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ウクライナ戦争が日本人に突きつけた現実

2022年5月3日の憲法記念日、共同通信のために認め、数多くの地方新聞が掲載した一文を再掲します。


もし日本が侵略されたら?

ウクライナ戦争が日本人に突きつけた現実だ。そういう非常事態に自衛隊が出動し、あらゆる手段を行使して日本の主権を守ることに、改憲派・護憲派を問わず、多くの日本人に異論はもうないのかもしれない。しかし、私たちが見過ごしている問題がある。

4月、首都キーウ(キエフ)近郊のブチャにおいて、ロシア軍が撤退した直後に数百人の市民の遺体が発見されとの報道があり、世界に衝撃を与えた。明確な「戦争犯罪」として、国連を始め各国は、独立した公平で迅速な調査を要求している。

これと前後して、もう一つの事件が明るみに出た。キーフ近郊で、逆にウクライナ軍とおぼしき兵が、拘束したロシア兵を射殺する映像が公開された。国際メディアは即座に反応し、ウクライナ側を支援しているはずのNATO事務総長から「すべての戦争犯罪は厳粛に対処されなければならない」という言説を引き出した。

今回の戦争において、侵略行為に及んだロシアには国連憲章上の明確な非がある。ウクライナには自衛をする権利が発生するが、応戦の一発から、ロシアと同様に、戦争当事者として戦時国際法のジュネーブ条約を厳守する義務が生まれる。罪のない市民への攻撃はもちろん、戦闘中に拘束された捕虜への危害も厳禁とされ、それらを犯すことが所謂「戦争犯罪」である。

圧倒的な軍事力で迫る侵略者のものが多発するのは当然だが、被侵略者だからといって免責される戦争犯罪は存在しない。

重要なのは、戦争犯罪を犯した国家にまずそれを裁く管轄権があるという原則だ。つまり自らが犯した犯罪を自らの国内法廷で裁く責任だ。だから上記の二つの事件については、ロシア、ウクライナがそれぞれ独自に立件することが期待されている。それからだ。その立件の不十分さを巡って「国際戦犯法廷」の必要性が議論されるのは。

被侵略者としての日本はどうか?

日本には自らがおかす戦争犯罪を裁く法そのものがない。既存の刑法で足りるとしてきたからだ。しかし、戦争犯罪とは、国家の厳格な命令行動の中で発生するものだ。だから、直接血で手を染めた実行犯より、その命令を下した「上官」をより重い正犯にする考え方が取られる。抗命に対する死刑の恐怖の下にあったとして、末端兵士は訴追されない場合もある。刑法とはある意味で正反対の考え方だ。

世界有数の軍事力を持ちながら、首相を頂点とする「上官」責任を問う法体系を持たないのは日本だけだ。なぜか? 

憲法9条で戦争しないと言っているのだから戦争犯罪を起こすことについては考えない。国家の指揮命令の責が問われるような大それた事件を、憲法9条を持つ日本が招くはずがない。一種の安全神話が、一般の日本人の意識だけでなく、政界、法曹界、そして憲法論議を支配してきたからだ。

戦争を身近に感じる憲法記念日に。国民的議論を。

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