シリコンバレーからのノート

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最近の記事

LeanとDevOps生産性の神話(4) - 翻訳についての感想などをつらつらと

今後のスタンダードになりうる素晴らしい翻訳「LeanとDevOpsの科学」の翻訳についてですが、私は原書「Accelerate」を出版直後の2018年の3月に読んだあと、翻訳を翌年2019年の2月に読みました。翻訳の出版は原書と同年の2018年の11月なので、原書の出版からなんと8ヶ月での翻訳という超スピード翻訳ですね。私はまさか「Accelerate」がそんなに早く翻訳されると思っていなかったのと、邦題が「LeanとDevOpsの科学」となっていて、原書の副々題から採られて

    • LeanとDevOps生産性の神話(3) - CMMIへの批判は成り立つか?

      CMMIに喧嘩を売る「LeanとDevOpsの科学」にはもう一つ面白い議論がある。第1章「業務を加速させること」の中に「『成熟度』ではなく『ケイパビリティ』に焦点を」というセクションがあるのだが、そこでCMMI(能力成熟度モデル統合)に喧嘩をふっかけているのだ。 要は「成熟度モデル」なんて古いので、これからは「ケイパビリティモデル」を使うべきだという主張である。 ここで「成熟度モデル」と言っているのはCMMIを念頭に置いているんだと思うけれど、CMMIは「Capabilit

      • LeanとDevOps生産性の神話(2) - 数えられるものは全て数えろ

        「LeanとDevOpsの科学」出版以降に触れていこう。まずは翌年2019年GitHubのカンファレンスでPull Pandaというスタートアップのアビ・ノダ氏が話した内容を見てみたい。 アビ・ノダ氏のトークは非常に面白く、DevOpsにとどまらず開発全体の生産性のメトリックについて触れている。彼の父親は長年ソフトウエア開発者をしていたそうで、息子が相談するメトリックの内容をことごとく否定するのが、多くの開発者が持つ生産性メトリックに対するアレルギーを代表しているようで、ト

        • LeanとDevOps生産性の神話(1) - 11年目のState of DevOps Report

          「LeanとDevOpsの科学」が2018年に出版されてから今年2024年で6年が経った。この書籍のもとになった「State of DevOps Report」という技術レポートが最初に発行されたのは2013年なので、それから数えるとなんと11年目である。 今でもたびたび参照される書籍ではあるが、本書が提案している内容はほぼその有効性を失っていると言っていいのではないだろうか。 特に「フォーキーズ」と呼ばれる4つの生産性の指標で組織全体の生産性が判断できるという部分は、他で

        LeanとDevOps生産性の神話(4) - 翻訳についての感想などをつらつらと

          本人の声で語られるシリコンバレー神話 - Valley of Genius

          今週の火曜日にWiredやMIT Technology Reviewの記事でおなじみの、Adam Fisherの「Valley of Genus」という本が出た。 The Uncensored History of Silicon Valley (As Told by the Hackers, Founders, and Freaks Who Made It Boom) という超長い副題つきなんだけれど、まさにその通り、「ハッカー、創業者、そして変わり者たち」であるシリコン

          本人の声で語られるシリコンバレー神話 - Valley of Genius

          スクーターに乗ったユニコーン達

          先月から今月にかけて、電動スクーターのシェアサービスが、相次いで巨大な資金調達を行なった。まず6月末に、Birdが約330億円(US$300million)の資金調達を行なった。QUARTZの記事によると、2017年の4月に創業したBirdがユニコーン(時価総額1千億以上)になるまでに要した時間はたった15ヶ月で、これは史上最速とのことだ。 さらに7月の頭に、LimeがGV (Google Ventures)、Uber等から約360億円(US$335millon)の資金調達

          スクーターに乗ったユニコーン達

          NetflixのCEOが判断をする時

          Netflixは、従業員による独立した意思決定を推奨したカルチャーガイドで有名で、CEOのリード・ヘイスティングス自身も、「何ヶ月もの間、一切自分の判断なしで会社が運営されていることもある」とインタビューで語っている。 その独特の組織形態と意思決定メカニズムが、他の組織でも汎用性を持ちうるのかどうかは、議論があるかと思うし、外からの視点だと、なかなか本当のところは分からない気がするんだけど、少なくともNetflixではその組織形態がうまく回っていて、競争優位性のひとつの重要

          NetflixのCEOが判断をする時

          サステイナブルかどうかという考えかた

          1999年にシリコンバレーに来た時に最初にびっくりしたのは、いろんな場面で、「それはサステイナブルなのかどうか?」と聞かれることだった。なにか新しいビジネスを始める時でも、新しい拠点を作る時でも、いつでも、それってサステイナブルなの?と問われるのだった。「サステイナブル」は日本語だと「持続可能性」ということなのだろうけれども、実感としては、その状態をずっと続けられる仕組みが用意できるの?あるいは、その状態を欲している人がいて、その状態を提供できる人もいて、なおかつその全体を成

          サステイナブルかどうかという考えかた

          中国とAIと知識集約型国家へと向かう意思

          毎日朝起きると、どんなことが起きているのかなと、情報収集とまではいわないけれど、ひととおりサイトやblogを巡回するのが日課になっているんだけれど、そうして見ているサイトの中でも、MIT Technology Reviewはいつでもキラリと光るというか、かならず独特のPoint of Viewを打ち出していてお気に入りのサイトの一つである。 このあいだ、中国とAIについて話をした時に、そういえば去年どこかで中国とAIに関して書かれた記事を読んだなと思って調べてみると、それが

          中国とAIと知識集約型国家へと向かう意思

          シリコンバレー文化がセラノスを産んだのか?

          先月出版された「Bad Blood - シリコンバレースタートアップの秘密と嘘」を読んだ。これがめっぽう面白くて一晩で一気に読んでしまった。 エリザベス・ホームズ。19歳でスタンフォード大学を中退して、2003年にセラノスを創業。指先から採取した少量の血液を分析するだけで、同時に数十種類から数百種類の検査が実施できるというふれ込みで、一時は会社の時価総額が1兆円に達し、株式の過半を所有していたホームズの資産も5千億を超えると試算された。 常にタートルネックを着用しているル

          シリコンバレー文化がセラノスを産んだのか?

          GoogleとAIと倫理

          米軍国防総省とのAIプロジェクト契約が取りざたされる中、6月7日にGoogleのAI原則が公開された。国防総省が推進するMavenというプロジェクトの契約をGoogleが受注したとの報道をきっかけに、社内外から大きな批判が起こったわけだけれど、Google CEOのSundar Pichaiから、正式にGoogleのAI研究に関するガイドラインが発表されたことになる。 THE VERGEの記事が概略をまとめているのでみてみよう Google has released a