新作落語台本 桂右團治『完全マスター』


2019年の春。東京の噺家、桂右團治師匠から新作落語台本のご依頼がありました。

ネット情報から私のことを知ってくださって、とのことでした。

嬉。

ただ桂右團治師匠といえば、江戸噺のきっちりした古典をされるお師匠さん。私のようなふざけたネタばっかり書いている作家で大丈夫なのか??という不安がまず浮かびました。

が、ご依頼文には「楽しい現代物を」と書かれてあります。

それならオケ!

オケですよ!

なんてお引き受けしましたけども。

さてどういう噺にしたらよいものか。

ネタを書く時は、演者さんの持ち味をできる限り引き出したい、というのが石山商店のモットーです。

ふと目に留まったのが、文中の

「私は神戸出身ですので、上方弁でも東京弁でも結構です」という一文。

かねがね

上方落語の噺家さんがネタの中で東京弁を話すのを聞いたり、逆に江戸の噺家さんの上方弁を聞いたりした時に思っていたことは

どうしても

おいどこそばい。 

※訳:お尻むず痒い


ところが

上方と江戸、どっちもネイティブに喋れる右團治師匠なら

おいどこそばくない。

※訳:お尻むず痒くない


つまりこの二刀流は、右團治師匠の武器である!!

そこを最大限に生かしたネタにしようやないか!!

ということで

このネタの原点が決まったのであります!!

グッジョブ。と大いに自分を讃えながら台本完成。

この噺を右團治師匠はとても喜んでくださり、

以来あちこちの寄席でかけてこられました。


右團治師匠によると

ある寄席の会場に聞きにこられていた、ある大物ミュージシャンの方(ここでは匿名にさせてつかーさい)が

クライマックスの「行けたら行くわ〜〜〜〜〜」で

手を叩いて笑っておられたのことです。

感涙。


そして今年の春、桂宮治師匠の真打披露興行のテレビ収録でこのネタをご披露くださり、

その当日ご来場だった演芸評論家の長井好弘先生が

読売新聞『よみらくご』の記事内でこのように書いてくださったのでした。

「番組前半で、一番ウケていたのは、おそらく桂右團治だろう」

の一文から始まる愛溢れるレポートに

感涙パート2。

長井好弘先生の全記事はこちらから↓↓↓

https://www.yomiuri.co.jp/culture/nagaieye/20210302-OYT8T50067/


さらにお知らせ。

当日の模様が明日、2021年5月23日(日)チバテレ『浅草お茶の間寄席』にて放送されます。

番組ホームページはこちらから↓↓↓

https://www.chiba-tv.com/program/detail/1012


というわけで

このたびの放送を記念しまして、

新作落語台本『完全マスター』(原作)

その全てを公開いたします。パンパカパーン!!

放送をご覧になれる方は右團治師匠の口演と見比べていただいたり

ご覧になれない地域の方は台本を読んで想像していただいたり

いろんな楽しみ方をしてくださいね、ハートマーク!!

途中から有料ご容赦!!

クライマックスの「行けたら行くわ〜〜〜〜〜」まで

よかったら読んでね!!

それではどぞ!!



新作落語台本『完全マスター』


  口演:桂右團治

  作 :石山悦子


ユミ 「え?プロポーズされたの?うわあ、

   よかったじゃーん。そっかそっか。マ

   イとケンちゃん、ついに結婚かー。よ

   し。とにかく乾杯しなきゃだね。白ワ

   イン、冷えっ冷えだよ。マイ、婚約お

   めでと。乾杯!」

二人 (グラスを合わせ、ワインを飲む)

マイ 「はあー……」(深いため息)

ユミ 「どしたの?プロポーズされたってい

   うのに……今日ずっと元気なくない?」

マイ 「……ん、実はね、来週、ケンちゃん

   の実家に初めて行くの。ご両親に結婚

   のご挨拶に。それを思うと不安不安で

   ……はぁぁぁぁー(深いため息)」

ユミ 「そんなに不安!?」

マイ 「だって彼の実家、大阪だよ?」

ユミ 「それがどうかした?」

マイ 「どうかしたって……彼のお父さんも

   お母さんも大阪生まれの大阪育ち、つ

   まり生粋の大阪人なの。私、東京生ま

   れの東京育ちでしょ。幼稚園舎から慶

   応で、大学時代はミスコングランプリ

   に選ばれたりもして、今、丸ノ内の大

   手商社で受付嬢やってたりする私のよ

   うな女は大阪の人にいちばん……」

ユミ 「いちばん、なに?」

マイ 「『ケッ!』て思われるタイプなの!」

ユミ 「ケッ!?」

マイ 「上流とかブランドに対する偏見がハ

   ンパないの!それが大阪なの!」

ユミ 「いや、マイの大阪に対する偏見の方   

   すごいような気が……」

マイ 「それに私、オチの付く話しなんてで

   きないもん!」

ユミ 「はぁ!?オチの付く話って!?」

マイ 「大阪の人は『面白い』って言うのが

   いちばんの存在価値なの。面白くない

   人間は存在する意味すらないんだよ。

   私、ご両親の前で爆笑トークなんてで   

   きないもん。ウワーン!!」

ユミ 「……マイ、結婚のご挨拶に行くんだ

   よね?オチのある話し、いらないと思

   うな。それに大阪の人が全員そうじゃ

   ないよ。ケンちゃんだってマイの話し

   にいちいちオチ求めないでしょ?」

マイ 「それは……ケンちゃん、大阪人のわ

   りに、優しいから」

ユミ 「また偏見出てるよ!?でも県民性な

   んかアテにならないよ。ほら、うちら

   の同期の塚本くん、いるじゃん、営業

   部の。彼なんて京都出身なのにプライ

   ドゼロだよ?仕事でミスするたびにす

   ぐ土下座するじゃん?ね?京都人なの

   にプライドなさすぎ、あははは。……

   それから経理の西岡ヤヨイ。あの子、

   秋田出身なのに……ブスじゃん?……

   それからマーケティング部の太田部長。

   あの人、鹿児島出身のゴリゴリ九州男

   児なのに……オネエじゃん?それから」

マイ 「わかってるよ。でも大阪は別!そん

   な生易しい土地じゃないの!ウワーン」

ユミ 「……困ったな。そうだ!いいこと思

   い出した!この前さ、うちの島田課長

   が大阪の会社と新規の取引があったん

   だけど、島田課長、先方の担当者に心

   を開いてもらうために何したと思う?」

マイ 「何したの?」

ユミ 「大阪弁を完全マスターしたの」

マイ 「大阪弁を完全マスター!?」

ユミ 「しかも完全ネイティブ」

マイ 「完全ネイティブ!?」

ユミ 「そう。大阪の人はエセ大阪弁にすん

   ごく厳しいでしょ」

マイ 「確かにね。ケンちゃんも言ってた。

   ドラマとかで気持ち悪い大阪弁聞くと 

   殺意覚えるって」

ユミ 「でしょ。でもそこは語学堪能な島田

   課長、完璧な大阪弁をマスターしたわ

   け。そしたら先方も心を開いてくれて

   見事契約がまとまったのよ」

マイ 「へえー!すごいね」

ユミ 「だからマイも大阪弁マスターしなよ」

マイ 「え、私も?」

ユミ 「そう。マイならできるよ。語学も堪

   能だし。確か3ヶ国語喋れるんだっけ」

マイ 「うん、コワール語とドホイ語とウデ

   へ語」

ユミ 「すんごい特殊!そんなのマスターで

   きたんだったら大阪弁なんか楽勝だよ」

マイ 「うん、やってみよっかな。……でも

   どうやって勉強したらいいんだろ」

ユミ 「課長ね、アプリで勉強したって言っ

   てたよ。(スマホを取り出して操作)

   確か……あったあった。ほら、このア

   プリだよ(マイにスマホを見せる)

   『大阪弁完全マスター講座』!」 

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