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美術館学芸員採用試験についての所感(筆記編)


はじめに

皆様こんばんは。
はじめまして。I.Fと申します。

これから美術館学芸員に限定した採用試験についての所感を述べます。
個人の感想なので不手際があってもご容赦ください。では、はじめます。

私は、今のところ「学芸員」という仕事をして生きています。
この仕事についたのは完全に成り行きです。
別に小さい頃からなりたかったとか美術が得意だったわけでもなかったのですが(っていうか音楽のが成績が良かった笑)、就活で民間企業を受けたら見事に全滅してしまったのと、定職につかないとガチで両親に家を追い出されそうだったので、ひとまず学芸員になるという選択をしました。

それから数年、今のところ学芸員を飯の種にして暮らしているわけですが、初手は特にめちゃくちゃなりたいというわけではありませんでした。すみません、初っ端からネガティブなことを書いて笑
ただ、私自身そんな感じなので、読者の皆様もあまり気負わずに、仕事を選ぶ上の選択肢の一つとして「学芸員」という仕事を考えていただければと思っています。
もちろん、仕事をするからにはプロとして頑張らなければなりませんが、特に熱意がなくても諦めず試験対策をすれば学芸員にはなれます。まあ、自分の興味関心と特性を鑑みて職業選択の一つとして検討してみてくださいな。

さて、私自身は学生時代以降20以上の常勤学芸員採用試験に落ち続け、非常勤の学芸員をやっておりました(非常勤職のメリットデメリットについてはまた書きたいところですが、それはともかく)。
その後、2年ほど非常勤を続けてから常勤の道が開けた人間ですので、「美術館学芸員」として採用されるための試験の内容については人より知っているつもりです(不名誉なことだけれど笑)。

そこで、実際にどのような傾向の問題が出るのか自分の経験から少し書いてみようと思い立った次第です。

※この記事は既に学芸員資格を取得し、採用試験の受験を検討している人のためのものですので、「学芸員の職務内容」とか「資格の取り方」とか「大学の選び方」とか「どんな人が向いているか」とかそういう話は一切しません。
また、主に公立美術館の正規採用試験受験者を想定して記事を書くので、それ以外の人の参考にはならないかもしれません。

筆記試験の出題傾向

博物館学


美術館学芸員の採用試験は一次試験が筆記試験、二次以降が面接という形式が基本です。
中でも「教養試験+専門試験型」の筆記試験を実施する美術館は、公立の直営館が多いです。
もちろん館によって傾向は異なりますが、「公務員かつ学芸員」という身分の採用であれば文化行政を担うものとしての意識も求められることになるため、教養試験が他の公務員と同様に課せられる場合が多いのでしょう。

教養試験については公務員試験用の問題集を買って対策すれば大丈夫です。ここでは、専門試験の内容について話します。
出題してくる館はそんなに多くはないと思いますが、「博物館学」に関する問題は出てくる場合もあるので対策が必要です。
北の方の某館、北陸地方の某館等で見かけたことがあります。

博物館学は学芸員という職能の根幹に関わる学問です。詳しくは武蔵野美術大学が出している「ミュゼオロジーと〇〇」というシリーズの本を読めば大体わかります。
そもそも「学芸員」とは、博物館法の定義によれば、「博物館資料の収集、保管、展示及び調査研究その他これと関連する事業についての専門的事項をつかさどる(博物館法第4条第4項)専門的職員」です。そのため、通常は学芸員資格の取得が必要とされます。
ちなみに学芸員は任用資格ですので、資格だけ持ってても学芸員とは名乗れません。
まずは大学で勉強した(はずの)博物館学の講義を思い出してみてください。

「博物館資料保存論とか博物館情報論とかいう講義を受けたはずだけど、もう忘れちゃったよ〜」というそこのアナタ!

大丈夫です。

私も全てを忘れました笑

とりあえず、博物館学の概説書とか大学でオススメされた本をサラッと読んでおいたら大丈夫です。細かい知識などはそんなに聞かれることはありませんから。
ただし、昔の講義は忘れても最近の重要なトピックは忘れないでください(AKB風に)。
そのトピックとは何か。少し共通テストにおける社会科の会話風に書きながら説明してみましょう。

学生「先生ー!最近のトピックってなに〜?」

先生「はい。それは令和4(2022)年4月に「博物館法の一部を改正する法律」が成立したことです。約70年ぶりとなる博物館法の単独改正が実現し、令和5 (2023)年4月1日から、新たな制度に移行したわけです。この改正の目的については絶対におさえておいてください。あと、ICOM京都大会を経てプラハ大会で新定義が採択されたミュージアムの定義もおさえてください。ピンポイントで出題されることがなかったとしても、記述で聞かれたりします。」

後述しますが、専門試験の筆記では語句問題とテーマ記述が定番です。そして記述問題では、「これからの美術館(あるいは受験している館)のあるべき姿についてアナタはどう思いますか?」みたいな質問がマジで頻出します。
そしてその傾向はこれからも続くでしょうし、現状をふまえて自分の意見を記述する必要があります。だからこそ最近の重要なトピックはおさえておく必要があるのです。

語句問題

次に語句問題です。院試みたいな問題です。

学生「先生ー!語句問題ってなにー?」

先生「はい。美術館学芸員の採用試験では確実と言って良いくらい、よく出る形式の問題だね。君は、「ヴァニタス」って知ってるかな?」

学生「えーっと、ヴァニタスは、〈人生の空しさ〉を示す寓意的な静物画のジャンルの一つです。 16世紀から17世紀にかけてフランドルやネーデルラントなどヨーロッパ北部で 特に多く描かれました。豊かさを意味するさまざまな静物の中に、死の隠喩である頭蓋骨や、時計やパイプ、腐ってゆく果物などを置き、観る者に対して虚栄の儚さを喚起する意図をもっていました。「カルペ・ディエム」や「メメント・モリ」と並ぶ、バロック期の精神を表す概念でもあります」

先生「はい、ありがとう。まあ、こんな感じで特定の語句について端的に説明させる問題だね。10個くらい選択肢がある中から3〜5題選んで回答させるのが定番だ。自分の得意分野で点を稼げるようにしておこう」

語句問題については、受ける美術館のコレクションに即して問題が出ることがほとんどなので、コレクションを事前に調べて勉強してください。字数は100字〜300字くらいが多いです。頻出は「ヴァニタス」、「草土社」(マジでよく見る。岸田劉生については細かく調べといて損はない)あたり。

あと、語句問題は関連パターンとして、「作品解説問題」として出題されたりするので注意してください。具体的なコレクションの画像を示されて解説文を300字程度で書くパターンが出ることもわりとあります。なんならどの層に向けて書いたかとか記述理由も説明させられる場合があるので注意が必要です。

英文和訳


県立館、国立館クラスは長文の英文和訳が必須であり、西洋美術担当であれば二外の和訳も必須となります。
普段からCNNの記事等に目を通しておく、海外の論考あるいは批評を原文で読んでおく等の対策が必要です。
ちなみに精読が求められる美術館もありますが、意訳とか要約で良いところもあるので求められるレベルは館によります。
まあ昨今バイリンガル化がミュージアムでも進んでいるので少なくとも英語のリーディング能力は必須だろうと思います。
っていうかやらないと仕事する上で大変なことになります(経験者は語る)。

テーマ記述

「博物館の現状と課題」、「対話(型)鑑賞のプログラムについて」、「コレクションの活用方法」、「展覧会における資料撮影のメリット/デメリット」….
まあこんな感じでテーマが設定され、それについて自分の考えを書く試験。日頃から自分の考えを明示的に説明する訓練をし、言語化能力を上げておくことが必要です。プレゼン命!

おわりに

はい、以上で採用試験(筆記)に関するお話は終わりですが、学芸員を目指す学生の皆様に一言。

「地方へGO」

マジレスすると、関東での学芸員正規就職は未だ厳しいです。26倍とかあるとこもありますんで注意してください。関東から離れられない理由がある人以外で学芸員になりたい人はマジで地方行ってください。あ、どの試験でも上位5%以内に確実に入れるエリートは別です。そうじゃなければ正規で早く実績を積むのが吉なんで地方行ったほうが勝率は上がります。

先生「みんなそんなに東京が良いのですか?地方はいいぞ〜、良い感じの立ち飲み屋とか謎の道祖神とか廃墟化したテーマパークとかあるし謎の楽器を売ってる店があって〜(布教)」

学生「僕はどの試験でも上位5%以内に確実に入れるんで先生とは違うし留学先で学位取ったんで余裕です」

先生「君はもう大学に残りなさい」

僕は地方出身者かつ転勤族だったので移動にも抵抗がありませんし、最初から地方の縁もゆかりもない美術館を受けに行ってました。これは独身だからできることかもしれませんが...。
皆がそれぞれの道を後悔なく選べれば良いなあと思います。

次回は面接編を書こうかなあ。


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