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【試し読み】精読・涼宮ハルヒの暴走

※この記事は、2023/05/21発行の非公式考察本『精読・涼宮ハルヒの暴走 ~非公式考察本シリーズ vol.5~』の試し読みページです。全80ページのうち『まえがき』『イントロダクション』と、『各エピソード考察』の一部をご覧いただけます。
 本書と同シリーズは各書店にて展開中です。もし試し読みで興味を持ってくださった方は、ぜひ下記のページからお求めください。
 購入リンクまとめ:http://jl.ishijimaeiwa.jp/peruse-rampage/

はじめに

 初めましての方は初めまして、そうでない方はこんにちは。小説「涼宮ハルヒ」シリーズのファンサイト・涼宮ハルヒの覚書の管理人兼アニメライターのいしじまえいわと申します。この度は『精読・涼宮ハルヒの暴走~非公式考察本シリーズvol.5~』を手に取ってくださり誠にありがとうございます。

 本書は小説「涼宮ハルヒ」シリーズの第五巻『涼宮ハルヒの暴走』(以下『暴走』、他シリーズ作品も同様に表記します)に収録された各短編の考察を試みた本です。『暴走』をご覧の方向けの内容になっていますので、未読の方はぜひ『暴走』および同シリーズを先にお読みくださいませ。
また、本書の内容は他の巻の考察と関連がありますので、『精読・憂鬱』以下、弊サークルの他の刊行物もご覧いただけますとより楽しめるかと思います(とはいえ本書からでもご覧いただけます)。

 「涼宮ハルヒ」シリーズの短編巻の考察としては本書は『精読・退屈』に続く二冊目になります。前の巻で、「涼宮ハルヒ」シリーズの各短編は独立した物語としてだけでなくシリーズ全体の一部としても読み得ることが分かりました。同じように、本書を通じて『暴走』の見方が変わり、改めて「涼宮ハルヒ」シリーズ全体を読み直してみようと思っていただけましたら幸いです。

 毎度のことですがまえがきの最後に謝辞を述べさせていただきます。ネットなどで私のハルヒ考察に付き合ってくださるフォロワーのみなさん、表紙絵や装丁など本書の文章以外の部分(つまりほぼ全部)を作ってくれた妻たなぬ、そして何より「涼宮ハルヒ」シリーズの物語を生み出し続けてくださる谷川流先生といとうのいぢ先生に、この場を借りて御礼申し上げたいと思います。ありがとうございます!

 それでは早速、以下、レッツゴー!


イントロダクション

SOS団の一年を彩る夏・秋・冬の物語

 本章では『暴走』本編の考察に移る前に『暴走』という本の成り立ちについて振り返ります。それに加え、本書における考察のコンセプトやレギュレーションについてもこの章で取り扱います。

 まず、書籍としての『暴走』について。本書は「涼宮ハルヒ」シリーズの第五巻として二〇〇四年十月一日(注1)に刊行されました。『憂鬱』が二〇〇三年六月十日、第二巻『溜息』が同年十月一日、第三巻『退屈』が二〇〇四年一月一日、第四巻『消失』が同年八月一日刊行ですので、『暴走』は  『溜息』のちょうど一年後、『消失』の二か月後に刊行されています。一年半弱で五冊ですから、この頃のハルヒシリーズは二〇二三年現在に比べると刊行ペースがとても早かったことが分かります(注2)。

 本書には雑誌「ザ・スニーカー」に掲載された『エンドレスエイト』と『射手座の日』が収録されている他、『雪山症候群』と各エピソードのプロローグにあたる『序章・夏』、『序章・秋』、『序章・冬』が新たに書き下ろされています。雑誌掲載作+書き下ろしという構成は『退屈』と同様です。
 既刊四巻がそれぞれ、『憂鬱』はキョンの高校一年の四月から五月にかけて(春)、『退屈』は六月と七月(夏)、『溜息』は十月から十一月(秋)、『消失』は十二月(冬)の出来事を描いていますが、『暴走』収録の三篇は『退屈』に収録されている『孤島』(夏)、『溜息』および『ライブアライブ』(秋)、そして『消失』(冬)、それぞれの直後から始まるエピソードになっています。
 このことから、第四巻までは各巻がそれぞれ四季に対応しており、第五巻『暴走』はそのうち夏秋冬のエピソードのプラスアルファという構成意図があったことが推察できます(注3)。なお、第六巻以降はこのような季節に応じた構造は希薄になっていきます。
 ちなみに書籍名となっている『涼宮ハルヒの暴走』というエピソードは存在しません。特定のエピソード名でない名称が書籍名になるのはシリーズ初で、後続する短編集である第六巻『動揺』、第八巻『憤慨』、第十二巻『直観』は全て『暴走』と同様の法則で命名されています。

注1:スニーカー文庫版『暴走』奥付より。なお、スニーカー文庫公式サイト「ザ・スニーカーWEB」(https://sneakerbunko.jp/ )での記載は二〇〇四年九月三十日発売。他の巻も刊行日ではなく発売日として異なる日付が記載されている。
注2:『ハルヒ』シリーズ以外では電撃文庫から刊行の『学校を出よう!』シリーズ第六巻までに加え、電撃萌王にて『電撃!イージス5』の連載も行っており、この時期の谷川先生は非常に多作家だった。
注3:『射手座』より先に雑誌掲載されていた『朝比奈ミクルの冒険 Episode 00』(「ザ・スニーカー」二〇〇四年二月号初出)が『暴走』に掲載されていない理由の一つは、「『溜息』の補足エピソード」という役割が『射手座』と重複するためだと考えられる。

意外と長い?『暴走』の作中時間

 『暴走』には初の新規書籍名を冠した短編集であることの他に、もう一つ、シリーズ内において特徴的といえる点があります。それは、収録エピソードが複数の季節にまたがるため、一冊の中で経過する時間の幅が七月下旬頃から十二月末までの約五ヵ月間と特に長いことです。前述の通り第一巻から四巻まではいずれも長くて二ヵ月程度、その後の巻も『直観』以外は二、三ヵ月内に収まるエピソードとなっています(注4)。『直観』は一月三日(注5)の『あてずっぽ』から五月末から六月初旬頃(注6)と思われる『鶴屋さんの挑戦』までの約五ヵ月となっていますから、『暴走』と『直観』は
作中描かれる時間の長さの点で双璧と言えるでしょう(注7)。

注4:『動揺』は十一月から一月までの二ヵ月間、『陰謀』は十二月十八日早朝への時間遡行を考慮しても二ヶ月間、『憤慨』は三学期のエピソードなので長くても三ヵ月間、『分裂』『驚愕(前)』『驚愕(後)』は三巻で約二ヵ月間の物語となっている。
注5:「一月三日の正午過ぎ」(『直観』、七頁)
注6:「そろそろ梅雨の匂いが鼻先をかすめてきそうな、春と夏の端境期」(『直観』、百五十七頁)、気象庁ウェブサイト「気象庁|予報用語 時に関する用語」(https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/yougo_hp/toki.html  )によると、春は「3月から5月までの期間」、夏は「6月から8月までの期間」と定義されている。また、同サイト内ページ「昭和26年(1951年)以降の梅雨入りと梅雨明け(確定値):近畿」https://www.data.jma.go.jp/cpd/baiu/kako_baiu07.html  )によれば、梅雨入りは凡そ五月最終週から六月二週目まで、平均的には六月六日頃とされている。
注7:客観的な時間でなら三年間の時間跳躍を伴う『笹の葉』『消失』等の方が幅が広いが、キョンの主観的にはそれらは僅かな時間しか経過しておらず、彼が三年分の人間的変化を遂げているわけではない。そのため本書では基本的にキョンの主観時間を考慮の対象とした。

『暴走』の構成が可能にする観測

 『精読・退屈』にて確認した通り「涼宮ハルヒ」シリーズの登場人物は長編だけでなく短編の中でも作中の時間の流れに応じて微細に変化、成長し、関係性も変わっています(注8)。描かれる期間が広いということはそれだけ登場人物たちの変化も大きい可能性があるため、『暴走』は「涼宮ハルヒ」シリーズの登場人物の成長や変化を読み取るには適した巻だと言えるかもしれません。
 一方で、時間の経過と人格的変化や成長の程度が比例するとは限りません。現実の人間に即して考えれば、むしろほんの一瞬、たった一つの出来事によって性格や他者との関係性が大きく変化することの方が多いとも思われます。
 その点でも『暴走』の各エピソードは、いずれも作中の大きな出来事の直後に位置しつつ(注9)『エンドレスエイト』と『射手座』の間に『溜息』、『射手座』と『雪山』の間に『消失』という長編を挟んでいます。そのため時間経過による変化だけでなく長編ストーリーで描かれる大きな出来事による心理的または関係上の変化を観測するという意味でも、『暴走』は考察対象とするのに相応しい一冊だと言えるでしょう。

 そこで本書では「涼宮ハルヒ」シリーズ全体の物語、特にキャラクターの成長や関係性の変化への理解を深めることを目的とし、『暴走』に収録されている三篇および各序章について、それ以前のエピソードでの描写との比較も踏まえて「SOS団五人の変化」という観点から読解と考察を行います。これによって、三篇を個々の短編として切り分けて読むより前後のエピソードとのつながりや意味合いがより明確になることが期待されます。
 なお、考察の主眼はシリーズ全体の流れの方に置きますが、各エピソードに対する短編としての考察も少しだけ付記します。

注8:詳細は拙著『精読・涼宮ハルヒの退屈~非公式考察読本シリーズvol.4~』をご参照いただきたい。
注9:『雪山』は主に十二月三十日のエピソードであり時系列的に『消失』との間に『ヒトメボレ』を挟んでいるが、回想シーンにて『消失』のラストで描かれたクリスマスイブのパーティとその後を描いているという点で直接つながっているのは『雪山』の方であると考えられる。

キョンはいかにして主人公になったか

 『暴走』を読み解くにあたって、もう一つポイントを設けたいと思います。谷川流先生は『暴走』の前の巻である『消失』について、劇場用アニメ版の監督である石原監督との対談で以下のように述べています。

石原 この『消失』という物語は表に長門が立っていますが、キョンとハルヒに焦点を絞っているんですよ。コンテを描いた時に思ったのは、今回はキョンが能動的に動くんですよね。
谷川 キョンは、ようやく『消失』で主人公になる決意をするんです。(注10)

 お二方の発言の参照元は劇場用アニメ版のガイドブックですが、ここでいう『消失』とは原作も含めたものであると考えるのが妥当でしょう。
「キョンは『消失』で主人公になった」というのは谷川先生の言葉を借りるまでもなく多くの読者が口にする感想の一つです。また、石原監督の言うように、その主人公らしさとは能動性にあると考えられます。では、何に対してどのように能動的になることがキョンを主人公たらしめているのでしょうか?
 これについて私は『精読・消失』にて「仲間を結びつけSOS団を守ること」だと結論付けました(注11)。『暴走』には『消失』の直後の物語を描いた『雪山』が収録されており、『消失』で成長を遂げたキョンの言動が印象的に描かれています。そこで本書では、『消失』で主人公になったと言われるキョンが具体的にどういう人物になったのかについても、『消失』前との比較もしつつ明らかにします。

注10:『公式ガイドブック 涼宮ハルヒの消失』、八十八頁
注11:詳細は拙著『精読・涼宮ハルヒの消失~非公式考察読本シリーズvol.3~』をご参照いただきたい。

本書での考察レギュレーション

(過去に投稿した『【試し読み】精読・涼宮ハルヒの溜息』と同様の内容であるため割愛します。内容についてはこちらをご覧ください。)


各エピソード考察

「各エピソード考察」の章より、『エンドレスエイト』『射手座の日』『雪山症候群』の冒頭をそれぞれ少しだけ紹介します。

『エンドレスエイト』

二つの『エンドレスエイト』

 この章では『暴走』に収録されている三つの短編および各序章について、おおよそ①作品の概要②筆者(私)の所感③SOS団五人の心情や状況についての一つ前のエピソードまでのおさらい④五人の内的/関係性の変化⑤考察とまとめ、について述べます。全てについて触れなかったり、順番が前後したりする点についてはご了承ください。なお、各『序章』については対応するエピソードの中で触れます。

 本項ではまず夏のエピソードである『エンドレスエイト』の概要についてまとめます。
 本作は雑誌「ザ・スニーカー」二〇〇三年十二月号に初めて掲載されました。雑誌掲載作『涼宮ハルヒの退屈』シリーズ(注14)としては『ミステリックサイン』の次のエピソードになります。
 「涼宮ハルヒ」シリーズ(以下、『ハルヒ』)は二〇〇三年六月号の初掲載以降(注15)、毎回巻頭特集が組まれるくらいプッシュされている作品でした。一方『エンドレスエイト』が掲載された二〇〇三年十二月号は表紙と巻頭特集共に『トリニティ・ブラッド』(注16)が占有しており『ハルヒ』は短編の掲載以外に特集もなく、存在感はそれ以前の号に比べると少々希薄です。初登場から三号、半年間に渡ってプッシュし続けてここで一息、という感じだったのかもしれません(といっても掲載順としては特集作品『トリブラ』の次ではあったのですが)。

 本作について谷川先生は『暴走』のあとがきにて次のように述べています。

 最初にこれを書いたとき、ちょうど原稿用紙換算で百枚くらいでした。そこから二十枚ほどカットしたものをザ・スニーカーに載っけていただくことになりましたが、今回せっかくですので初期バージョンに戻してみました。(注17)

 雑誌に掲載されたのがショートバージョンで、その後文庫に掲載されたのが初期バージョンということになります。初めて世に出たのが初期バージョン、ではないのが若干ややこしいところです。
 なお、ショートバージョンは文末の短縮、変更を中心に、文および改行の削除、表現の変更など全編に渡って細かく手が入っているのですが、特に大きな修正箇所は次の通りです。

・『序章・夏』がない
・市民プールでのみくるちゃんのミックスサンドやハルヒの水中ドッジボールなど後半部分の描写がところどころカット
・ハルヒの『夏休みにしなきゃダメなこと』リストから「バッティング練習」削除
・喫茶店を出た後のキョンが長門を呼び止めるシーンが全カット
・バッティングセンターのシーンが全カット

 他にもハルヒの「男が百人くらいいたら五人はゲイなのよ。」(注18)発言がカットされていたり、バイトの後ハルヒがアイスを舐めながら現れた際のキョンの「真剣、こいつどこかの熱い砂浜に首から下を埋めてやろうかと思ったほどだ。」(注19)という発言が「真剣、こいつ殺そうかと思ったほどだ。」(注20)に変わっていたり(注21)、初期バージョンとの違いはいくつか散見されます。
 とはいえ物語展開は同じですので、ショートバージョンと初期バージョンとで印象の違いはそれほどありません。強いて言えば長門を呼び止めるシーンが無いことでデジャブとそれに伴うループの謎解き要素が減り、相対的に「高一の夏休み満喫感」が少々増しているかもしれません。

注14:現在「涼宮ハルヒ」シリーズの文庫に収録されている短編は、雑誌掲載時はほとんどが「『涼宮ハルヒの退屈』シリーズ」として掲載されていた。
注15:厳密には、初めて『退屈』が載った二〇〇三年六月号の前の号(四月号)では速報として『憂鬱』のスニーカー大賞受賞が報じられている(「ザ・スニーカー」二〇〇三年四月号、四十八頁)。また、さらにその前の号には最終審査通過作品として『憂鬱』の作品名とあらすじ、谷川先生の氏名と出身地が掲載されている(「ザ・スニーカー」二〇〇三年二月号、七十七頁)。ちなみにこの二号では主人公の名前は「俺」とされている。
注16:作者は谷川先生が『暴走』のあとがきにて哀悼の意を綴っている吉田直氏。
注17:『暴走』、三百二十四頁
注18:同、三十三頁
注19:同、四十六頁
注20:「ザ・スニーカー」二〇〇三年十二月号、七十五頁
注21:状況としては殺そうかと思ってもおかしくない状況ではあるし、この言葉遣いについては西日本と東日本とで使う側、言われる側の印象が異なるようにも思われる。一方、もしこのまま文庫掲載されていたとしたら作風に多少なりとも影響を与えていたと考えられるし、『驚愕』クライマックスでの藤原への「絶対必ずパーフェクトにぶっ殺してやる。」(『驚愕(後)』、百八十五頁)という発言の意味も薄れていただろう。

〈各エピソード考察『エンドレスエイト』試し読みはここまで〉

『射手座の日』

初の前後編エピソード

 『射手座』は「ザ・スニーカー」二〇〇四年四月号(注120)および六月号に二号にわたって掲載されました。雑誌掲載時は初めての前後編という形で、前編は文庫の百三十一頁の「一週間後の対コンピュータ研戦の場で、俺は思わぬ光景を目にすることになった。」の箇所で終わっています。
 「ザ・スニーカー」二〇〇四年四月号は、表紙及び巻頭特集は『されど罪人は竜と踊る』が飾っており、『ハルヒ』は前の号で表紙と巻頭特集扱いだった反動か掲載順としては中央やや後ろの控え目なポジションに位置しています。ただし地味な扱いというわけでもなく、カラー見開きで「『涼宮ハルヒの憂鬱』少年エース5月号(3月26日発売)より連載開始!!コミック化決定!」(注121)とシリーズ初の他メディア展開が報じられている他、三頁の予告スペシャルコミックが掲載されています。なおこの漫画版は月刊コミック誌「少年エース」二〇〇五年十一月号から二〇一四年二月号まで約九年間連載されたツガノガク氏によるものではなく、他メディア展開の第一弾であり、連載期間一年弱、コミックス一巻の刊行で打ち切られたいわゆるみずのまこと版の方です(注122)。
 続く二〇〇四年六月号でも『ハルヒ』は中央やや前よりの頁に位置しており、表紙は新連載作品『放課後退魔録』のイラストになっています。ただし『ハルヒ』も巻頭のプレゼントキャンペーン「スニーカー・フェスタ04」にて大きくフィーチャーされており、表紙にもイラストが大きめに掲載されています(注123)。
 その他のハルヒ関連の記述では、第九回スニーカー大賞の選考委員コメントにおいて水野良氏が「昨年の選考は大賞受賞作とそれ以外の作品のレベルの差がはっきりとしていたので、ほとんど議論の余地はなかった。」(注124)と述べていることが目に付きます。『憂鬱』に大賞を与えて一年経過してもまだ熱冷めやらず、といった感じです。
総じて、この二号では表紙は飾っていないもののそれなりにいい扱いを受けており、連載一周年を迎えてザ・スニーカー誌の看板作品の一つになっていることが窺えます。

 『暴走』のあとがきには一応谷川先生が本作について述べるパートが設けてあるもののゲーム体験回想録的なものになっており、『射手座』の内容については一切触れていません。それ以外にも本作の内容について谷川先生が述べた例は見つからず、作者による『射手座』評は現状不明です。もしそういった文献などをご存知の方がいらしたら是非お知らせください。

注120:『エンドレスエイト』が掲載された二〇〇三年十二月号から一号飛んでの掲載だが、二〇〇四年二月号には『朝比奈ミクルの冒険 Episode00』が掲載されていた。
注121:「ザ・スニーカー」二〇〇四年四月号、百四十四、五頁
注122:なお、みずのまこと版『ハルヒ』の打ち切りについて「連載中に成人向け同人誌を出したから」という説があるが、ジャーナリストの安藤健二氏の取材によれば該当の同人誌は成人向けではなく、そもそも同人誌の刊行が主要因というわけでもないという。
注123:なお、このキャンペーンの景品は、『暴走』口絵の白Tシャツ&素足姿のハルヒ、長門、みくるが大きくあしらわれた「ハルヒ主義Tシャツ」(五名)と、部室冬服メイド姿のみくるが描かれた「いとうのいぢ×谷川流 直筆色紙」(一名)。現存していたとしたらどちらも超貴重品である。
注124:「ザ・スニーカー」二〇〇四年六月号、六十一頁

〈各エピソード考察『射手座の日』試し読みはここまで〉

『雪山症候群』

新章開幕!

 『雪山』は二〇〇四年十月一日刊行の『暴走』収録の新作書き下ろしとして発表されました。同じく『暴走』に収録されている『エンドレスエイト』や『射手座』はもちろん、「ザ・スニーカー」二〇〇四年八月号に掲載された『涼宮ハルヒ劇場 ファンタジー編』や『消失』(同年八月一日刊行)よりも後に書かれた作品だと思われ、それらの内容を受けた物語になっています。
 巻末のあとがきでは、参考書籍について触れている以外、内容については深く触れられていません。『射手座』同様、作者の評価は現状不明です。

 私が『雪山』のシリーズ内における特徴を言い表すとしたら、それは「涼宮ハルヒ」シリーズの新章開幕、になります。主に短編でじっくりと描かれてきた長門の物語が『消失』で一区切りし、キョンは一度ハルヒと仲間たちを失うことでSOS団に対するスタンスを改めました。『雪山』ではSOS団の共通の敵となる新たな存在が示唆され、キョンもまた自分の役割を果たすよう積極的に行動するようになります。
 また内容面に関しても、『雪山』の前後からそれまで類型的なキャラクター然と描かれていた登場人物たちの内面が描かれる度合いが高くなり、よりリアルな人間味を感じさせる描写が増えていく印象です。その点でも『雪山』はシリーズの第二章開幕! という趣きがあります(これは私の主観であり、公式サイドが第二章を謡っているわけではありません)。


 以上、全80ページのうち『まえがき』『イントロダクション』と、『各エピソード考察』の一部を抜粋してご紹介しました。
 続きは2023/05/21発行予定の非公式考察本『精読・涼宮ハルヒの暴走 ~非公式考察本シリーズ vol.5~』でお楽しみください!
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