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同質と異質の境界線 〜 シビルウォー感想

映画シビルウォー見たらすごかった。2024年版、キャプテンアメリカじゃない方のやつです。トレーラーとかあらすじだと、わりと地味そうに思えたけど、見始めたら退屈も一切せず、始終すげー楽しめました。

これあれか、議事堂占拠からのパラレルワールド的な?あの後トランプが再選、プーチン化して3期連投で権威主義を振るってたら、50州のうちリベラル19州がアメリカ離脱、合衆国崩壊しちゃった世界線。しかも対ファシズムで内戦状態に突入、もはやホワイトハウス陥落寸前という。トランプ陣営もうボロボロ。ザ・レッドステートのテキサスも、最近はヒューストン、オースティン、ダラスとかの大都市は(特に若年層は)かなりリベラルだという噂だし、税制の違いとかでカリフォルニアからの流入者も激増中らしいので、西側連合も十分現実味あります。まあアメリカは過去に一度内戦やらかしてる訳だし、ソビエト崩壊とか英EU離脱とか、なんか色々入ってるなあ。ユナイテッドは結局いつか壊れるって事なんですかね。ズッ友なんていないんだ。(泣)

ちなみに、アメリカが崩壊したら、中露はまた増長するし、EUは東西分裂、中東も大荒れでイスラエル消滅、19州はカナダ西欧と合流してNatoで結束、中央アメリカ政府は中南米に接近?その時日本はどうするんですかねえ。またくっつく相手間違えてトランプと心中路線とかやらかしそうな気もするけど、石破政権のお手並み拝見。

とまあ、背景はフワッとボヤかしてるものの、映画自体は凄まじい出来でした。まず絵が良い。フレーミングいちいち美しい。役者も演技も良い。キルスティンってこんなすげー役者になってたのか。脚本も構成も演出も良い。エグいしエモいしオサレ。音も良い。ハイセンスな音響で臨場感没入感超高い。つまり、トンデモ設定だけ目を瞑れば、作品としては超絶ハイレベル

ニック・オファーマンで始まって「28日後」や「ラスアス」なゾンビものを彷彿とさせつつ、でもなんだかドキュメンタリーのような、エモエモ青春ジャーニーのような、FPSゲームのような、なんとも不思議な視聴感。しかし出来がいいので、ずっとドキドキ見てられる。

こんな殺伐とした絶望の世界線、でも可能性ゼロだとは言い切れない…とか考えさせるところがこの映画のミソですかね。特にアメリカに住んでる人にとっては、「トンデモ設定www」とか笑って済ませられない怖さがありそうです。アメリカやばい。

しかしさすがに戦場カメラマンも、今どきは動画で撮るんじゃないかなあ。スチール演出とかエモいけど、ジャーナリストっていうより迷惑系戦場Tiktokerみたいだった…。


メタ視点のススメ

「どうして人を殺しちゃいけないの?」と子供に聞かれたら、どう答えますか?

確かに、ダメだと言われてるにも関わらず殺人は毎日世界のどこかで起きてます。戦争だって起こってて、たくさんの人達が殺し合ってるのに、世界は今日も普通に回っています。宇宙に影響は無い。「悲しむ人がいるから」殺人はダメ、みたいなエモ説明でやり過ごしてもいいんですが、もうちょっと考えてもらってもいいかもしれません。

「じゃあ、人を殺してもいい、って事になった世界を想像してみよう。」そうなると、道で肩がぶつかっただけで殺されるかも。それどころか顔がムカつくってだけで殺されるかも。まあ大概の人は人を殺そうなんて思わないでしょうが、中には積極的に人を殺そうとする人も現れるでしょう。そういう人達が徒党を組むかもしれません。それに対する自己防衛や、大切な人を殺された報復で殺人する人も現れて、そのための武器ビジネスも活発化するでしょう。そうなったらもう社会の維持はほぼ不可能です。そしてそんなディストピアに近い事になってる国は、現実にもチラホラあります。そういう思考実験フィクションを映画にしたのが「Purge」ですね。やっぱアメリカやばい。

結局のところ、正義だ悪だってのは、その社会を維持するために導入されたローカルルール、集団的生存戦略に過ぎません。「殺人は絶対悪!」なんて短絡思考、死刑がある日本の国民としてはやばいですし、同時に「命を守る事こそ絶対正義!」みたいな中二思考でウクライナ支援もそれはそれでやばい。「戦いとは正義と正義の衝突だ」ってのは呪術廻戦だったっけ。秩序が崩れれば即座にルール無用の原始マッドマックス世界です。「絶対なんて絶対無い」みたいな問答になってきて、レリジエンスを大量消費します。

局所的に見れば正しいと思えるイベントも、メタ的に見たり、因果をシミュレートする事で、全く違った見解が生まれてきます。忙しい人はいちいちそんな事考えてる時間は無いかもしれないですが、考えないと、自分が悪とする側に無自覚に加担してしまって、自己矛盾ブーメランに苦悩するマーレ人とエルディア人みたいな事になっちゃいます。メタ視点大事。

利己 = 利他

ちょっと前、カリフォルニアで「軽犯罪免除」みたいな法改正があって、簡単に言うと、万引きで捕まらなくなりました。それを受けて、ヒャッハーしてる動画とかがSNSでバズってました。やっぱアメリカやばい。

僕が住むロンドンでも、ごく稀ですが明らかにアレな人が堂々と万引きをして引き止められてるのを見る事があります。で「けしからん奴だ」「早く牢屋にぶち込んでしまえ」「治安悪くて怖い」みたいな直感的反応が当然起こる訳ですが、これに関してもメタで見ればそう単純な話ではない事がわかってきます。

捕まえてしまうのは簡単です。でも西洋合理思考はそこでコスパを考えます。5ポンドのサンドイッチを万引きした人物を拘束・対応・検挙する全てに人件費が発生します。そこから留置勾留等になった場合にもコストが発生します。裁判や賠償などの手続き等も同様。更に言えば、既に貧窮している人物にコスト上乗せする事で、生活保護に転落してしまうかも知れません。それは税金から賄われます。困窮した人物は、更なる窃盗や暴行に及ぶかも知れません。すると治安が悪化し、その対応にまた税金が使われます。とにかくめっちゃコストかかります。元々スーパーの仕入れなんて、損壊廃棄等のためのバッファが含まれていて、5ポンドの損失で経営に影響が出ることはありません。なので万引き逮捕なんて、コスパだけでいえば最悪な訳です。だからって、もちろん万引きを容認する事はしませんが、大抵は注意だけで解放される事になります。

中世以前であれば「殺してしまえ」で済んだかもしれません。しかし「殺人を是としない」ルールになった現代社会では、どうにか救済・公正の道を探ります。つまり、弱者は救わないと、巡り巡って社会不安や負担となって自分に返ってくる訳です。なので、そういう教育を受けている人達は、ホームレスに小銭を渡したり、マイノリティ援助やボランティア活動に積極的に参加したりします。そして、そういう境遇を生んでいる構造を是正しようと動きます。

「我田引水」「一人勝ち」は結果高コストになる。それどころか、社会性生物においては致命傷にもなりえる。だから格差社会はやばいし、行き過ぎた資本主義はやばい訳です。まさに「情けは人のためならず」自分のためであり、利他的行動も、それは同時に利己でもある、古代から様々な宗教でも説かれている集合知だという事です。

自己 × 他者

ところで僕は従兄弟に一卵性双生児が2組います。一つの受精卵から分裂した、全く同じ遺伝子を共有するクローンです。見た目は本当にそっくりですが、当然彼らは別々の独立した個人で、違う人格を持った別人です。人格や性格は、「資質」と「環境・経験」が影響し合って生成されます(セラピーで家族や過去を掘り下げるのは、これらを探るためです)。よって、遺伝子が同じでも、異なる経験や記憶によって個性を獲得して別人格になっていきます。結果、僕の従兄弟はみんな結構性格が違います。例えば、完全に同じモデルのスマホでも、インストールするアプリや扱い方によって別物になっていくのと同じです。まさにパーソナライズ。

僕自身は双子とかではないので、クローンはいません。だから自分と完全に同じ資質を持った人間が側にいる感覚はわかりませんが、それでもやっぱり「自分は自分、彼は彼」という自己認識になるだろう事は想像できます。何が言いたいかというと、僕たちにとっては自身のクローンですら異質の他者であるという事です。同質性が極めて高い異質物。つまりこの世界には「完全に同質な人間などいない」という当たり前の事実であり、自己以外は全員他者で、「同質と異質」は単なる認識における距離感に過ぎないという事です。

同質と異質の境界線

僕らの体は細胞でできていて、それらは元々ひとつの卵細胞から分裂したクローン細胞であり、共通のDNAからそれぞれの個性を発現させた多様な細胞で構成されています。外部から全く異質の何かが侵入すると、免疫系が反応してそれを排除しようと動きます。しかし、表皮細菌や腸内細菌、一部ウイルスなど、体内外で共生する生物もたくさんいます。同質の境界内に入った異質たちです。異質性に注目して攻撃するのか、同質性を見出して共存するのか。例えば僕の体細胞が分断して内戦始めたら、たぶんアナフィラキシーで僕は死にます。つまり結局全細胞死滅のバッドエンドです。ちなみに、ごく稀に「同質的でありながら無際限にリソースを消費して周囲の細胞を死滅させていくブッ壊れ細胞」というのが出現します。僕らはそれを癌細胞と呼びます。

「自己」と「他者」の関係性においても、それは同様に作用します。お互いの中の同質性で繋がって、その集団を「仲間」と認識します。資質も環境も近い「家族」は同質性が高いと言えるし、他者であっても性格や生活環境、趣味や仕事の同質性で繋がって「仲間」を形成します。同質の「仲間」という認識が生まれると、同時に異質の「非仲間」という認識も発生します。そして「非仲間」は往々にして「仲間にとっての脅威」「敵」という認識にも変化します。レペゼン地元、フーリガンの誕生です。

「家族は絶対守る」「敵は全員ブッコロ」というのはオキシトシン反応に起因する、群生生物としての習性でもあります。そして、知らないものを恐れる・警戒するのが人間なので、無知な人の同質ラインの限界はレペゼン地元止まりです。仮想敵や陰謀論による煽動にもすぐ引っかかってしまいます。しかし知識を得て無知を克服する事で、同質性の認識範囲をメタ的に広げる事ができます。つまり結局は、異質ばかりの世界でどこまでを同質と認識できるか、同質と異質の境界線をどこに引くか、という問題な訳です。

「俺たち同じアメリカ人じゃないか」「で、お前はどのタイプのアメリカ人なんだ?」というやりとりは、それぞれの境界線の違いを端的に表しています。「都民」「関東人」「日本人」「アジア人」「仏教徒」「人類」境界線はどこにでも引けます。メタ視点で世界を捉える人は、ホームレスでさえ「自己」と捉えて利他行動を取ります。「地球」でさえ「自己」と捉えて環境活動に取り組むかも知れません。それも結局は全て利己的行動の延長なのです。

分断好きのシビルウォー

昨今、リベラルに対するバックラッシュに乗じて、反ポリコレ的な保守ムーブをする人が増えてきました。リベラルは敵。ポリコレは敵。多様性は敵。移民は敵。弱者は甘え。アメリカファースト。自分ファースト。地元以外全部異質。あれも怖いこれも怖い。トランプ現象とかで勢いづいた反知性主義、レペゼン地元バンザイ民。こんなに情報に溢れた世界で、無知が加速していく。「あいつは魔女に違いない、そうだそうだ」的なお約束モブキャラ、典型的オルトライトってやつです。そういやクローンウォーズのヴィランも「分離主義者」の「尋問官」たちでした。

境界線を地元に引いて、それ以外を敵としてしまったら、もう全世界が敵じゃないですか。で、不安パニック障害でまた怖くなっちゃって分断を煽る。全力で不寛容。プーチンやネタニヤフと同じ病ですね。なんか生きるの大変そうだし、周りも大迷惑です。挙句シビルウォーなんか起こしちゃった日には、むしろ地元ごと壊滅の危機なんですが、「ヒャッハーぶっ壊せー」な知性の人たちはメタ視点もコスパ概念も無いので、この映画を見ても尚そのリスクに気づけなそうです。で、何も得られない上に莫大なコストを払う羽目になる。現在アメリカ若干300歳、齢3000歳の古代中世ヨーロッパの歴史に学ばないから、同じ轍を踏み続ける、自業自得の極みです。


完全同質なものなど無く、世界は多様であるというのは、単なる事実です。「多様性を認めろ」とは「現実を見ろ」って事に過ぎません。「嫌だ嫌だみんな同質がいい」はただの現実逃避で残念ながら不可能なので、知性を使って同質の境界線を広げようよって事です。そしたら怖くなくなるよと。別に頭お花畑の左翼が「人類皆兄弟」みたく浮かれてる訳ではないのです。という目でこの映画を見ると、イギリス人がアメリカ人を小馬鹿にしつつ作ってる感も垣間見えたり。まあヨーロッパも大概ですけど。



ともあれ、シビルウォーおすすめですよ。とりあえず見て損は無い。下手なゾンビものよりドキドキできます。ちゃんとエンタメしつつ、教養を試してくるハイコンテクスト映画って楽しい。で「人類って愚かだなー」とか思い耽るのも良し。人間って、ハードウェア設計は10万年変わってないっぽいので、今でもほっときゃ原始人のままです。インストールするOSとアプリで対応するしかないって事ですね。

つかやっぱアメリカやばいわ。


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