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中国とAIと知識集約型国家へと向かう意思

毎日朝起きると、どんなことが起きているのかなと、情報収集とまではいわないけれど、ひととおりサイトやblogを巡回するのが日課になっているんだけれど、そうして見ているサイトの中でも、MIT Technology Reviewはいつでもキラリと光るというか、かならず独特のPoint of Viewを打ち出していてお気に入りのサイトの一つである。

このあいだ、中国とAIについて話をした時に、そういえば去年どこかで中国とAIに関して書かれた記事を読んだなと思って調べてみると、それがまさにMIT Technology Reviewの記事だったので、今日はそれを紹介してみたい。

で、これもその時に知ったんだけど、MIT Technology Reviewは日本語版もあるんですね。全然知らなかった。今日紹介する記事も、ちゃんと日本語版が用意されているんですが、有料会員のみらしいので、英語版&私の適当訳でご紹介したいと思います。

記事は、AIによるポーカープレイヤーLengpudashiの紹介に始まり、中国政府のAIヘの投資について2000年代初頭の高速鉄道網への投資になぞらえて説明したり、Baidu、Alibaba、TencentのAI投資、Alpha Goの達成が中国に対して与えたインパクト、SenceTimeに代表される中国AI系スタートアップの紹介などと、中国のAIに関する取り組みについて全体的なおかつ包括的な紹介になっていますので、興味があるかたは是非英語版あるいは日本語版で読んでいただければと思います。

さて、今回紹介したいのは、その記事の最後の「Think Big」という段落。

Think big
It might be unnerving for Western nations to see a newcomer mastering an important technology, especially when the full potential of that technology remains uncertain. But it is wrong to view this story simply in terms of competition with the West.

物事を大きく考えよう

欧米の国家からみた時に、中国のような最近先進国の仲間入りをした国家が、こうした重要な技術を自分のものにしている様子は不安に思えるに違いない。AIのようなどれだけの可能性があるのかはっきりしない技術の場合は、特にそうだろう。しかし、この話を欧米との競争という観点からしかとらえないのは間違っている。

A big problem facing both the U.S. and China is slowing economic growth. While AI may eliminate certain jobs, it also has the potential to greatly expand the economy and create wealth by making many industries far more efficient and productive. China has embraced that simple fact more eagerly and more completely than many Western nations. But there’s no reason why China’s AI-fueled economic progress should come at the expense of other countries, if those countries embrace the same technology just as keenly.

こんにち米国も中国も等しく直面しているおおきな問題は、経済成長の鈍化にある。AIは特定の仕事を必要ないものにするかもしれないが、同時に多くの産業をはるかに効率的かつ生産的にすることによって、経済を大幅に拡大し、富を創造する可能性がある。 中国は、この単純な事実を西側諸国よりも、真剣にとらえ、徹底的に活用しようとしている。 中国のAIによる経済発展が他国の犠牲によってなされなければならない理由はまったくない。他の国も中国と同じようにAIに真剣に取り組めばよいのだ。

China might have unparalleled resources and enormous untapped potential, but the West has world-­leading expertise and a strong research culture. Rather than worry about China’s progress, it would be wise for Western nations to focus on their existing strengths, investing heavily in research and education. The risk is missing out on an incredibly important technological shift. Yes, companies like Google and Facebook are making important strides in AI today, but this isn’t enough to reboot a whole economy. Despite the fanfare around AI, there are few economic signs—such as increased productivity—that most of the economy is taking advantage of the technology yet. Large segments of the economy beyond Silicon Valley, like medicine, service industries, and manufacturing, also need to sign on.

中国には、他の国とは比べ物にならないくらいのリソースと多くの未開拓の可能性があるかもしれませんが、欧米には世界をリードする専門知識と強力な研究文化があります。 中国の進歩を心配するのではなく、西洋諸国が既存の強みに集中し、研究と教育に多額の投資をするほうが良いだろう。 一番大きなリスクは、これほど大きくしかも重要な技術的な動きに乗り遅れることのほうにある。確かに、GoogleやFacebookなどの企業はAIで重要な進歩を成し遂げているけれども、それだけで経済全体を再起動するには十分ではない。 AIは広く歓迎されてはいるけれども、生産性の向上など目に見える具体的な経済の兆候はまだほとんどみられていない。 医療、サービス産業、製造業など、シリコンバレーよりも大きな規模、範囲でAIについて取り組む必要があるだろう。

こういう記事を読むと、その視点の位置の高さに、なるほどとうなずいてしまう。国家のような抽象度の高い議論をする時には、どうして議論が現実と遊離してしまって、現実の状況と対応しにくいことがよくあるけれども、この記事では、AIを国家の経済的発展を一段階上に引き上げる、パラダイムチェンジの一つとして認識することで、等しくどの国家にもつきつけられた現実の課題としてとらえている。

国家の経済的な発展を「歴史」としてとらえることがもし可能であるのならば、中国のAIへの取り組みを、国家の「意思」としてとらえ直すことができるのではないだろうか。いまだ製造業が経済活動の多くを占めている中国において、未来の知識集約型国家へと向かう意思の一つのあらわれとして、AIへの取り組みをみることができるかもしれない。

そしてそれは、中国にだけ問われている課題ではなく、米国、日本、それ以外の先進国家にも等しく問われている課題なのだと、この記事は指摘する。


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