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思春期音楽

音楽の無い生活が考えられません。音楽の知識や技術が人よりある訳では無いですし、音にこだわってオーディオに精通したり、アナログレコードを集めている訳でもありません。しかし、今年で41歳になりましたが中学生くらいから音楽はほぼ生活の一部のようなもので、聴かなくなったことは無いです。音楽を聴く事を趣味とするなら、小さい頃興味を持った考古学の次に長く続いている趣味なのかも知れません。

僕の音楽遍歴はかなり偏りがあります。何故かは分かりませんが、クラシックやビートルズ等の定番、名盤と呼ばれるものが受け付けられないのです。これまでにも、いわゆる王道と言われるものを通過した友人達から、一回聴いておけと勧められた音楽について、スッと入ってきたことは無く、確かにカチッと固まった成熟したオリジナリティはあるけれど、それが逆に僕にとって「臭く」感じてしまって、ムリーってなってしまうのです。

王道と言われるものについて、大人になって、成熟したらいつかは分かるかと思っていましたが、この歳になってもそんな予兆はまだありません。僕の好みの音楽の傾向が、多分「思春期の音楽」だからなのだと思うのです。思春期の音楽というのは僕の勝手なネーミングなんですが、言ってしまえば成熟や完成とは対極の、思春期のような初期衝動と生々しさ、常に新しい音を追求する音楽です。

岐阜県の田舎町で生まれたからか、小さい頃は素朴に世の中は常に右肩上がりで進歩しているとどこかで思っていたように感じます。音楽も常に新しい音が出てきて、無限に進化すると思っていたのです。そこで高校辺りから聞くようになったのが、テクノミュージックでした。聞いたことのないような電子音、しかも反復の冷徹なミニマルビートがいかにも未来という感じで、とってもクールに感じたのです。しかし、未知の電子音もいずれは当たり前の音となり、時代の流れでテクノ自体が下火になっていきました。

テクノの音に新鮮味が薄れ始め興味が薄れていった頃、当時今の心斎橋のまんだらけの所にタワーレコード心斎橋店があり、そこに結構広いアバンギャルドミュージックコーナーがありました。偶然立ち寄った時、丁度大友良英のニュージャズクインテットのデビュー盤が出ているのを何となく視聴した時に電撃が走りました。「コレだ!めちゃくちゃカッコイイ!」それまでジャズをしっかり聴いたことは無かったですが、生々しいジャズの演奏と剥き出しのサイン波、そして辿々しいディストーションギターが個々が強烈な個性を発しながら、危ういバランスで成り立っている。それまでジャズはムーディーで、僕の中では「臭い」イメージだったのが、ある種のパンクの様な反骨感を感じるぶっ飛んだ内容だったのです。今ではNHKの「あまちゃん」や「いだてん」の楽曲でメジャーになられた大友さんですが、そのCDはそれまでのターンテーブル演奏から、楽器をギターに持ち替えてジャズをやり始めた記念碑的な作品でした。それが僕の新たな音楽変遷の始まりでした。

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Otomo Yoshihide / Flutter     Tzadik  2001

即購入した、ニュージャズクインテットのファーストアルバムはニューヨークのジョンゾーンのレーベルから出ているのを知り、そこからがズブズブの沼でした。ジョンゾーンはニューヨークのアンダーグラウンドのジャズ、ロック、メタル、クラシック、現代音楽何でもアリのカオスなアバンギャルドミュージックのボス的存在で、そのレーベルtzadikはリリースの数も凄いのですが、内容も無茶苦茶で、大人しいイージーリスニングに聞こえる物から、1時間ボイスソロやノイズが続く聴く人を選ぶ音楽もあって、言わば当たり外れの大きいレーベルでした。しかし、それが逆に魔術的な魅力に感じてしまい、ついつい購入していました(肌に合わず売ってしまったものも多数)。

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John Zorn  /  Kristallnacht    Tzadik  1992

大友さんを入り口に、ジョンゾーンを始めとするアバンギャルドミュージックにハマっていきましたが、そこでも共通していたのは、やはり思春期の音楽、つまりカテゴリーに縛られず、思春期のような初期衝動を内包した隙間のある生々しい音楽なのでした。大学時代に傾倒した社会学者の宮台真司が音楽のことを語っている時、ジャーマンロックのファウストについて学校の屋上にいるような気持ちにさせる音楽と言っていました。宮台さんは、社会の過剰な学校化、つまり社会の学校以外の部分も学校的な価値観で規定される社会の息苦しさから逃れる若者の行き着く場所として、機能とか意味の狭間の「透明な場所」である屋上や河川敷の話をしていました。僕も中高生の頃、堤防や体育館の裏で友人とダラダラしている時間が大好きでした。大友さんやジョンゾーンの音楽は僕の気持ちを一気にあの透明な場所に連れて行ってくれるのです。音楽は人を自由にしてくれるという感覚は今も変わりません。

※tzaikのCDはディスクユニオンが配給をしてますが、物によっては手に入りにくいものがあるかと思います。


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