更されることがあります。工期が元の契約通りに進行しない場合や工事の内容が変更される場合、工期の延長や短縮が発生しますが、この際にも建設業法第19条の5は適用されます。繰り返しになりますが、元請負人が下請負人に対して、適切な工期変更契約を行わずに短い工期を押し付けることは法律違反です。工期を変更する場合においても、元請負人は工事の進行状況や下請負人の意見を踏まえた上で、新たな工期を設定しなければなりません。

4.変更契約の重要性

工期が変更される際には、当初の契約内容を変更する書面契約が必須です。特に、下請工事に関しては、元請負人と下請負人の協議が必要であり、書面での合意を基に契約を変更しなければなりません。これは建設業法第19条第2項に規定されており、違反した場合は法的なペナルティが科される恐れがあります。元請負人が工期変更の際に書面での変更契約を行わない場合、下請負人の労働条件が悪化し、長時間労働を強いられることになるため、元請負人側にも責任が生じます。また、工期変更が必要な場合、工事の着工前に変更内容を確定し、書面で双方が合意することが求められます。この手続きを怠ることは、工事現場での混乱や後の紛争の原因となります。

5.下請負人への不当な負担とその違法性

下請負人の責任によらない理由で工期が変更され、その結果として工事費用が増加した場合、元請負人が適切な契約変更を行わず、増加分の費用を下請負人に負担させることは、建設業法に違反する行為とみなされます。工事の途中で追加工事が発生したり、元請負人の都合で工期が延長された事による人手の確保など、費用が増加することがあります。その場合には元請負人が費用負担について適切に対応するしなくてはなりません。元請負人がこれに応じない場合、建設業法第19条第3項の「不当に低い請負代金の禁止」に違反となる恐れがあります。元請負人は、下請負人に過度な負担を強いることなく、合理的な契約変更を行う義務があります。

6.まとめ 

建設業における工期の設定は、労働者の安全や工事の品質に直結する重要な要素です。著しく短い工期の設定は、様々なリスクを伴います。適正な工期を確保することは、建設業界全体の働き方改革の一環としても重要であり、労働環境の改善や工事の質向上に寄与します。


参考文献:国土交通省「建築業法令遵守ガイドライン」
国土交通省中央建設業審議会決定「工期に関する基準」https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/const/content/001735066.pdf

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