患者さんに「物忘れ予防に、ホントに効果があるのはなに?」と聞かれたら 〜脳にやさしいライフスタイルとは〜
みなさん、こんにちは、TERUです。
私が担当する脳神経外科外来では、
患者さんから、本来受診した症状とは別に、
「私、アルツハイマーになっていませんか?」
「海馬が萎縮していませんか?」
など、認知症に関する質問をたくさんいただきます。
皆さん、「アルツハイマー病」、「海馬」といった、専門的な言葉をよくご存知で、昨今の認知症に対する関心の高さを実感します。
そして、「テレビで見たのですが、○○は効果がありますか?」と具体的な予防法のアドバイスを求められることもしばしばあります。
このような患者さんからの質問に答えられるように、最近の認知症予防の知見をまとめておきます。
認知症は、認知機能が低下する疾患の総称で、多くの病態が含まれています。
最も多いアルツハイマー型認知症も、さまざまな遺伝的要因や、環境要因が絡み合って発症すると考えられています。
ですから、テレビやインターネットなどで、「ある食材や、トレーニング法に認知症の予防効果がある」ととりあげられることがありますが、特定の食材や、方法に予防効果があることを科学的に証明するのはなかなか困難なのです。
それらに効果がないと一概にはいえませんが、これさえすれば良いといった決定的な予防法はわかっていないのが現状です。
そんな中、日本を含め世界各国の疫学調査や、前向き追跡研究(集団を経時的に追跡し、危険因子と病気の発症との関係を調べる研究)から、「認知症になりにくいライフスタイル」は、少しずつ明らかになってきています。
アルツハイマー病と、次に多いとされる脳血管性認知症は、合併することも多く、いずれも、生活習慣が発症に大きく影響しているのです。
2019年ロサンゼルスで開催されたアルツハイマー病協会国際会議(AAIC 2019)では、「複数の健康的なライフスタイルを組み合わせて実践する」ことで、認知機能の低下や認知症のリスクを軽減出来るという内容の報告が、多く示されました。
ここでは、これまでの報告から、組み合わせて行なうことで、予防効果が期待出来るライフスタイル、六つのポイントをご紹介します。
1) 積極的な運動を心がけましょう
特に有酸素運動を推奨する報告が多いようです。具体的には、早歩きの散歩や、水泳、サイクリングなど、息のはずむ運動です。筋トレと組み合わせて効果があるとする報告や、運動と認知課題を同時に行なうことで、より効果があるといった報告もあります。運動を継続するためには、楽しく行えるスポーツは大変おすすめです。
2) 食事はバランス良く
予防効果が高いと報告されている食生活の傾向をみると、野菜類、海藻類、大豆やナッツなどの豆類、魚、鶏肉のような質の良いタンパク質、乳製品の摂取が多く、一方で、炭水化物、アルコールの摂取量が少なめのパターンが良いとされています。ひとつの食材にこだわらず、バランス良く食べることが大切です。
3) 質の良い睡眠をとりましょう
脳では、睡眠中に、老廃物の排泄能が高まると考えられています。慢性的な睡眠不足が、認知症の発症に影響するといわれます。
4) 糖尿病、高血圧があればしっかり治療
糖尿病を放置すると、認知症になりやすいこともわかってきました。高血圧症は、特に血管性認知症の危険因子になります。減塩食や、禁煙も大切です。
5) 趣味や社会参加などの知的活動
社会的孤立が認知症の大きなリスクといわれています。ボランティア経験のあるひとはリスクが少ないという報告も散見されます。趣味では、囲碁将棋などのゲームや、手先を使う手芸などは予防効果が高いといった報告があります。趣向は十人十色です、自分に合った趣味や交流の場をみつけましましょう。
6) 楽しみとやりがいを持った生活を送りましょう
これらを無理せず楽しく実行しましょう。ストレスを減らし、認知症リスクのひとつである「うつ」を遠ざけることも大切です。
以上のポイントは、どれも特別な方法ではないことがおわかりだと思います、
当たり前すぎて拍子抜けかもしれません。
しかし、継続して実行するのは意外と難しいものです。
40、50歳代からの予防が重要ですが、軽度認知障害と診断された時点でも、一定の効果があるといわれています。
患者さんには、是非、
「自分にとっては、「今」が一番若い時です、遅いということはありません、思い立った今から実践してみませんか?」
と、アドバイス差し上げて下さい
私も、昨今 物忘れを身にしみて感じています
最近、自転車通勤をはじめてみました
最後まで読んでくださり、ありがとうございました
*日本脳神経外科財団ニュース 2020.4.10 No. 139 に、私が執筆した記事を一部引用しました
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