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僕らには近未来ユートピアがもっと必要だ

世界中が何やらお先真っ暗のディストピア感に包まれる昨今。

Netflixの「地球外少年少女」見ましたよ。いやー良いですわ。全っ然誰も話題にしてないけど。一方で大人気のエッジランナーズ(トリガー作画は最高)とかよりよっぽどSFしてると思うんですけどねえ。自分的にはギーク金字塔たるインターステラーさえも超えてるかもしれない高評価なのです。あっちはもっと相対性理論フォーカスですが。しかし電脳コイルがはや15年前ですか。あの時も度肝抜かれたけど、磯さん熟してきた感。

シンギュラリティシュレディンガー方程式量子もつれ超弦理論や11次元超重力、みたいな面倒臭い最先端物理学トレンドを全部盛り込みつつ、ライバーとかエコテロとか自己肯定とかの世俗社会的スケールに落とし込んで、一応破綻なく少年少女アニメとして成立させるとか、ちょっと常軌を逸する手腕です

磯光雄ってパヤオアンノ級の天才だと思うんだけど、あんまり持て囃されないのはやっぱり地味なんかなー。ちゃんと面白ガジェットとか中二ギャグとか「綾波、来い!」までやってエンタメ頑張ってるんですけどねえ。理性的な理屈を突き抜けて本能的な畏怖や快感に訴える、圧倒的エッジー&キャッチーな造形演出がもう少し足りないのかも。簡単に言えばエモエログロ不足?どうしても頭でっかちになりがちなのが僕らギークの悪い癖、陽キャに響かない理由ですかね。

それにしても個人的に何より良かったのが、この作品がポジティブな波動に包まれている事です。ユートピアというにはあまりに不完全ではあるけど、ディストピアでは全然ない。むしろ希望に溢れている。未来は確定しておらず重ね合わせの中から選択できる。失敗を繰り返しながらも安定方向へ収束していくという信念。量子的に考えればスカイネットやマトリックスなんて起こるはずがないんです。ディストピアが作劇し易いのはわかりますが、僕らにはユートピアな未来像がもっと必要なんです。ノルアドレナリンよりもセロトニン。SF作家さんたち頑張ってください。

僕らは今、人類史における情報革命の真っ只中です。ボス猿が群れを率いる絶対君主制から始まり、組織の成長・複雑化に伴う権力の分散が進行、農業革命を経た王族貴族統治の封建制、産業革命を経た資本家統治の資本制、更なる権力分散による民主制に目下チャレンジ中の僕ら。そこに起こった情報革命、ネット登場から30年そこらの過渡期ド頭です。このパニック期を乗り越えて新テクノロジーを手懐けた時、人類史は次のステージに入ります。もしかしたら夢の社会主義を達成するかもしれないし、地球外もしくは5次元世界にアクセスし始めるかもしれない。自己統合を完了し、まさに「ついにゆりかごから飛び出す子供たち」となる訳です。なんてワクワクする未来。まあ僕が生きてる間には見られるのはせいぜい「AI神絵師爆誕!」くらいかもだけど。

人類を「全体でひとつの生物」と捉える見方ってありますよね。例えば蟻や蜂は個別で生きているのではなく、むしろ巣が本体である、という考え方です。絵本なんかでは「女王蜂が統治している」風に描かれますが、実際はヒエラルキーがある訳ではなく、女王はシステマティックに巣という本体の「卵巣・卵子」の役割を担っているに過ぎないと。それぞれの役割を持った個体の集合によって、まさに体を成す。そういう風に考えれば、僕ら自身の体だって所詮個別細胞活動の集合でできている訳です。そしてその人間という個体群が更なる集合を作ってより大きなひとつの生命体を形成する。この人類というひとつの生物は、まだゆりかごの中にいる赤ちゃんであるというメッセージ。壮大。量子論が仏教と絡めて語られる事は多いですが、スピリチュアルから生まれた科学が、再びスピリチュアルと合流していく流れは面白いです。

ちなみに電脳コイルで一番好きだった「ヒゲのエピソード」があるんですが、原始知的バグが増殖して文明化、最終的には星間戦争にまで発展した後に焼け野原、惑星移住にも失敗した挙句、別次元に旅立っていくという話です。バタバタしながら学習成長して、いずれゆりかごから巣立っていく、磯的死生観というか、「私たちはどこから来た何者でどこへ行くのかbyゴーギャン」的な、そういうのは昔から変わってないんですね。

まあともあれ「地球外少年少女」面白いのでおすすめですよ。


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