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医業経営のための調査資料6選|経営分析のキホン

今回の記事のポイント

・医業経営分析とは何かを説明
・参考となる調査資料6選を紹介

今回は、「医業経営分析のキホン」として、参考となる調査資料を紹介します。

医業経営分析とは

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医業経営分析とは、病院・診療所の経営状況を分析することです。

例えば以下のような指標が適切な状態にあるのかを判断していきます。

・医業利益率
・人件費率
・借入金比率
・患者1人1日当たり収益
・病床利用率
・平均在院日数
など

分析の際に大事になるのは、比較するためのデータです。

例えば、急性期一般1の入院基本料を算定している病院で、事業利益率が2%だった場合、経営状況は良いと言えるでしょうか。

・・・これだけではなんとも言えませんよね。

でも、「急性期一般1の入院基本料を算定している病院では、一般的に事業利益率は0.1%である。」というデータを知っていれば、事業利益率2%は、とても良い数字であることがわかります。

経営状況を分析する際には、自院の数字だけを見ていても良し悪しの判断ができません。比較するためのデータがあってこそ、良し悪しの判断ができます。

一般の企業と違って、診療報酬という一定のルールに基づいて事業をしている病院・診療所にとってはよりその傾向が強くなります。

同じ事業利益率2%でも、病床機能や診療科によってその意味は変わってくるためです。

これから複数回に分けて、「医業経営分析のキホン」を紹介していこうと思うのですが、今回は第1回として、比較するためのデータとなる調査資料を紹介していきます。

医業経営分析の参考となる調査資料一覧

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医業経営分析の参考となる主な調査資料を6つピックアップしました。

オープンデータで誰でも閲覧でき、信頼できる発行元であるものを選びました。

それでも6つもあると多いですよね。いろいろなデータがある為、どれを使えばいいのか迷ってしまいます。

先に結論をお伝えしておくと、

まずは厚労省が公表している「1医療経済実態調査」と「2病院経営管理指標」を参考にしてください。

不足する情報を他で補うという考え方が良いと思います。

それでは、各調査資料について、特徴を紹介していきます。


1 医療経済実態調査|厚生労働省

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医療経済実態調査は、厚労省の管轄である中央社会保険医療協議会(中医協)が調査し、公表している資料です。

基本情報はこちらです。

【調査名】 医療経済実態調査
【発行元】 厚生労働省
【対象】  全国の病院、診療所、保険薬局
【調査期間】2年に1回
【直近のサンプル数】
   病院・・・・・1,429件
   一般診療所・・1,704件
   歯科診療所・・625件
   調剤薬局・・・1,038件

医療経済実態調査の一番の特徴は、診療報酬改定の基礎資料にするために調査されているということです。

そのため診療報酬改定の頻度と同じく、2年に1回の調査となっています。

医療経済実態調査で示されている事業利益率や人件費率が診療報酬改定の前提になっているからこそ、医療経済実態調査は、他の資料のデータよりも重要な比較データになります。

ちょっとだけ資料の中身を見てみましょう。

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このように入院基本料別に医業収益や医業費用のデータが一覧化されています。損益計算書(PL)に該当する情報が確認できます。

医療経済実態調査で確認できる情報をまとめると以下の通りです。

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良い点は、入院基本料別のデータが見れること、診療科別のデータが見れることです。

残念な点は、貸借対照表(BS)の指標や、機能指標は確認できないことです。例えば、借入金比率(BS指標)や、病床利用率(機能指標)は確認ができません。

医療経済実態調査については、日医総研が分析レポートを出してくれています。(日医総研ワーキングペーパー)医療経済実態調査と合わせて確認することで指標への理解が深まります。


2 病院経営管理指標|厚生労働省

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病院経営管理指標は、厚生労働省が調査し、公表している資料です。

基本情報はこちらです。

【調査名】 病院経営管理指標
【発行元】 厚生労働省
【対象】  全国の病院
【調査期間】毎年調査(公表まで1年以上必要)
【直近のサンプル数】
   病院・・・・・737件

病院経営管理指標の一番の特徴は、貸借対照表(BS)の指標も見ることができるということです。

1で紹介した、医療経済実態調査では、貸借対照表(BS)の指標は確認ができませんでした。

医業収益や費用に関するデータは公表資料が多いのですが、貸借対照表(BS)のデータは確認できるものがあまり多くありません。

ちょっとだけ資料の中身を見てみましょう。

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収益性の指標だけでなく、安全性の指標(BSの指標)や、機能性の指標も確認することができます。

病院経営管理指標で確認できる情報をまとめると以下の通りです。

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良い点は、BS指標や機能性指標など幅広い情報を見ることができることです。

残念な点は、診療所には対応しておらず診療科別では確認できないところです。あくまで病院の経営管理指標という位置づけです。

また、「公表が遅い」「サンプル数が少ない」というのも残念なところです。

公表が遅いことについてですが、

2020年4月現在で最新版は、2018年3月期のデータです。約2年前のデータが最新データになります。

2020年4月に診療報酬改定が行われていますが、1つ前の改定情報である2018年4月以降のデータがまだないということは、2年ごとに診療報酬改定が行われる中では、とても残念です。

サンプル数が少ないことについてですが、依頼は全国の病院にしているものの回答数が10%程度と少ない状況にあるようです。

BSのデータを取得するため、データ提供する病院側としてはハードルが高いのかもしれません。(なんとか多くの病院に協力いただきたいです・・・)

診療科別や、入院基本料別など細かく区切った指標だと、サンプル数が10件以下のものもあります。サンプル数が少ない場合、データの誤差も大きくなりますので注意が必要です。利用する際には、各データのサンプル数もご確認ください。

非常に有用な資料だからこそ、「公表が遅い」「サンプル数が少ない」という残念なが解消されて欲しいものです・・・。


3 経営分析参考指標|福祉医療機構

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経営分析参考指標は、福祉医療機構(WAM)が調査している資料です。

基本情報はこちらです。

【調査名】 経営分析参考指標
【発行元】 独立行政法人福祉医療機構(WAM)
【対象】  福祉医療機構で、貸付を行っている病院
【調査期間】毎年調査
【直近のサンプル数】
   病院・・・・・1,372件

経営分析参考指標の一番の特徴は、お金を貸し付けている福祉医療機構が公表しているということです。

福祉医療機構がお金を貸し付けている病院を対象にした調査である為、データに偏りがあることは注意しておく必要があります。

一方、福祉医療機構だからこそ、独自の分析レポートも出してくれています。

ちょっとだけ分析レポートの中身を見てみましょう。

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経年変化なども見ながら分析してくれていますので、報酬改定前後の様子もチェックできます。

経営分析参考指標で確認できる情報をまとめると以下の通りです。

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良い点は、機能指標を示したうえで、赤字・黒字別の分析をしてくれているところです。合わせて公開してくれている分析レポートとセットで有用な情報になると思います。

残念な点は、BSの情報を一般には開示してくれていないことです。

貸し付けを行う以上BSの情報もあると思いますので、BS情報も開示していただけたらさらに利用しやすいデータになると思います。

ただ、3,300円というお安いお値段で、有料版もあります。こちらにはもしかするとBSの情報もあるかもしれません。(私は買ったことがありません・・・。詳しい方がいれば、ぜひどのような情報が載っているか教えてください。)


4 病院運営実態分析調査|全国公私病院連盟

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病院運営実態分析調査は、全国公私病院連盟が調査している資料です。

基本情報はこちらです。

【調査名】 病院運営実態分析調査
【発行元】 全国公私病院連盟
【対象】  主に全国公私病院連盟に加盟している病院
【調査期間】毎年調査 ※6月の経営実績を調査
【直近のサンプル数】
   病院・・・・・836件

病院運営実態分析調査の一番の特徴は、6月1か月の経営実績の調査ということです。

他の調査資料では1年間の経営実績を調査していますが、病院運営実態分析調査はあくまでも、ある年の6月1か月の経営実績の調査になります。

ちょっとだけ資料の中身を見てみましょう。

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病院運営実態分析調査は、単に表があるだけでなく、解説を加えながらまとめてくれています。

病院運営実態分析調査で確認できる情報をまとめると以下の通りです。

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良い点は、PL指標や機能指標において、他では取り扱っていない細かな数値も公表してくれていることです。

例えば、100床当たり延床面積を病棟、外来部門、通央診療部門、管理・サービス部門に分けて公表してくれていたりします。かなりマニアックな情報ですね。

残念な点は、入院基本料別のデータがないこと。また、細かな参考数値は取り扱っているものの網羅的な情報という意味ではやや不足感があることです。

他の経営指標をベースに使いながら、どうしても欲しい情報が見つからないときに病院運営実態分析調査を覗いてみると、欲しい情報が見つかるかもしれません。

病院運営実態分析調査にも有料版があります。12,000~18,000円程度します。ややお高いですね。こちらは見たことがあるのですが、かなり詳細に網羅的なデータが載っていました。

あくまで有料版がメインの調査資料といえるかもしれません。

5 病院経営調査報告|医療法人協会3団体合同

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病院経営調査報告は、医療法人協会3団体(日本病院会、全日本病院協会、日本医療法人協会)が合同で調査している資料です。

基本情報はこちらです。

【調査名】 病院経営調査報告
【発行元】 医療法人協会3 団体合同
【対象】  医療法人協会3 団体に加盟する病院
【調査期間】毎年調査
【直近のサンプル数】
   病院・・・・・1,654件

病院経営調査報告の一番の特徴は、病院のサンプル数が最も多い調査ということです。

病院経営調査報告の病院のサンプル数は1,654件です。厚労省が行う「1 医療経済実態調査」でも病院のサンプル数は1,429件ですので、厚労省の調査資料よりも多くのサンプル数があることになります。

ちょっとだけ資料の中身を見てみましょう。

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グラフなども使いながら、調査結果を解説してくれています。読み物として、分析結果を見たい人にとっては良いのではないでしょうか。

病院経営調査報告で確認できる情報をまとめると以下の通りです。

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良い点は、入院基本料別のデータも公表してくれていることです。

「1 医療経済実態調査」でも入院基本料別のデータを公表しているのですが、診療科によってはサンプル数が少なくデータの信憑性が怪しいものがあります。

 そんな時、病院経営調査報告のデータも合わせて確認することで、数字として信頼していいのかどうかの一つの目安になります。

残念な点は、データがグラフ化されてしまっていることです。見やすさという意味ではグラフ化されているのは良いのですが、私のように分析したい人からすると、数字を一覧で欲しいなと思ってしまいます・・・。


6 TKC医業経営指標|日医総研&TKC全国会

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TKC医業経営指標は、TKC全国会が調査している資料ですが、TKC全国会からはオープンデータとしては公表されていません。

日本医師会総合政策研究機構(日医総研)が分析レポートを公表してくれており、その中で確認することができます。

基本情報はこちらです。

【調査名】 TKC医業経営指標
【発行元】 日医総研(資料提供:TKC全国会 )
【対象】  2年以上事業を継続している医療機関
【調査期間】毎年調査
【直近のサンプル数】
   病院・・・・・831件
   一般診療所・・8,470件
   歯科診療所・・4,207件

TKC医業経営指標の一番の特徴は、診療所のサンプル数が多いということです。

TKCさんが税理士グループであり、多くの診療所クライアントを有するからこそ、診療所に強い資料という印象です。

ちょっとだけ資料の中身を見てみましょう。

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診療所の診療科ごとにこのように細かい指標が出せるのは、TKC医業経営指標ならではです。

TKC医業経営指標で確認できる情報をまとめると以下の通りです。

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良い点は、診療科別にPL指標や機能指標を確認できることです。

残念な点は、他の資料に比べて病院の分析はしにくいことです。入院基本料別など、診療所よりも病院で有効となる指標については弱い印象です。


おわりに

今回は、「医業経営のための調査資料6選|経営分析のキホン」として以下のことを紹介しました。

・医業経営分析とは何かを説明
・参考となる調査資料6選を紹介

改めて、6つも資料があると、どれを使えばいいのか迷ってしまいますね。

繰り返しになりますが、

まずは厚労省が公表している「1医療経済実態調査」と「2病院経営管理指標」を参考にしてください。

不足する情報を他で補うという考え方が良いと思います。

各資料で確認できる主な情報の一覧はこちらです。

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「医業経営分析のキホン」は、何回かに分けて解説していきたいと思いますので、今後ともよろしくお願いします。

今回の記事を含めて、「病院・介護施設の市場調査ができるようになるnote」シリーズでは、病院・介護施設の市場調査の方法を紹介しています。

取り上げる調査項目は以下の7つです。

調査項目リスト

今回の記事は、項目6の「基準指標」になります。

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