【アラムナイインタビューvo.2】新しい体験を生み出すデザインと創造性を引き出すクリエイティブジャンプの秘訣を探る。
自己紹介と現在の取り組みについて
ー自己紹介をお願いします!
現在、東京大学DLX Design Labで特任研究員として働いている内倉悠です。学部では建築意匠を専攻し、その後設計事務所インターンを経て、DLXの修士課程に入学して、今に至るという形です。本日はよろしくお願い致します。
ー現在の取り組みについておしえてください。
現在は主にDLX Design Labの中で60%は”トレジャーハンティング”、40%は”デザインアカデミー”の活動に取り組んでいます。トレジャーハンティングは生産技術研究所の研究者と共にデザインプロジェクトを作る活動で、デザインアカデミーは社会人向けに開講している講座を通して学内の活動を外に出していくような活動にあたります。
ートレジャーハンティングとはどのような活動なのですか?
トレジャーハンティングでは生産技術研究所の中にある技術をいかに社会に実装していくかを検討しており、テクノロジードリブンでデザインプロジェクトの創出を行っています。ここでは、新しい体験を生みだすことや人の行動変容を促すこと、ひいては社会課題を解決することを重視しており、例えば製品の性能をただ向上させるのではなく、性能が向上した際に人々のライフスタイルがどのように変わっているのかに注目しています。そのため、トレジャーハンティングを進める中では、体験やインタラクションの単なる美しさではなく、対象の技術が社会とどのように結びつきどのような影響を与えるのかを問い、世の中にどんな価値を生み出しているのかを言語化しながら活動しています。
また、DLX Design Lab.のデザインプロジェクトでは収益性を必要以上に重視しない点も大きな特徴です。もちろん、デザインプロジェクトの収益性は最終的にスケールしたりインパクトを拡大したりするために重要ではありますが、DLX Design Lab.で取り組んでいるようなテクノロジーを社会に実装するための橋渡し、すなわち初期段階のプロジェクトでは収益性を評価指標に入れてしまうと面白いアイデアの種をつぶすことに繋がります。
そのため、DLX Design Lab.の活動ではある時点では収益を見込むことは難しくてもそのままプロジェクトを進めてみることもあります。このような取り組み方ができることはDLX Design Lab.でデザインプロジェクトを自由に推進できる理由のひとつだと感じています。
i.school時代の活動について
ーi.school参加のきっかけについて教えてください。
かねてより建築設計をやりたいと考えていたため、理科一類で東京大学に入学しました。そのため、大学入学後すぐに設計事務所でバイトを始め、大学時代は授業そっちのけでバイトに勤しんでいました。
3年生になり、建築の授業を取り始めたタイミングで、1年間アメリカに留学する機会がありました。東京大学の建築学部は工学部の中にあるのですが、留学先のイリノイ大学にはデザイン学部の中に建築学コースがありました。また、イリノイ大学にはMBAのスクールがあり、デザインシンキングの土壌や今後デザイナーは自ら行っていることや提供している価値を言語化する必要があるという風潮があり、それらに強く影響されました。
留学後、復学しても尚、建築学科の勉強は好きでしたが、建築を作ることが目的でありアウトプットは建築に限られている状況を不自由に感じ始め、このまま建築関係の大学院に行くのか?設計事務所に就職するのか?といった選択を行うにあたって、もう少し視野を広げたいと思い、i.schoolに入りました。
ーi.school時代の思い出を教えてください!
元々、グループワークの経験が無く、建築学部の授業では基本的に個人ワークを行っていたため、黙って時間を掛けてアイデアを練ることがほとんどでした。そのため、i.schoolに所属にして間もない頃、山中湖での合宿に参加した際に、他メンバーの頭の回転の早さやロジックを通して会話が進んでいく速度感を目の当たりにして、他のメンバーと使っている頭の筋肉が違うかもしれない、大丈夫かな…という感覚に陥ったことを覚えています。
ー特に印象に残る学んだことは何ですか?
日本総合研究所による授業の中で学んだ「想定外未来仮説」の考え方が最も印象的です。ちなみに現在、この考え方をDLXのトレジャーハンティングに取り入れようとしています。「想定外未来仮説」は、様々なテクノロジーシードや価値観の変容などを集めてきて、スキャニングして、それをアイデア出しを行う際の刺激の一つとして利用していくという考え方です。
トレジャーハンティングは基本的にテックドリブンですが、今年度DLXでは、研究室の要素技術を分解して作った「Technology Card」、モジュール型ロボット・垂直農業など日頃からDLXのメンバーが面白いと思っているものをカード化した「Socio-Cultural Card」を、初期のアイデア出しに導入し始めました。このカードを利用する意図は、社会環境を踏まえてアイデア出しを行うことで、テックドリブンに寄り過ぎないより精度の高いアイデアを出すことです。これは日本総研のワークショップで学んだ、「想定外未来仮説」の考え方に近いと感じており、まだ1,2回しか実施していませんが、自分たちが考えていなかった方向性のアイデアが生まれていることを実感しています。
ーデザインプロセスについて発見などはありましたか?
現代のデザインプロセスの強みは2つあると思っています。1つ目は、共通言語です。これは、トレジャーハンティングを通じて強く実感しました。研究者が見ている景色とデザイナーが見ている景色に差があることも少なくなく、プロセスを明確にすることにより、同じ土俵に立った上でアイディア創出ができるようになります。2つ目は、チェックポイントが挙げられます。デザインプロセスにおいて、詰まった時にどこに立ち帰れば良いのかわからなくなったりすることが多いため、チェックポイントを確認することが重要です。
現在、デザインシンキングやアート思考が話題になっていますが、結局のところ、プロセスとはトレーナーの人が効率的な筋トレの仕方を教えてくれるようなものです。しかし私たちの目指す本来の目的は、筋トレの方法を知ることではなく、その方法を継続し、反復することにより筋肉を手に入れることです。デザインプロセスが普及してきた一方で目立った成功例が無かったり、本当に効果的なのか?と不安視されている風潮もありますが、筋トレと同じように1,2回行っただけで良いアイディアが出る訳ではありません。そう言う意味では、社会はもっと長い目でみてデザインプロセスに取り組んで欲しいなとも思います。
ー今後の取り組みについて教えてください。
トレジャーハンティングに関わってから、バックグラウンドが違う人達と共創することで自分の想像力を超えたものを得られることにワクワクしています。そのためにも、今後はデザインプロセスの体系化にも携わっていきたいと考えています。プロセスを設計することで知見を蓄積していきたいです。
今後、建築に戻るかどうかはまだ自分でもわかりませんが「建築が好きだ」という気持ちはあります。そのため、建築にもう一度関わるとしたら、様々な人を巻き込んで仕事がしたいという想いも含めて、建物を建てるアウトプットだけではなく、そこから社会の大きなうねりを作っていきたいです。
ー最後に通年生へのメッセージをお願いします。
究極の目標は、アイディアを出すことだけではないし、世の中をよくすることだけでもないと思います。大事なのは「その過程を楽しんでいるか」にあるはずです。i.schoolにいた頃を振り返ると、当時の自分は、プロセスについていき、理解することに必死でした。皆さんも、シリアスなプロジェクトや成果、締め切りなど、様々なプレッシャーや制約があるかと思います。でもその中で「自分が楽しんで取り組んでいる」という感覚を忘れないことは一番大事だと考えています。
i.schoolでは、笑顔とアイデアの関係を可視化していますよね。笑顔ばかりだと必ずしもいいアイデアに繋がるというわけではないかも知れませんが、とにかく楽しむことを忘れないでください。
メインインタビュアー:安藤 智博(あんどう ちひろ)
2021年度 i.school 通年プログラム修了生、現 i.school インターン
拓殖大学 卒業
サブインタビュアー:岡本真拓(おかもと まさひろ)
2022年度 i.school 通年プログラム通年生
東京大学大学院工学研究科 博士2年
サブインタビュアー:梅津 綾乃(うめづ あやの)
2022年度 i.school 通年プログラム通年生
立命館大学経営学部 4年
サブインタビュアー:渡邊 清子(わたなべ さやこ)
2022年度 i.school 通年プログラム通年生
お茶の水女子大学大学院人間文化創成科学研究科 修士2年
バナーデザイン:赤星 萌(あかほし もえ)
2022年度 i.school 通年プログラム通年生
多摩美術大学美術学部 卒業
写真提供:インタビュイー内倉さん