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あまりにも至高な怪獣プロレス、あるいはゴジ×コンの話 『ゴジラvsコング』感想

ゴジラVSコングは既に99%の人が鑑賞しており、後に9999%の人が鑑賞することが完全に証明されている。故に本記事はほぼ鑑賞済みの人向けの記事となる。

あらすじ

ゴジラとコングは太古からの宿命のライバルだった!

はじめに

まず、この映画について語るにあたって、本作で監督を務めたアダム・ウィンガードに謝辞を送りたい。ありがとう、アダム・ウィンガード。よくやってくれた、アダム・ウィンガード。お前、本当に正気か?ハッパでも吸ってんのか?とにかく素晴らしかった。そして脚本は破滅的だったと。
結論から言えば、2021年は映画史に残る年となった。何故ならゴジラとコングが戦い、そして……香港が吹っ飛んだのだ。こんなに素晴らしいことは他にあるだろうか?

人間パートは酒を飲んで書いたような脚本

まずフェアに言うと本作の脚本家は間違いなく酒を飲んで書いている。もし飲んでなかったとしてもそれはそれで心配になる。つまりは破滅的ということだ。
狂信的な自分(マイケル・ドハティ)の鏡映しだったKOMのキャラクターに対しアダム・ウィンガード監督はマジで人間をカスかゴミにしか考えていないので明らかにキャラクターの個性が薄く、能動的に人間ドラマをドブに捨てている。
それは前作で活躍したマディソンがゴリゴリの陰謀論者と化し、マークは退屈で平凡な男になってしまっていることからも明らかだ。
そのせいで人間ドラマは全くもって酷いものであり、多くのキャラクターは自身の問題を克服するに至らず、小栗旬は白目を剥いたままフェードアウトする。

ではゴジラvsコングは駄作かと言うと、人間ドラマがカスだろうとゴジラとコングが激突する絵柄の凄まじさには1ミリも関係ないので超ウルトラスーパー大傑作であることが断言できる。
また、人間ドラマも酷いものばかりではなく、軟弱な科学者が真の男となってコングに巨大AEDをカマすシーンは伏線と回収が上手くハマっており、文句なしに名シーンだった。
ただ一つ言いたいのが、人間ドラマの挿入されるタイミングが悪いせいで一部怪獣ドラマの勢いを削いでいるパターンが何度もあったので、そこはしっかりして欲しかったです。

怪獣パートは大麻をキメて書いたような脚本

まずフェアに言うと本作の脚本家は間違いなく大麻をキメて書いている。
もし大麻をキメてなかったとしたらLSDをキメていることになる。
怪獣パートのほとんどが「そうはならんやろ」「なっとるわ」「なっとるならしゃーないわ」のオンパレードであり、豪胆かつ豪放な展開の釣る瓶打ちだ。
例えば本作の冒頭ではいきなりゴジラとコングが太古から続く宿命のライバルであり、戦うことが運命付けられていることが明かされる。正直言って文脈以外の説得力は皆無だが、問答無用で納得してしまう。なぜならゴジラとコングが宿命のライバルという設定は超イカすからだ。
また、香港にゴジラが来てからしばらく経つ(それこそ放射熱線が地球を貫通するくらい)というのに香港市民の避難は一向に完了せず、朝になってメカゴジラが暴れだしても呑気に「ワーッ」と言いながら逃げまどい瓦礫の下敷きになって死ぬ。KOMですらギドラが来る時点で避難が完了していたというのに、ゴジラVSコングでは朝から夜にかけて怪獣が暴れまわっていても市民は避難せず、香港のビル群はご丁寧にネオン照明を点灯し続ける。
それは怪獣の巻き添えになって人が無残に死ぬ姿は最高に面白いからであり、極彩色の照明に照らされて怪獣がバトルする姿は超かっこいいからだ。
このようにゴジラVSコングは全編ハッタリ優先のストーリー展開が為されており、整合性よりいかに怪獣がカッコよく活躍し、ゴミのような人間が無残に散っていくかが優先されている。

あまりにも素晴らしい怪獣ドラマ

また怪獣ドラマの話になってしまうのだけど、やはり怪獣ドラマがあまりにも素晴らしい。人間ドラマは一貫として90年代のコテコテなコメディアドベンチャーで、ついには「90年代かよ!」とセルフツッコミしてしまうくらい90年代なんだけど、怪獣ドラマに関しては90年代成分にプラスして機種流離譚など様々なジャンルを盛り込んだ闇鍋怪獣映画になっている。
その一つがヤンキー映画である。怪獣映画にヤンキー映画をプラスする。その発想があまりにも素晴らしく、それでいてメチャクチャ上手くいっているのでとてつもなく感動してしまった。
特に凄いのがゴジラとコングの第2ラウンド開始のシーンで、一度ゴジラに敗北したコングは地底世界で鍛え直し(ちなみに地底世界は虎の穴のメタファーである。何故なら穴から侵入するから)コング認証式AXEを手にしてコング王国の玉座に着く。すると頭上から放射熱線が降り注ぎ、ゴジラ自ら呼びかける第2ラウンドがはじまる。
そして地底世界から這い出たコングを見てゴジラはちょっとニヤリと笑うんですよね。「鍛え直して来たな……!」と。実際にそう言ったわけではないが、たぶんほぼ確実にゴジラはそう言っていった。
ライバルが強くなってニヤリとほくそ笑む情緒はもう完全にヤンキー映画の文脈だ。しかも『GODZILLA』でも『KOM』でも純然たる殺意しか見せなかったゴジラさんだが、コングのタイマンでは度々凶悪なゴジラスマイル(公式)を見せる。ゴジラさんは喧嘩を楽しむタイプのヤンキーであることが、完全に証明されてしまったのだ。
なので断言するのだけど、ゴジラVSコングは怪獣が主人公のヤンキー映画だ。
実際、アダム・ウィンガード監督は『クローズZERO』『クローズZERO2』を見て小栗旬の起用を決めたそうで、かなり意図的にヤンキー映画の文脈を盛り込んでいるのではないかと思う。

ライド感溢れる怪獣アクション

これはマジな話なのだけど、ゴジラvsコングの怪獣アクションはシリーズで一番良かった。怪獣目線のカメラワークから成るライド感溢れるアクションはめちゃくちゃ楽しかったし、4DXとかと相性が良さそう。他にもコングPOVやゴジラ一本背負いなど、演出、動作設計共に意外性溢れるアクションとなっている。香港では光るビルが無限に生えてくるし、そこでコングはパルクールする。市民は一向に避難しない。
こういう意外性が出てくるのはそれだけ怪獣アクションがハリウッドに定着したことも意味してとても素晴らしいことだと思う。
焦らし表現のGODZILLA(2014)に戦争映画のメタファーとしてのコング、そして宗教画のKOMを経てついに怪獣映画はケレン味のあるアクションを獲得したのだ。
ちなみに本作はヤンキー映画なので怪獣目線のカメラワークは完全正解であることが証明されている。

本作はアメリカで興行的な成功を収め、ユニバースの継続も決定したという。それはつまり今後との進化した怪獣アクションが見れるということだ。次にどんな意外性のある怪獣アクションが飛び出してくるか、もう今からワクワクである。

ゴジ×コン

良いですよね、ゴジ×コン。互いの名を叫びながら殺し合う敵対ブロマンス。これは個人的意見だがゴジラ→→→→←コングだと思う。
本作ではゴジラとコング文明が太古からの宿命のライバルであることが明かされるんですけどそのせいか基本地球がヤバい時にしか因縁を吹っかけてこないゴジラがコングに対してはやたらノリノリで喧嘩を吹っかけてくるんですよね。輸送中のコングに縄張り離れてまで襲撃するわコングのために香港から地球のコアまで直通のトンネルを開通するわ、コングとの喧嘩に大分前のめりなところがある。
多分、永い時間を生きるゴジラにとって滅びて久しい宿敵の個体と再び出会えたのが嬉しかったんだと思う。一方、コングにとっては先祖の因縁なんて知ったことではないので喧嘩自慢で地元でブイブイ言わせてたら急にゴリゴリの武闘派ヤクザから因縁ふっかけられた感じになってて大分かわいそう。
ぶっちゃけ”””テッペン”””獲りてえゴジラに対してコングは地元と家族が大事なので戦いに対するモチベーションに明らかに差があるんですよね。でもさすがにゴッさんから直々に香港直通トンネルを開設されて果たし状を叩きつけられたとあっちゃあコングも黙っちゃいられねえ。ここで引いては男が廃る。というわけでコング認証式AXEを携えてリターンマッチよ。
思えば虎の穴で鍛え直したコングを見てゴジラがほくそ笑んだのはライバルが強くなった喜びと同時にコング認証式AXEを見てかつてのライバルの姿を思い出したからかもしれない。
ゴジラの背鰭がついていることからも分かる通り、このコング認証式AXEはかつてゴジラと熾烈な争いを繰り広げた先祖コングの持ち物だ。
たぶん、ゴジラは自分の背鰭をもぎ取るほど強かった先祖コングのことが忘れられなかったのだと思う。だからかつての争いの熱狂を求めてコングを襲撃したのだ。
コングにマウントをとって「もっと来いよ!」とでも言わんばかりに吼え猛り、コングに気合を入れ直そうとするゴジラは明らかに先祖コングと現在コングを重ね合わせてしまっている。
だが結果は知っての通りコングは敗北してしまう。それを見たゴジラはようやく先祖コングと現在コングは違うのだと気づく。その時のゴジラは心なしか少し寂しそうであった。
だがしかし、アレクサンダー・スカルスガルドからAEDで気合を入れ直したコングはゴジラのピンチに再び立ち上がり、ゴジラとのタッグマッチでメカゴジラをフェイタリティする。
全ての決着がつき、焦土と化した香港でコングを睨んだゴジラは……背を向ける。恐らく、ゴジラが一人の男としてコングを認めた瞬間だと思う。先祖コングを重ね合わせるのでなく、ようやく本当のコングを認めたのだ。
朝日を背に去るゴジラの背中を見たコングは「ゴッさん、あんたでっけえよ」と思ったに違いない。
こうしてゴジラ→→→→→先祖コングは最終的にゴジラ→←コングに落ち着いたのだ。

モンスターバースは至高の映画バース

もはやここまで来るとモンスターバースはMCUの次に成功しているユニバース映画と言っても過言ではないかもしれない。基本怪獣が暴れまわって人が無残に死ぬので面白い作品しかないし、話の内容は全部様子がおかしい。
芹沢博士が死んだことで人間ドラマ側のスター俳優の不在が指摘されているが、コングは菅原文太だしゴジラは勝新太郎なのでほぼほぼ問題ない。
つまりモンスターバースは巨大な菅原文太と巨大な勝新太郎が暴れまわる映画シリーズということになる。
そんな最高の映画シリーズがこのご時世、デカい映画館のデカいスクリーンで見れるのだ。こんなに素晴らしいことは他にないだろう。それこそ、モータルコンバットの凄惨な人体破壊がデカいスクリーンで見れることくらいしかない。
ありがとうゴジラ。ありがとうコング。そしてありがとうアダム・ウィンガード。お酒と大麻はほどほどにね。

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