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病院の安全性を徹底解説

記事のポイント

・病院の安全性とは何かがわかる
・経営危機の水準がわかる
・安全性の分析ツールを公開

安全性とは

安全性とは、経営分析の切り口の一つです。お金を支払う能力があるかどうかを確認するための指標です。

安全性の指標が危険水準にある場合、お金の支払能力がないことを示しますので、経営破綻のリスクがあると言えます。

安全性の各指標の危険水準を覚えておくと、経営破綻に陥る前に対策を打つことができます。

指標には様々ありますが、今回は以下の指標を取り上げます。

・流動比率
・長期固定適合率
・自己資本比率
・借入金比率
・償還期間


損益計算書の見方

安全性の指標は損益計算書がもとになります。そのため、簡単に損益計算書の見方を確認しておきます。

貸借対照表はこんな感じのものです。

貸借対照表

少しわかりにくいので、図解化したものがこちらです。

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右側の項目は、「調達したお金」を示しています。返済が必要なお金は負債と言い、返済が不要なお金は純資産と言います。

左側の項目は、「お金の使い道」を示しています。資産と言います。

損益計算書を見ると、調達したお金が何の資産に変換されたのかがわかります。

1億円を借りて、1億円の建物を建てたら、

右側(負債)に1億円の借入金、左側(資産)に1億円の建物が計上されます。

項目の例を入れてみるとこんな感じです。

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少し図を解説します。

右側の「調達したお金」は、3つの種類に分かれます。

1年以内に返済が必要な「流動負債」と、1年以内の返済が不要の「固定負債」と、返済不要の純資産です。

左側の「お金の使い道」は、2つの種類に分かれます。

1年以内の現金化が可能な流動資産と、1年以内の現金化が困難の固定資産です。

右側の「調達したお金」と、左側の「お金の使い道」は常に同じ金額になります。

右側と左側が同じ金額でバランスをとっていることから、バランスシート(略してB/S)とも言われます。

では、いよいよ病院の安全性について解説していきます!

流動比率

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流動比率は、流動資産を流動負債で割ることで算出します。

流動比率の危険水準は、100%以下です。

100%以下ということは、1年以内に現金化できるお金(流動資産)よりも、1年以内に返済が必要なお金(流動負債)の方が多いということを示しています。

1年以内に返済が必要なお金を用意できていないということは、短期的な経営破綻のリスクが高くなります。

優良なのは200%以上。少なくとも150%以上が望ましいと言われています。

厚生労働省が公表している病院経営管理指標のデータをもとに、病床機能別、入院基本料別の流動比率を確認してみましょう。

病床機能別はこちらです。

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いずれの病床機能でも200%を上回っていることがわかりますね。

入院基本料別はこちらです。

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入院基本料別で見ても、100%を下回る入院基本料はありませんね。

病院経営管理指標のデータは平均値ですので、100%以下というのがいかに危ない数値であるかがわかると思います。

固定長期適合率

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固定長期適合率は、固定資産を(固定負債+純資産)で割って算出します。

固定長期適合率の危険水準は、100%以上です。

”以上”というところがポイントです。先ほどの流動比率は100%”以下”が危険水準でした。

安全性の指標は、”以上”と”以下”が紛らわしいので、間違えないようにしたいですね。

考え方として、「長期間現金化できない資産(固定資産)は、長期間返済しなくて良いお金(固定負債+純資産)で買うべき」というものがあります。

仮に、1年以内に返さなければいけない借金1億円で、建物を1億円分買ってしまったら、借金を返せなくなってしまいます。

固定長期適合率が100%以上の状況というのは、長期間現金化できない資産(固定資産)を、長期間返済しなくて良いお金(固定負債+純資産)でまかなえていない状況を示しています。

そのため、お金の返済が間に合わずに経営破綻するリスクがあります。

100%に近づくほど、危険度が高まっていく指標が固定長期適合率です。

それでは、病床機能別の固定長期適合率を見てみましょう。

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概ね70%前後の水準となっています。

入院基本料別に見てみましょう。

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高いものでも80%程度です。90%に到達している入院基本料はありません。

病院経営における固定長期適合率の安全水準は70~80%程度と考えてよさそうです。

自己資本比率

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自己資本比率は、純資産を総資本で割って算出します。

自己資本比率の危険水準は、20%以下です。

総資本というのは、資産合計のことを言います。調達したお金(流動負債+固定負債+純資産)の全額か、お金の使い道(流動資産+固定資産)の全額のことです。

資産全体の内、返済不要の純資産が何%なのかを示しています。

返済不要のお金が多いに越したことはないですよね。

自己資本比率20%以下ということは、返済不要のお金が20%にも満たないということです。

逆に言うと、資産の80%以上は返済が必要なお金(借入金等)で購入しているということです。その場合、経営破綻リスクが高まることはイメージがしやすいと思います。

病床機能別に見てみましょう。

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自己資本比率はいずれも20%を上回っています。

入院基本料別に見てみると以下の通りです。

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入院基本料別でみると、回復期リハビリテーション病床入院基本料2が11.2%で危険水準、精神病棟入院基本料13対1が▲12.5%で危険水準であることがわかります。

ただし、サンプル数を確認してみると、回復期リハビリテーション病床入院基本料2と精神病棟入院基本料は10件以下となっているため、統計的な指標としては、活用しにくいかもしれません。

あくまで参考としてください。

一方で、精神病棟入院基本料13対1では自己資本比率がマイナスの値になっているということは印象的です。この状況を債務超過といいます。

経営破綻リスクが高いことは間違いないのですが、自己資本比率がマイナスというのはどのような状況を示しているのか、考えてみても面白いと思います。

借入金比率

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借入金比率は、長期借入金を医業収益(売上)で割ることで算出します。

危険水準は、66%以上です。

借入金比率66%というのは、年間売上額の66%に相当する長期借入金をしていることを示しています。年間売上額の66%というのは売上8ヶ月分相当です。

銀行の視点に立った時に、長期間返済してもらえない長期借入金は、安全性の高い法人に貸したいものです。貸している間に、潰れてしまったら困るからです。

銀行は、借入金比率が66%を超えると、お金を貸すことをためらい始めます。銀行がお金を貸してくれないという状況は、大きな経営リスクになります。

そのため、借入金比率の危険水準は66%(月間売り上げの8ヶ月分程度)と言われています。

病床機能別に見てみると以下の通りです。

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どの病床機能でも50%以下におさまっています。特に療養型病院は借入金比率36.3%で安全度が高いと言えます。

入院基本料別にみると以下の通りです。

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精神病棟入院基本料の13対1だけが114%と、とても危険な数値になっています。

借入金比率が100%を超えるということは、年間の売上額以上に借入をしているということです。

精神病棟入院基本料の13対1は、自己資本比率でも危険な数値になっていました。

精神病棟入院基本料の13対1はサンプル数が少ないため、すべてが悪いと決めつけることはできませんが、少なくともサンプル対象となっている病院は、借入に大きく依存しており、経営破綻リスクがあると言えます。

償還期間

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償還期間は、長期借入金を(税引前当期純利益×70%)+減価償却費で割って算出します。

危険水準は、10年以上です。

償還期間になり、いきなり算出式が難しくなってしまいましたね・・・。

端的に言うと、償還期間は、借りたお金(長期借入金)を何年で返済できるかを表しています。

償還期間10年ということは、借りたお金(長期借入金)を返すのに10年かかるということです。

また銀行視点の話になりますが、銀行が長期借入金を貸す場合、長くて10年返済です。

銀行が、1,000万円を貸す場合、毎年100万円の返済を求めてくるということです。

償還期間が10年を超えている場合、銀行はお金を貸すことをためらい始めます。

既存の借入金を返済するのにいっぱいいっぱいであり、追加的な返済が難しいであろうと判断する為です。

もちろん例外や、特別な対処法もあるのですが、一般的には、借入金比率66%以上又は、償還期間10年以上というのが、銀行がお金を貸してくれなくなる水準と覚えておくと良いかと思います。

難しい算出式の部分((税引前当期純利益×70%)+減価償却費)については詳しく説明しようと思うと、数千文字かかってしまう為、今回は割愛します。

以下のブログで詳しく紹介してくれていましたので、興味のある方はご参考ください。

では、病床機能別に償還期間をみてみましょう。

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概ね7~8年以下におさまっていますね。病院における償還期間は7~8年以下がひとつの目安と言えそうです。

入院基本料別でも見てみましょう。

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バラバラな印象がありますが、概ね8年以内にはおさまっていますね。

分析ツールの使い方

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簡単に病院の安全性を確認できる分析ツールを公開しました。

こちらです。

分析ツールでは今回紹介した、病床機能別、入院基本料別の安全性はもちろん、今回紹介しなかった病床規模別の安全性も確認できます。

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また、安全性は単一の指標で見るよりも複数の指標を総合的に見て評価することも重要ですので、一覧表示もできるようにしています。

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よろしければ使ってみてください。

おわりに

今回は、「病院の安全性を徹底解説」というテーマで以下の事を説明しました。

・病院の安全性とは何か
・経営危機の水準
・安全性の分析ツールの使い方

今回の指標は厚生労働省が公表している病院経営管理指標をもとに作成しています。

データが古く平成29年度のものなのですが、まもなく平成30年度が出来上がるはずだと思いますので、また平成30年度がでましたらアップデートしていきたいと思います。

他にも、「病院経営のキホン」として以下の記事を書いています。

1 医業経営のための調査資料6選|経営分析のキホン

2 病院の損益計算書(P/L)を分析|経営分析のキホン

3 病院の機能性を徹底解説|経営分析のキホン

よろしければ合わせて、ご参考ください。

今回の記事を含めて、「病院・介護施設の市場調査ができるようになるnote」シリーズでは、病院・介護施設の市場調査の方法を紹介しています。

取り上げる調査項目は以下の7つです。

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今回の記事は、項目6の「基準指標」になります。

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