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あなたの地域の介護サービス利用者数を予測しよう(基本編)

はじめに

「病院・介護施設のはじめての外部環境分析」と題して、病院・介護施設の外部環境分析の方法について解説しています。(毎週火曜日に更新)

これから医療介護経営に関わる方、はじめての外部環境分析に挑戦したい方に向けて、出来るだけ分かりやすく解説していきます。

今回は、「あなたの地域の介護サービス利用者数を予測しよう(基本編)」と題して、各介護サービス事業の利用者を予測する方法について解説していきます。

今回の記事は以下のような方をイメージして書いています。

・介護施設の経営戦略に関わる方

・建て替え等の中長期的な大規模投資を検討する方

・介護施設を譲渡する、又は譲受する方

・介護施設の資金調達、又は介護施設への資金融資をする方

かなりマニアックな層に向けですが、伝えたい方に伝わることを目指して書いていきます(笑)

2つの方法でカンタンに利用者数を推計できます

今回は基礎編ということで、最もオーソドックスな利用者数の推計方法を2つご紹介します。非常にカンタンで実用性があります。

1つめは、各市町村・特別区が作成している「介護保険事業計画」を確認する方法です。

介護保険事業計画は、各市町村・特別区が策定する介護保険事業に関する計画です。3年ごとに、3年を1期として計画を策定します。介護保険事業計画で、介護保険料や、介護事業の整備計画等が設定されますので、介護事業者にとっては非常に重要な計画になります。

最新版は、第7期介護保険事業計画(2018~2020年度)で、2020年1月現在は、第8期介護保険事業計画を作成中です。

介護保険事業計画

2つめは、日本医師会が運営する地域医療情報システム(JMAP)で医療介護需要予測指数を確認する方法です。

JMAPは、医師会メンバーが、各地域の将来の医療や介護の提供体制について検討を行うツールとして運営されています。医師会メンバーだけでなく、一般に開放されているところが非常にありがたいですね。

画像2

介護保険事業計画で介護サービスの利用者推計を確認する方法

ではまず、介護保険事業計画で介護サービスの利用者推計を確認する方法をご紹介します。

① 介護保険事業計画を探す

介護保険事業計画は、各市町村・特別区が作成していますので各市町村・特別区のホームページにアクセスして探す必要があります。

しかし、各市町村・特別区のホームページは、決して分かりやすい作りをしているわけではありませんので、自力で探すよりも検索サイトで「●●市 介護保険事業計画」と検索して探す方が効率的です。

介護保険事業計画を検索

介護保険事業計画のページにアクセスすると、詳細版と概要版の2種類が掲載されています。(詳細版については容量が大きいため、分割して掲載されていることもあります。)

さいたま市介護保険事業計画

詳細版をダウンロードして確認します。

② 事業量の見込みを確認する

介護保険事業計画の詳細版をダウンロードしたら、目次から「事業量の見込み」のページを確認します。

介護保険事業計画目次

対象のページを見ていくと、各サービスごとの利用者数の見込みが確認できます。

サービス事業量の見込み

計画期間3年分と2025年の利用者数の見込みが確認できました。

現在は、第7期介護保険事業計画の最終年にあたります。少し先になりますが、2021年3月頃には第8期介護保険事業計画が公表される予定です。第8期介護保険事業計画では、2021年~2024年の推計が示されます。

特定の施設の利用者数を推計したい場合、介護保険事業計画で示されている利用者数を、対象市町村内の事業所数で割ることで、1施設あたりの平均利用者数を計算することができます。平均利用者数と比較してみることで、順調な利用者確保ができているのかどうかの目安を知ることができます。

補足)介護保険事業計画の注意点

介護保険事業計画の利用者数の推計を見るうえで注意しなければいけないことは、利用者数の上限が設定されているということです。

利用者数の推計を行うフローを見てください。

利用者数推計のフロー

赤い枠で囲んだフローで、施設・居住系の整備見込みを行います。整備見込みとは、施設をどれだけ作るか(利用定員をどれだけ増やすか)の計画です。施設・居住系の整備見込みを行ったうえで、利用者数の推計を行いますので、利用定員数が、推計利用者数の上限となります。

実際の整備計画を見てみるとイメージが付きやすいかもしれません。

介護保険施設等の整備料

例えば、介護老人福祉施設を見てみると、2018年~2020年にかけて毎年1施設100床ずつ増やしていく計画としています。そして、2020年度末時点では、埼玉県内に73施設6917床ある状態にしていくことが示されています。

整備計画を立てると、各年度の上限定員数が決まります。2018年から順に、6717人、6817人、6917人となります。

人口動態から、上限定員数を上回る利用者が見込まれる場合、それ以上は受け入れられないものとして、介護保険事業計画上は上限定員数が記載されます。

介護施設が不足している地域においては、本来の介護需要よりも、利用者数が低めに記載されますので、その点を考慮してデータを利用する必要があります。

地域医療情報システム(JMAP)で介護需要を確認する方法

続いて、地域医療情報システム(JMAP)で介護サービスの需要を確認する方法をご紹介します。こちらでは推計の人数まではわかりませんが、成長市場にあるのか、衰退市場にあるのかを確認することができます。

① 地域医療情報システム(JMAP)で対象地域のデータを確認する

JMAPにアクセスすると、トップページで日本地図が表示されます。対象の都道府県を選択すると、都道府県のデータを確認するページに遷移します。

地図から指定

さらに地域を絞り込みたい場合は、関連地域の中から対象となる医療圏を選択します。

関連地域

医療圏を選択すると、続いて関連地域の中に市町村の一覧が表示されますので、市町村名をクリックすると、対象地域のデータを確認することができます。

② 介護需要予測指数を確認する。

対象地域のページでは、例えば、「将来推計人口」「医療介護従事者数」「75歳1千人あたり施設数」等、医療・介護に関わる様々なデータを確認することができます。

この中で今回確認したいデータは「医療介護需要予測指数」になります。

医療介護需要予測指数

医療介護需要予測指数のグラフは、2015年実績を100とした場合に、将来どの程度需要が増える(又は、減る)のかを示したグラフになります。赤い色の濃いグラフが選択している対象地域のグラフになります。赤い色の薄いグラフが全国平均のグラフになります。

さいたま医療圏においては、全国平均を大きく上回る介護需要が見込まれることが分かります。2015年と比べると、2045年には181%(1.8倍)になる推計となっていますので、かなりの成長が期待できる市場であることがわかります。

補足)医療介護需要予測指数の注意点

JMAPの医療介護需要予測指数はカンタンに確認することができるため、医療介護経営に関わる多くの方が利用していますが、データ自体はあくまでも概算になりますので、その点は注意が必要です。

具体的には、以下の流れで介護需要を指数化しています。

① 各地域の「40~64歳」、「65~74歳」、「75歳~」それぞれの将来推計人口を利用する。(将来推計人口は、国立社会保障・人口問題研究所のデータ(2018年ベース)を利用)

② 介護費の支給実績(2011年ベース)をもとにした各年代の倍率を設定する。(具体的には、「40~64歳 = 1倍」、「65~74歳 =9.7倍」、「75歳~ = 87.3倍」)

③ 2015年の人口(①)に年代別倍率(②)を掛けた数値を基準(=100)として、将来の需要を数値化する。

つまり、介護費がデータもとであり、利用人数のことではありません。また、2011年ベースの介護費の支給実績を参考にしておりやや古い推計になっています。

そのため、絶対視しすぎることは禁物です。データの注意点も理解したうえで、ぜひ活用してみてください。

終わりに

ここまでお読みいただき、ありがとうございました!

今回は、「あなたの地域の介護サービス利用者数を予測しよう(基本編)」として、介護サービス利用者数を予測する方法について解説しました。

今回の予測方法はカンタンにできるメリットがありますが、注意点に記載した通り、難点もあります。次回は、応用編として、今回の難点をクリアする推計方法をご紹介します。次回もどうぞ宜しくお願いします!

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