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日本一、医療・介護需要が急成長する市は、意外な○○市だった|将来推計人口を分析しよう(後編)

はじめに


「病院・介護施設のはじめての外部環境分析」と題して、病院・介護施設の外部環境分析の方法について解説しています。

これから医療介護経営に関わる方や、はじめての外部環境分析に挑戦したい方に向けて、出来るだけ分かりやすく解説していきます。

前回は、「将来推計人口を分析しよう(中編)」を紹介しました。

「将来人口推計を分析しよう」では、全3回に分けて、各地域の将来人口推計をどのように調査し、調査結果からどのように経営のヒントを得るのかを解説します。

今回は、最終回として、「経営のヒントを得るための2つのコツ」についてご紹介します。

データから何を得るかが大事

データを見るときに大事なことは、そのデータから何らかの経営のヒントを得ることです。ただデータをグラフ化したり、表にしたりするだけでは意味がありません。データからヒントを得るためにはの2つのコツがあります。

【コツ1】他のデータと比較する

データから経営のヒントを得るためには、データを他のデータと比較することが必要です。

特定の地域を分析しようとすると、どうしても調べる対象の地域のデータだけに注目してしまいがちです。しかし、対象の地域データだけをじっと見ていてもそこから経営のヒントは得にくいものです。

他のデータと比較することで、対象の地域データだけを見ていても気が付けなかったことに気づくことが出来ます。データを分析する場合、このように2つ以上のデータを比較するという視点が、基本となります。データは2つ以上のデータで比較をすることで、その真価を発揮します。

例えば、以下のデータからどのようなことが言えるでしょうか。

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埼玉県さいたま市の将来推計人口を表したグラフです。

総人口は2030年をピークに減少していくことがわかります。また、65歳以上の高齢者は増えていく一方で、そのほかの年齢階級は減少していくことが分かります。

しかし、このグラフから読み取れることはここまでです。さらに一歩、踏み込んだ考察をするためには、他のデータと比較する必要があります。

次は、全国の平均的なデータと、埼玉県さいたま市の比較データを見てみましょう。こちらのデータからはどんなことが言えるでしょうか。

異なる大きさの2つのデータを比較するために、2015年を100とした場合の変化を指数化して表現しています。青色の線が各年齢階級別の推移(デフォルト表示は75歳以上の年齢階級)で、赤色の線が総人口の推移になります。色の濃い方が市区町村データで、色の薄い方が全国平均のデータ(デフォルト表示は埼玉県さいたま市)になります。

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まずは、赤色の折れ線グラフで総人口の変化指数を見てみます。すると、2030年をピークに減少していくことが分かりますが、常に全国平均以上の推移をしていることが分かります。また、全国平均は減少傾向ですので、その中において、2030年まで上昇し、その後の減少も微減であるというのは、さいたま市の大きな特長です。全国平均と比較すると、総人口がかなり長期的に維持される地域であることが分かります。

次に、青色の折れ線グラフで75歳以上人口の変化指数を見てみます。すると、全国平均を上回る成長率で右肩上がりに上昇していくことが分かります。さらに、全国的には2030年を境にして横ばい傾向に変化するところ、さいたま市は、3035年以降、今まで以上に75歳以上高齢者の人口増加が加速することが分かります。前回の記事でお伝えしたように、75歳以上が増えるということは介護需要が大幅に伸びることを示しています。そのため、全国と比較してもさいたま市は介護需要が急速に成長していく地域であると言えます。

ここから、さいたま市内で既に事業をしている法人であれば、しばらくの間は利用者の自然増が期待できることが分かります。積極的なサービスの拡充や、職員の確保を進めて問題がないということが分かります。

また、さいたま市への進出を検討している法人であれば、全国と比べても優良なエリアである為、新規進出は吉であることが分かります。

このように、データを比較することで、特定の地域単独で見ていても気づけなかった視点に気が付くことができます。

ぜひ、他の市区町村や、他の年齢階級でもチェックしてみることで、自身の外部環境分析にお役立てください。


【コツ2】2つの軸で整理する(散布図を使う)|日本一、医療・介護需要が急成長する市は、意外な○○市だった。

コツ1のに通じることなのですが、やはりデータは2つ以上のデータを比較することで真価を発揮します。2つの軸を使ってデータを分析する散布図は有効に使うことで、面白い示唆を私たちに与えてくれます。

散布図をうまく活用できる人は、データ分析がうまい人です。

早速、以下のデータを見てみてみましょう。

1つ1つの点が市区町村を示しています。2015年の総人口と年齢別人口(デフォルトでは75歳以上)を100とした場合の、2045年時点の変化指数をプロットしました。x軸(横軸)で100以上の部分にプロットされている市区町村は、総人口が増える市区町村です。y軸(縦軸)で100以上の部分にプロットされている市区町村は年齢階級別の人口が増える市区町村です。

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x軸(横軸)で100以上の部分にプロットされている市区町村は、総人口が増える市区町村で、100以下の部分にプロットされている市区町村は総人口が減少する市区町村です。こうして散布図で見てみると、総人口が減少する市区町村が非常に多く、総人口が増加する市区町村は限られていることが分かります。

総人口の増減2

一方で、y軸(縦軸)で100以上の部分にプロットされている市区町村は年齢階級別の人口が増える市区町村です。

ここでは75歳以上人口の変化指数を表示していますので、y軸(縦軸)で100以上の部分にプロットされている市区町村は、75歳以上人口が増える市区町村で、100以下の部分にプロットされている市区町村は、75歳以上人口が減少する市区町村です。75歳以上人口は増える市区町村が多いことが分かります。

年齢階級別人口の増減2

さらに、特徴的な市に注目してみると、散布図の最も右上にある市区町村は愛知県長久手市(ながくてし)であることが分かります。長久手市は、総人口も大きく増加する見込みであり、さらに75歳以上の高齢者人口は2倍以上になると推計されています。医療・介護需要の面でみると、成長性が非常に高い市ということになります。

特長的な市

長久手市は歴史が好きな方であれば、小牧・長久手の戦いを思い浮かべるかもしれませんが、「医療・介護需要の成長性が日本一なんて聞いたことないよ!」と驚かれる方も多いのではないでしょうか。

しかし、長久手市はれっきとした日本一です。名古屋市のベッドタウンとして急成長しており、全国で一番住民平均年齢が若い自治体でもあります。2012年には町から市へ昇格を果たした全国的にも珍しい地域です。

一方で、散布図の最も左下にある市区町村を見てみると北海道夕張市(ゆうばりし)であることが分かります。夕張市は人口減少が激しい地域として、聞き覚えがある方も多いのではないでしょうか。今後も、総人口、75歳以上人口共に減少していくことが予測されている、非常に厳しい地域であると言えます。

このように2つの軸を使ってデータを分析する散布図は有効に使うことで、面白い示唆を私たちに与えてくれます。

BIツールでは、都道府県別の絞り込みができますので、ぜひ、各自の都道府県で調査してみてください。あなたの都道府県では、どの市区町村が最も成長が見込まれ、どの市区町村が最も厳しい環境にあるでしょうか。

まとめ


今回は、「日本一、医療・介護需要が急成長する市は、意外な○○市だった|将来推計人口を分析しよう(後編)」と題して、将来推計人口から経営のヒントを得るコツについて解説しました。

1、データから経営のヒントを得るためには、データを他のデータと比較することが必要です。全国平均の将来推計人口の変化指数と、対象地域の変化指数を比較して分析してみましょう。(経営のヒントを得るコツ1)

2、2つの軸を使ってデータを分析する散布図は有効に使うことで、面白い示唆を私たちに与えてくれます。変化指数をプロットした散布図を使って、対象都道府県内で、どの地域が成長が期待できるか調査してみましょう。(経営のヒントを得るコツ2)

3、どんなデータも2つ以上のデータと比較することで、その真価を発揮します。1つのデータをじっと見ていてもそこから得られる示唆には限界があります。積極的に、2つ以上のデータと比較してみましょう。(総論)

以上で、「将来推計人口を分析しよう」全3回は終了です!

次回は、この将来推計人口をさらに発展させて、より具体的に医療需要・介護需要を調査する方法について解説します。

今回の内容を気に入ってくださった方は、ぜひ、フォローの上、また見てみてください。

「こんなデータを調査してほしい!」「こんなBIツールを作ってほしい!」というご要望をお聞きします!ぜひ一緒にコラボさせてください。

■今回の参照データダウンロード先

国立社会保障・人口問題研究所 > 日本の地域別将来推計人口(平成30(2018)年推計) > 男女・年齢(5歳)階級別の推計結果一覧

お読みいただき、ありがとうございました!

次回もよろしくお願いします!








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