持続的な都市を見据えたビジネス創出のための次世代まちづくり拠点とは - 【Innovation Quest】vol.2 シティラボ東京
連載企画の趣旨はこちらのnote記事にてご覧いただけます。
■シティラボ東京について
「持続可能なまちづくりのためのビジネス創出に向けた参加型プラットフォーム」を掲げ、事業創出を通じて持続可能な都市の実現を目指しています。業界やセクターの垣根を超えた多様な主体の協働を通して新たな知見、コミュニティの提供、プロジェクト創出の支援を展開されているのが特徴的です。
今回は、シティラボ東京を企画した東京建物株式会社(以下、東京建物)の北浪さん、赤石さん、小島さんと、運営を受託している一般社団法人アーバニスト(以下、アーバニスト)の平井さん、三谷さんにお話をお伺いしました。
■プロフィール
■設立の背景について
ーなぜ、このような拠点を設立したのでしょうか。
三谷さん 現在、世界共通の課題として持続可能性を脅かす主な原因は都市生活にあると考えられています。国内は人口減少の一途を辿っていますが、グローバルな視点で見ると人口は増加し続けています。また、2050年には、世界人口の75%が都市に居住し、世界のGDPの80%を占める見込みです。今後も都市化が進んでいくことで、エネルギー排出量の増加といった世界規模で捉え直すべき環境問題が深刻となります。また都市部の人口集中は、環境汚染、交通渋滞、住環境悪化などの原因となります。現代において、都市の仕組み自体を持続可能にしていく必要があるという問題意識のもと、設立に至ったのがシティラボ東京です。
■持続可能な都市に向けた協働の創出
ーシティラボ東京の具体的な取り組みについてお聞かせください。
三谷さん 多様な主体のコラボレーションを推進するためにいくつかの取り組みを展開しています。個人ワークやネットワーキング、セミナーなどの柔軟な用途に対応できる会議室と、都市・SDGs関連のライブラリーが併設され、コワーキング利用ができるサロンが設置された約300㎡の空間を提供しています。またトークイベントや研修、マッチングといった自主プログラムも実施しており、コロナ禍でもオンラインを併用して機会を提供し続けています。サステイナビリティや都市、まちづくりなどに関心がある企業や実践のプレイヤーが集まる場として機能しています。
今までのいわゆる「まちづくり」という言葉は都市計画や建築の分野の専門用語という認識もありましたが、これからは脱炭素やサーキュラーエコノミーの観点、また都市をDX化していくといった従来の意味に囚われない新しい要素を組み合わせながら、次世代のまちづくりを実現していくことが重要です。さらに、そういった持続可能なまちづくりに転換していくためのビジネスを創出していくことが、重要なアプローチだと考えています。
■有機的なコミュニティとコラボレーション
ー手がけていく中で実際の協働事例などはありますか?
三谷さん はい、CityLab Venturesという新たなコミュニティが誕生しました。こちらには環境問題や社会問題といったサステナビリティに特化したベンチャー企業が多く参加しています。このようなベンチャー企業は、企業の代表同士は知り合いというケースも多かったのですが、社員同士のネットワークづくりや協働の取り組みが起こりにくいということがありました。このコミュニティでは、共同推進によるソーシャルインパクト、情報発信、課題の共有などをしていくという点が特徴的です。
平井さん 実際の事例ですと、交流イベントでの出会いをきっかけにDENTSU DIGITALとVANGUARD INDUSTRIESが協働して新たなビジネスモデルの創出に繋がったケースや、株式会社TBMや株式会社ブリヂストンが協働して廃プラスチックのマテリアルリサイクル実証実験を実施したケースなどがあります。
また、M-NexTという慶應義塾大学SFCと東京建物による脱炭素に向けたまちづくりの共同研究を2021年に開始しました。シティラボ東京も立地し、東京建物が管理運営する東京スクエアガーデンをフィールドとして、脱炭素型持続可能なまちづくりに向けた実証実験を実施しています。実証実験の場を私たちがつなぎ、提供ができるからこそ、実現した試みの一つです。
■デベロッパーとしての役割の変革期
ーちなみにどのような方々がシティラボ東京の仕掛け人なのでしょうか?
北浪さん シティラボ東京は東京建物株式会社が企画し、一般社団法人アーバニストが運営を行っています。アーバニストは都市における実践的なメンターや専門家とのネットワークを有しており、彼らを巻き込みつつ、更なる事業者とのネットワーク形成やコラボレーションを仕掛けています。多様な意見を反映させながら都市の持続可能な形を模索しているところです。
ー東京建物はなぜこの施設の開発に着手したのですか?
北浪さん 昨今、イノベーションを起こしていくための社会的意義が問われていると感じています。東京建物として、私たちのこれまでの歩みや背景を踏まえ社会課題解決型まちづくりをと意識し、実践しています。
人口動態の変化、価値観の多様化、テクノロジーの加速度的な進展、VUCAの時代における先行きが不透明な中で、サステイナブルな社会の実現に向けて様々な課題が顕在化しているからこそ、私たちデベロッパーが果たしていく役割が大きく変化していると感じています。当社は、2030年頃を見据えた長期ビジョンとして「次世代デベロッパーへ」を掲げており、事業を通じた社会課題の解決と企業としての成長を両輪で行っています。
その中でシティラボ東京は、場の価値や体験価値を創出していくイノベーション拠点として位置づけ、循環型社会や地球環境との共生の実現を目指して運営しています。
ーこの地域での活動に至った経緯をお聞かせください。
赤石さん 私たちは八重洲、日本橋、京橋を総称して「八日京(はちにちきょう)」と呼んでいます。このエリアに当社東京建物のアセットが充実している背景から、施設単体の開発に留まらず、地域と連携しながらエリア開発や拠点整備を実施してきました。
歴史を紐解いてみると、このエリアはまさに町人のまちだったと言えます。五街道の起点として有名な日本橋は、食を供給する魚河岸として発達し、当時の職人は地方からの単身者が多く、今でいうファストフードとして、すし・そば・うなぎ等の江戸食として根付き、それが、今に続く老舗飲食店や食関連企業の集積に繋がっています。そして職人によって作られた襖に絵を描く歌川広重などの絵師や、武具を扱う古美術商が集まることで、アートの街として栄え、現在まで続いています。
こういった八日京エリア固有の魅力を生かしながら新たな付加価値を創出するまちづくりを推進しています。八日京は八丁堀や茅場町、大丸有や銀座に隣接していることから、それらの地区との繋がりを意識したまちづくりを検討しています。
■点から線へ、そして面で捉えるコミュニティの仕掛け
ー八日京というお話も出ましたが、そのエリアのイノベーション拠点としてはどのように捉えているのでしょうか?
小島さん 魅力的な場所や様々な拠点が八日京に点在いるので、そこに横断的ネットワーク形成をすることでコミュニティの垣根を超えた協業を加速させていきたいと考えています。そこからイノベーションが生まれるエコシステムを目指しており、仕掛けて「集める」から「集まる」場所にしていきたいです。同じように「繋げる」から「繋がる」に。仕組み自体がどんどん自立化していくことにより、八日京エリアの活性化から、日本全体の経済成長を目指しています。
ーなぜ垣根を超えた横断的な面的仕掛けが重要なのでしょうか?
小島さん 大企業やスタートアップ、行政や研究機関を巻き込んだ形での新規事業を推し進めるにあたって、多様なアセットや情報の共有が課題だと考えています。また同時に、共にイノベーションを起こしていく世界観を描いていく過程も重要です。点と点でのマッチングによる価値創出には限界があるため、コミュニティの中で丁寧に交流を促し、ビジネスの創出を後押しする必要があります。
大切にしていることとしては、施設に入居されている方々を繋ぐことによって「入居してよかったな」という価値を感じてもらうこと。これをエリアという面で広く捉えたときには、この「八日京エリアで仕事をしていてよかったな」ということに繋げていきたいと考えています。また価値の要素として、居心地の良さ、歩きやすさや環境への配慮、また、多様な方々の力を集結させていくことによるチャレンジを促す仕掛け作りが重要だと考えております。アセットを所有していることが不動産会社の強みだと思っていますので、イノベーションを生み出すための実証実験のフィールドを提供し、柔軟に連携を推進していきたいと考えています。
■コロナ禍における拠点の意義とは
ー実際にスペースの利用に関して変化などはありますか?
三谷さん やはり施設の利用自体はやはり減少しました。一方で、オンラインとオフラインを併用した、より柔軟な議論の創発にシフトしていると感じています。この施設の開設当初から問題提起をしていた都市とサステイナビリティの文脈は、2018年当時はまだ浸透していなかったのですが、昨今はSDGsの普及もあり、段々と認知がされてきています。そういった関心の高まりに合わせて、オンラインイベントとして対談企画などを実施しています。その際にあえて、異分野の方々を掛け合わせて未来の都市はどのような方向を目指すべきかといった議論をしたり、グリーンビジネスの観点から持続的なまちづくりに関する活動や問題提起を発信していきたいと考えています。
ー実際の運営で難しいと感じた点などがあればお聞かせください。
平井さん コラボレーションを促したいと思っても、一番重要な情報となる企業さんの悩みの部分は簡単にはオープンにはできませんよね。データベースを作ってマッチングを促す仕組みを作る、という議論も出たのですが、それは営業のための情報になってしまうので、おそらくイノベーションが起こる仕掛けにはならないと思います。例えば「課題はなんですか?」と聞かれて、企業自体がそれを見えていなかったり、そもそも何をすればいいのかが分からない状態で相談に来ることもよくあります。セミナーへの出席だけだけではなく、企業間の意見交換を促すことで意気投合し、違ったアプローチからテーマや方向性が合流することもあります。その場に合わせて、関係者のニーズをキャッチして、繋がりを創出していくことが、人的で非効率、かつ難しいけれど貴重と感じています。
まちづくりの仕事では、自治体の方々や商店街のご年配の方々が何をしているのかを根気強く聞いていくことが重要です。同じように、新しいビジネスを成立させるのは簡単なことではないので、一つ一つを丁寧に行うことが大切だと思っています。
ー拠点としての意義は今後どのように変化していくのでしょうか?
三谷さん 段階的にプログラムの内容自体が変化していると考えています。当初は都市とサステイナビリティの関連性やその重要性がなかなか認識されていなかったので、広めていくためのプログラムを、このエリアに限らず様々な地域・分野の方々と共に積極的に展開してきました。これからは、感度の高い企業さん同士の協業が加速していくよう、イノベーションが起きる次世代のまちづくり拠点として、また社会に求められる環境ビジネスを輩出する場所にしていきたいと思います。そのために、密にコミュニティ参加者の連携を密にしていき、新たな価値を生み出したいと考えています。
■持続可能な都市を見据えた次世代まちづくり拠点に向けて
ー最後に今後の展望について教えてください。
小島さん どのようにイノベーションを起こしていくか、そのためにどのように「ひと・もの・かね」をつなぎ合わせるのかの明確な解はないと思います。その時の状況や関係者にもよるので、私どものリソースを活用するのか、他のアイディアやパートナーとお繋ぎするのかをケースバイケースで判断していくことが大切だと理解しております。
三谷さん まちづくりの仕事は実際に生活や商売をする方々に真摯に向き合うということが根底にあると考えています。実際に足を運んでくれた方に対して、心理的安全性を保てるようにコミュニケーションの場をこれからも丁寧に作っていきたいですね。
平井さん 加えて、魅力的なコミュニティをつくるために、様々な人や情報との接点を更に厚くしていく必要があります。そこを意識しながら価値を高めていきたいです。出社をしなくてもリモートで仕事ができる時代を我々は体感しているので、オンラインミートアップの企画などを実施しながら「知る、つながる、動き出す」のコンセプトの中でも、今後は「動き出す」というフェーズに移行できればと考えています。持続可能な都市とビジネス創出に向けては、世の中の潮流ともマッチして、プログラムが加速してきている段階です。それを追い風として活用しながら、引き続きイノベーション創出のためのきっかけや機会を提供していきたいと考えています。
インタビューを終えて
引き続き、イノベーション創出に取り組む日本企業に突撃取材します。
次回もお楽しみに。
メインインタビュアー・ライター:安藤 智博(あんどう ちひろ)
2021年度 i.school 通年プログラム修了生、現 i.school インターン
拓殖大学 卒業
サブインタビュアー:林 花音(はやし かのん)
2021年度 i.school 通年生
津田塾大学学芸学部英語英文学科 卒業
サブインタビュアー:松谷 春花(まつや はるか)
2021年度 i.school 通年プログラム修了生、現 i.school インターン
東京大学文学部人文学科美学芸術学専修課程 4年
撮影:i.lab佐藤邦彦(さとう くにひこ)
デザイン: i.lab 井上麻由(いのうえ まゆ)
<企画・運営>
【Innovation Quest】は、イノベーション教育プログラム「i.school」とイノベーション・デザインファーム「i.lab」の共同プロジェクトです。
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