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輪廻転生を口にはするけど信じていない

私は運の悪いことがあると、冗談で「これは前世で悪いことをしたから仕方ない」という。
他人にそうやって吹かす。
すると、うざい奴だと思われているかもしれないが、少しだけ場が和む。

バカ発言だ。

世の中には、「これは前世で悪いことをしたから仕方ない」としか言いようがないほど運が悪い、というのは確かにあると思う。
そもそも、産まれたときから経済面や能力面、環境面で圧倒的に不利な立場で産まれてしまえば、もう、これは運が悪いとしか言いようがない。
産まれたときは恵まれていても、生きていて不慮の事故事件に遭遇して立ち直れないことだってある。

この記事を書いている2024年の2月現在でも、戦災や災害で苦しんでいる人たちはたくさんいる。
そういった事象について、戦災であれば歴史的経緯や国家的民族的な要因、災害であれば自然的な要因をいくらでも述べることはできるだろうが、個人が災難に遭う因果を探るのは難しい。
要は、戦争も災害にはその発生に理由があるにせよ、そこで実際に被害に遭っている人について「なんでそんなところにいたの?」と問いかけても、そこに根本的な理由なんて無いのだろう。
要は、やっぱり運が悪いのだ。

そういう運の悪さを例に挙げて、己の卑近で些末な運の悪さを運という要因で逃げようとしていないか?
私の運の悪さについては、元々の原因をさぐれば、もっぱら不幸や他人の悪意を引き寄せている言動というものがあるのも知っている。要は、運じゃなくてお前が悪いんだと。自分から不幸を買っているんだと。
しかし、そういう言動をしてしまうのだって、好きで自ら進んでやっているのではなく、生まれ持った性根みたいなもので、意識せず自然とやってしまっている。
産まれてからこの世で生きて、遭遇してきた経験がこういう風にさせているのもあると思う。

結局、自分についても他人についても、何事も仕方ないのだ。
そう、思うようになった。

これを諦めと言われればそうかもしれないけど、できもしないこと、手に入らないものは望まないと決めれば、自由になれるとも考えられる。

昔、インドを旅していてこんなことがあった。
大して旅行者もいない田舎町の安宿に泊まることができて、案内された部屋に着くとがっかりした。
窓が無い部屋なのは仕方ない。壁は一部崩れていて、そこから南京虫の群れが途切れることなく歩いている。
この部屋で一晩寝れば、翌日は酷いことになるのは目に見えている。
この宿は捨てて、別の宿を探すか。しかし、この街に安宿は少ない。
たしか近所に大型のホテルがあったが、宿賃はこの宿の10倍はしそうだ。
仕方ないと諦めて別途に横になる。
南京虫の群れを眺めていると、彼らは全く同じようで個性がある。
それらを眺めて楽しむことにした。没頭すれば、これもまた楽しである。
翌日、案の定虫刺されでひどいことになったが、南京虫の群れを見るという体験ができたのだから、それでよいと思うようにした。

最近、神様か自然か超自然的なものかわからないが、それらから与えられた役割をこなすしかないのだと、少しずつだけどわかってきた。
多分、そこに愛はない。

この「わかる」というのは、「知識として知る」というより「感情的にも受け入れる」という意味の方が近い。

むずかしいことでもなければ、大したことでもない。
アリを観察すれば、群れの中には、せっせと働いている働きアリと、サボっているアリと、女王アリがいるのと、人間様だって同じってだけの話だ。
群れの中で生きる彼らに分別があるのは種の生存という意味で理由があるだろうが、それぞれの個体がどういった理由でそういう役割を担う羽目になったのかについての理由はない。

本当は前世なんて無いと思っている。
そしてあの世も、後世も、死後の世界も、また無いのだろう。
だから、現世をいかに面白おかしく楽しく生きるかが全てなんだろうけど、なかなか、そういう風には生きられない。

そうさせているのは、己の中にある煩悩かもしれないし、恐怖かもしれない、性なのかもしれない。

自分を慰めるために、根拠もなく勝手に、不幸や幸福を貯蓄できると信じている。
記憶はないけど前世で悪いことをしたから、きっと今は酷い目に会っているのだろう。
今、辛い思いをしていて、これから先、生きていてもあまり楽しいことも希望も無いのかもしれないけど、それでも真面目に生きていれば、きっと生まれ変わった後世はもう少し幸せになれるだろう。
そう、思いたい。
輪廻転生が、あるものだと信じたい。

しかし、そんなものは無いのだろう。

魂も、意識も、記憶も、人間という生きものが生まれてある程度成長したら、泡のように現れて、老いて死んだら消えていく。
きっとそれだけなのだろう。

それでも、自分も他人も、与えられた役割のなかで、自由に生きれるし、むしろ自由に生きるしかないのだろう。

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