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スターはなぜスターなのか?(2)

 前回の記事では、1980年代までのスター研究を概観し、スターを説明する要因として、「才能」と「人気のネットワーク外部性」について説明した。本記事では、1990年以降のスター研究を見ていく。

 1994年、Chung と Cox は、スターの「才能」に対して疑問を呈する論文を発表した[Chung & Cox (1994)]。 この論文において彼らは、Yule-Simon過程という確率過程モデルを使って、才能が同じであっても、幸運な偶然によってスターが生まれ得ることを示した。また、このモデルが、1958年から1989年のアメリカにおけるヒットレコードのデータをうまく説明できることを示した。この論文によって、スターの説明要因として「幸運」が付け加わることになった。

 2000年代に入ると、ネットワーク科学からのスター研究が開始される。Salganik、Watts らは、オンライン上に人口文化財市場を構築し、そこで音楽のヒットを探る実験を行った[Salganik, Dodds and Watts (2006)] [Salganik and Watts (2009)]。具体的には、オンラインで被験者に未発表の楽曲を聴いてもらい、自分が好きな曲をダウンロードしてもらう実験を行った。彼らはここで被験者を2つのグループに分けた。一方のグループには、各楽曲のそれまでのダウンロード回数の情報開示を行い、もう一方のグループには何の情報も開示しなかった。すなわち、他人の行動による社会的影響があるグループと、社会的影響がないグループとに分けたのである。

 その結果、以下の3つのことが分かった。①社会的影響がないグループで最高に評価された曲は、社会的影響があるグループにおいて最低になることはなかった ②社会的影響がないグループで最低に評価された曲は、社会的影響があるグループにおいて最高になることはなかった ③社会的影響力の強さが増すと、ヒットの不平等性(一部の曲に人気が偏ること)と予測不可能性が増した ④ 1〜3の結果、楽曲の良さ(品質)はそのヒットを部分的に決定するだけで、社会的影響によってヒットが変わることが分かった。

 ここでいう品質は、スターの才能と捉えることができる。Salganik、Watts らの実験結果からいえることは、作品の品質というものは確かにヒットに影響するが、品質の良さが必ずしもヒットに繋がる訳ではないということである。消費者相互のコミュニケーションを含む社会的影響によって、ヒットの軌跡が変わっていく。我々は、あるエンターテインメント作品の社会におけるコミュニケーションの全てを把握することはできない。良い社会的影響が形成されるのは「幸運」に左右される部分が大きいと言わざるを得ない。

 こうして現在では、スターになるためには「才能(作品の品質)」「人気のネットワーク外部性(社会的影響)」「(人気のネットワーク外部性獲得過程における)幸運」という3つの要素が揃わないとスターになれないのではないかと研究者達は考えている。

参考文献

Chung, K. and Cox, R. [1994], "A stochastic Model of Superstardom: An Application of the Yule Distribution," The Review of Economics and Statistics, Vol. 76(4), pp.771–775.

Salganik, M., Dodds, P., and Watts, D. [2006], "Experimental Study of Inequality and Unpredictability in an Artificial Cultural Market," Science, Vol. 311(5762), pp.854-856.

Salganik, M. and Watts, D. [2009], "Web-based Experiments for the Study of Collective Social Dynamics in Cultural Markets," Topics in Cognitive Science, Vol. 1(3), pp.439-468.


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