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介護保険事業計画を簡単・わかりやすく説明|見るべきは3項目!

この記事のポイント

1 介護保険事業計画とは何かがわかる。
2 介護保険事業計画の読み方がわかる。(見るべきは3項目!)
3 介護保険事業計画を読んだ方が良い理由がわかる。

介護保険事業計画を簡単・わかりやすく説明

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介護保険事業計画とは、定義通りに言うと、

介護保険の保険給付を円滑に実施するための計画

です。

・・・ちょっとわかりにくいですね。

簡単に、わかりやすく言うと、

介護保険事業計画とは、

市区町村が、次の3つのことを書いた計画書です。

① 地域の現状
② どんな介護サービスを、どれだけ提供するか
③ 介護サービスを充実させるための取り組みと、目標

3つのことを定めたうえで、市町村としては、予算を決定したり、介護保険料を決定したりします。

介護保険事業計画は、「介護保険法」という法律によって、作成することが義務づけられています。市町村が主体となって作成します。

3年ごとに、3年を1期とする計画が作成されます。

最新の計画は、第7期計画(2018~2020年)です。第8期計画(2021~2023年)はまさに現在作成中です。

もっと本格的に知りたい方は、介護保険法の原文を読むことをおすすめします。

厚生労働省の資料だと、わかりやすいようで、難しい書き方なので・・・。

▼介護保険法の原文(第7章が介護保険事業計画です)

市町村の介護保険事業計画を読んでみよう

介護保険事業計画は、市町村のホームページで読むことができます。

・・・と言っても、ホームページから探すのは大変なので、「●●市 介護保険事業計画」と検索したほうが早く見つけることができます。

介護保険事業計画検索

市町村ごとに、独自の計画名を付けていますので注意が必要です。名前は違うけど、介護保険事業計画っぽいかなと思ったら、クリックしてみてください。

札幌市の場合は、「札幌市高齢者支援計画2018」という名前にしています。表紙はこんな感じです。

高齢者支援計画

高齢者保健福祉計画(老人福祉計画)とは

介護保険事業計画の説明に入る前に、少しだけ高齢者保健福祉計画(老人福祉計画と呼ばれることもあります)についても説明しておきます。

介護保険事業計画を調べていると、並列して高齢者保健福祉計画という計画名も出てきます。

介護保険事業計画 並列で記載

高齢者保健福祉計画は、「老人福祉法」で作成することが義務付けられた計画です。

・・・わかりにくいですが、介護保険福祉計画とは違う法律で、作成が義務付けられている計画です。

趣旨は介護保険事業計画とほぼ同じで、高齢者の生活において必要な介護サービスの量や目標を定めたものです。

介護保険事業計画は、”介護保険”と書いてある通り、介護保険の対象者を前提としています。一方で、高齢者保健福祉計画は、”高齢者”と書いてある通り、高齢者を前提としています。

法律上、別々に定義されていることから、別々の名称がついていますが、書くべきことは、介護保険事業計画も高齢者保健福祉計画も同じですので、計画も一つにまとめています。

実務上は特に別々に認識する必要はなく、同じものと考えて問題ありません。説明上は、介護保険事業計画という名称を使って説明していきます。

介護保険事業計画を読むときは、この3項目に注目しよう。

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介護保険事業計画は、厚生労働大臣から示される基本方針に従って作ります。そのため、どの市町村でも記載内容はだいたい同じです。

札幌市の介護保険事業計画の目次を確認してみましょう。

表紙・はじめに・目次
第1章 策定にあたって
第2章 高齢者の現状と課題
第3章 高齢者の社会参加支援に関する基本方針
第4章 前計画の評価
第5章 基本目標
第6章 施策の体系と展開
第7章 介護サービスの見込み等
第8章 事業費の見込みと保険料
第9章 計画の策定・推進体制

札幌市の介護保険事業計画は、第1章から第9章まであり、総ページ数は200ページ以上になります。

そのため、いきなり全ページを読もうと思うと大変です。介護保険事業計画を読むことに慣れていない方であれば、まずは以下の3項目に注目してみましょう。

① 地域の現状
② 利用者数の見込み
③ 取り組むべき施策・目標

少しずつ慣れてくると、他のページにも興味が出てきますので、慣れてきたら他の項目も読んでみてください。

「地域の現状」から、”需要”を知ろう

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まずは「地域の現状」から確認してみましょう。

引き続き、札幌市の介護保険事業計画を例にして説明していきます。

札幌市の介護保険事業計画では、第2章に「高齢者の現状と課題」という名前で「地域の現状」が記載されています。

第2章 高齢者の現状と課題
 第1節 高齢者人口・世帯等の状況
 第2節 介護サービスの利用状況
 第3節 地域での高齢者の生活と支援体制
 第4節 家族介護者や介護サービス事業者、生活環境の状況
 第5節 認知症高齢者の状況
 第6節 要介護等認定者の状況と高齢者の活動状況
 第7節 高齢者の社会参加と意識の変化
 第8節 介護保険制度の現状と課題

地域の現状に関する項目だけでも、たくさんのことが書かれていますね。

ただ、グラフや表も多いですので、文章量でみるとさほどでもありません。

地域の現状では、市町村が行った市場調査の結果が網羅的に掲載されています。

あなたの事業に全く関係のない市場調査の結果は読み飛ばしてしまって構いません。関係のある部分だけ読んでいけば十分です。

抜粋して、第8節に掲載されている内容をご紹介します。

札幌市の人口と高齢化率

札幌市の人口と高齢化率の将来見通しのグラフです。

グラフを見ると、札幌市の総人口は2015年の1,937千人をピークに減少していくことがわかります。

一方で、高齢化率は2035年まで一貫して上昇し、35.1%まで進捗していくだろうことがわかります。

札幌市では、総人口減少はしていくものの、高齢者が増え続ける為、介護サービスの市場は拡大していくと考えられます。

より直接的に需要の増加を確認できるのが、要介護等認定者数の推移と見込みのグラフです。同じく第8節に掲載されています。

要介護認定者推移

介護保険で介護サービスを受ける為には、要介護等認定が必要です。

グラフを見ると要介護等認定者数は、2016年の101,026人から、2025年には137,246人に増える見込みであることがわかります。伸び率を計算すると約35%の増加となります。

単純計算になりますが、何らかの介護サービスを提供している場合、2016年と比べて、2025年には約35%利用者数が増加する見込みがあると言えます。

このように「地域の現状」からは、その地域に介護サービスの需要がどれだけあるのかを確認することができます。

「利用者数の見込み」から、”適正値”を知ろう

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続いて、「利用者数の見込み」を確認してみましょう。札幌市の介護保険事業計画では第7章に記載があります。

第7章 介護サービスの見込み等
 第1節 被保険者と要介護等認定者の現状と見込み
 第2節 介護サービス全体の現状と見込み
 第3節 居宅サービス・介護予防サービスの現状と見込み
 第4節 施設・居住系サービスの現状と見込み
 第5節 地域密着型サービスの現状と見込み
 第6節 主な介護保険施設等の整備目標
 第7節 地域支援事業の現状と見込み

各種介護サービスの利用者数の現状と見込みが掲載されています。

まずは、第2節にある介護サービス全体の見込みを確認してみます。

介護サービス利用者数

介護サービス全体の見込みでは、細かい事業区分ではなく、在宅サービスや、施設・居住系サービスといった大きなくくりでの利用者数の見込みが確認できます。

利用者数の見込みを見る場合、その伸び率に注目してみましょう。

伸び率を見てみると、2025年までに要介護等認定者数は約16%増加し、結果として、介護サービス利用者数は約22%増加する見込みであることがわかります。

介護サービスの中では、在宅サービスが約26%増加する見込みであり、施設・居住系サービスは約8%の増加見込みとなっています。

施設・居住系サービスに比べて、在宅サービスの方が、利用者数の伸び率が大きいことが特徴的です。

在宅サービスを伸ばしていくのは国の方向性でもあります。市町村も方向性を合わせて、計画を立てているのでしょう。

いずれにせよ、市場としては、施設・居住系よりも、在宅サービスの方が伸びていくことがわかります。

続いて、具体的な介護サービスごとの利用者数の見込みを確認してみましょう。あなたが何らかの介護サービスを提供しているのであれば、最低限、確認しておきたい情報になります。

居宅サービスの利用者数

施設系のサービスについては、利用者数の見込みだけでなく、整備目標も掲載されています。

整備目標

施設系のサービスは、施設がなければ利用しようがありません。そのため、利用者数の増加に合わせて、施設の整備を検討します。

札幌市の例では、介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)を3年間で800人分増やすことを目標にしています。

施設系のサービスは開設するために、地方自治体の認可が必要となります。計画に載っていない施設の開設は基本的にはできません。

施設の開設を検討している場合、その施設の整備目標が、介護保険事業計画に記載されているか確認しておきましょう。

もし、開設したい施設の整備目標が設定されていなかった場合、市町村の担当部署に早期に相談することをおすすめします。事前に相談することで、次回の介護保険事業計画に組み込んでくれることがあります。

取り組むべき施策・目標」から、”求められていること”を知ろう

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最後に、「取り組むべき施策・目標」を確認してみましょう。

札幌市の場合、第6章に記載があります。

第6章 施策の体系と展開
 第1節 施策の体系
 第2節 施策の展開
      施策1 地域における連携強化
      施策2 サービスの充実と暮らしの基盤の整備
      施策3 認知症高齢者支援の充実
      施策4 介護予防・健康づくりの推進
      施策5 積極的な社会参加の促進
      施策6 安定した介護保険制度の運営

6つのジャンルに分けて、取り組むべき施策をまとめています。

具体例として、「施策3 認知症高齢者支援の充実」を取り上げます。

施策

このように「取り組むべき施策」では、具体的に市町村として何をするのかを記載しています。

例えば、施策3の一番最後に記載されている「介護保険施設等解説準備経費補助事業(再掲)」を見てみると、特別養護老人ホームや認知症高齢者グループホーム、(看護)小規模多機能型居宅介護の新設や増床に対しては補助を出すことが記載されています。

この取り組みによって市町村として得たい成果は、目標という形で数値化されています。

目標

取り組むべき施策・目標を見ることで、その地域に”求められていること”を知ることができます。

介護保険事業計画を読んで、地域に求められる介護を提供する。

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どんな業態でも同じかもしれませんが、サービスを提供する以上、相手に求められる、必要とされるサービスを提供していく必要があります。

特に、介護は地域のインフラでもあります。地域に求められる介護を知り、地域に求められる介護を提供していく必要があります。

しかし、

地域に求められる介護ってなに?

と思われる方も多いのではないでしょうか。

そんなとき、一つの指針となるのが、介護保険事業計画です。

介護保険事業計画を読み、地域から求められていることを知り、地域の現状に合わせた事業運営を行っていくことで、市町村からの支援を受けつつ、地域に貢献していくことができます。

そのきっかけに介護保険事業計画を活用ください。

おわりに

今回は、「介護保険事業計画を簡単・わかりやすく説明|見るべきは3項目!」と題して、以下のことを説明しました。

1 介護保険事業計画は、市町村が作る介護サービスに関する計画書。
2 介護保険事業計画は、3項目に注目して読もう。
3 介護保険事業計画は、地域に求められる介護をするために読もう。

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