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サステイナブルかどうかという考えかた

1999年にシリコンバレーに来た時に最初にびっくりしたのは、いろんな場面で、「それはサステイナブルなのかどうか?」と聞かれることだった。なにか新しいビジネスを始める時でも、新しい拠点を作る時でも、いつでも、それってサステイナブルなの?と問われるのだった。「サステイナブル」は日本語だと「持続可能性」ということなのだろうけれども、実感としては、その状態をずっと続けられる仕組みが用意できるの?あるいは、その状態を欲している人がいて、その状態を提供できる人もいて、なおかつその全体を成り立たせる経済的仕組みが用意できるの?って感じだと思う。需要と供給とその両方を満たす経済的な枠組み。そのうちどれか一つが欠けても継続性を維持できないんだよと。

Techcrunchで、オープンソースの持続可能性という記事を読んだときに、あぁそういえば、そういう考え方はシリコンバレーに来て初めて意識的に持つようになったなと感慨深かった。

オープンソースが本当にサステイナブルになれるのかどうか?こうした問いかけが存在することは、逆に言えばオープンソースがいまだサステイナブルな基盤を持っていないことの証だと思う。

この課題については、Nadia Eghbalが2016年の6月に、Roads and Bridges「道路と橋」という記念碑的なリサーチをしているけれど、それを敷衍して、「ではサステイナブルなオープンソースプロジェクトはどういう条件を持つんだろう」いう考察をしたAndrew NesbittのMediumの記事があるので、今日はそれを読んでみたい。

Over the past couple years, thanks in part to Nadia Eghbal’s Roads and Bridges report, the world is starting to see the need for long-term sustainability in key open source projects that are the foundation of the ecosystems that our society relies on.

「ここ数年、Nadia Eghbalの「道路と橋」報告書のおかげで、私たちの社会の基盤となっている主要なオープンソースプロジェクトが、長期的に持続可能になる経済的な仕組みが必要だとの認識が広まっています。」

とはいうもの、今行われている様々なオープンソースへの支援には課題があるとAndrewは言う、

The key thing for me is that many of these models don’t actually support the project directly. Often the time invested in open source project development is paid for with the money left over after delivering something else you sold.

「私にとって重要なのは、これらの支援の多くがプロジェクトを直接サポートしていないということです。しばしば、オープンソースプロジェクトへの支援は、あなたが販売した、他の何かを提供した後に残された資金で支払われます。」

どうしても今のオープンソースへの支援は、資本の余剰からになってしまう、それではいつまでたってもサステイナブルにはならないのではないか?というのがAndrewの問題意識。

So I decided to articulate what a successful, sustainable open source project looks like, including what kinds of work do people do on it, and what kind of community of users and contributors it has. Then with that as an end point, we can work backwards to figure out how to bring that world to life.

「なので私は、成功したサステイナブルなオープンソースプロジェクトがどんな種類の労力で成り立っているのか、どのようなコミュニティのユーザーや貢献者がいるのかなどを明らかにすることにしました。その場所から逆向きにたどることで、サステイナブルな仕組みを実現することができるのではないかと考えたのです。」

とした上で、Andrewは、「Governance」「Documentation」「Code Quality」「Support」「Ecosystem Collaboration」など十個の条件を挙げていく。

It shouldn’t be too surprising that almost all of those attributes are also attributes of a successful software business. Every sustainable open source project ends up being run like a business in some ways, even if there aren’t any stakeholders that want to profit from it directly. In fact every successful open source project is a business. It’s just there are no paying customers.

「こうした条件のほとんどすべてが、成功したソフトウェアビジネスの条件でもあるということは驚くべきことではありません。すべてのサステイナブルなオープンソースプロジェクトは、たとえそこから直接利益を得ているステークホルダーがいなくても、何らかの形でビジネスのように実行されることになります。事実上、すべての成功したオープンソースプロジェクトはビジネスです。ただ直接費用を支払っている顧客がいないだけです。」

オープンソース、あるいはそのもとになったフリーソフトウエアは、本質的に、社会思想なのだと思う。そこで生み出される富は、経済思想での富とは異なった位相にあるものだ。社会思想的な富と、経済思想の貨幣価値で表される富とのかけはしがかけられるのかどうか。さらにそれが継続的に維持できるのかどうか。それはいまだにわれわれに投げかけられた大きな問いなのだと思う。


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