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ドラッカー教授の授業とカリフォルニア州ロサンゼルス近郊クレアモントでの生活

企業派遣で海外留学が決まった私は、いわゆるトップ10のビジネススクールに入ることはできず、勉強できること、それを教える教授、そして場所で学校を選んだ。カリフォルニア州ロサンゼルス近郊にあるクレアモント大学院のピータードラッカービジネススクールだ。

クレアモントの街は大学を中心とした閑静な田舎町といった風情だが、ロサンゼルスのダウンタウンまで車で40分くらいなので、ダウンタウンまで通勤している人たちもたくさんいる。大学がかなりの面積を占めてはいるが、ビレッジと呼ばれるレストランや様々なお店が集まった場所、クレアモントクラブという大きなテニスクラブなど、勉強が大変な中でも楽しく生活ができそうな町だった。何よりもピーター・ドラッカー教授が最後に最愛の妻であるドリス・ドラッカーさんと生活する場所として選んだ町であることにも魅かれた。今は私は南の方のオレンジカウンティに住んでいるが、将来はまたクレアモントに住みたいと思っている。授業は9月からだったが、私は準備のために少し前にクレアモント入りした。最初は今はDouble Tree Hotelに変わっているClaremont Innというホテル(モーテル)にしばらくお世話になることになった。

9月から始まった最初のオリエンテーションでいきなり他の生徒から洗礼を受けた。クラスの皆が自己紹介をして、自分の仕事の経歴を話すと、それに対して皆がいろいろと質問をし早速議論が始まった。まだまだ英語で議論などままならない我々留学生は、すっかり気後れして議論に加わることができなかった。すると、あるアメリカ人の学生から、「黙ってばかりいる連中は一体何なんだ?何をしにアメリカまで来たんだ?」と言われた。さすがに頭に来て、議論に参加しようと発言をした。大したことは言えなかったので、またバカにされるのだろうと思っていたが、そのアメリカ人の学生は一生懸命聞いてくれて、議論の輪に何とか入ることができた。そこで分かったのは、黙っていたらダメなんだ、ということ。黙っているというのは、何も考えがないのと一緒だ。良く聞いてみると、他の学生も大したことは言っていないのだった。ただ英語だから圧倒されていただけだということに気付いた私はそれからは、こんなこと言ったら笑われるだろうと思うようなことでも思い付いたら何でも言うことにした。そこから議論は始まるのだった。その後も授業だけでなく、いろいろな局面で「Say something!(何か言いなさい!)」と言われることがあった。日本では黙っていてもそんなことは言われず、つまらない発言や質問をする人がバカにされる傾向があったが、それはアメリカでは全く逆だった。黙っているということは、何の知識も考えもないということになってしまう。何でも言った方がいいのか、、、私は逆に一気に気が楽になった。

ドラッカー教授の授業だが、一年目は単位取得になる正式な授業ではなかったが、聴講だけできた。もちろん聴講した。ドラッカー教授の授業で最初から気になったのは、教授の長い指だ。その長い指を宙に浮かせて(いつもETを想像してしまう)、必ず授業の度に生徒に同じ質問をする。

Who is your customer?

最初は何でこんな当たり前のことを聞いてくるのだろうと不思議に思った。聞かれた時に自分がいた会社は、エネルギー供給会社だったので、エネルギーを使う人は皆お客様だというようなことを言った。「お客様はそれだけか?あなたにとっては、会社の中で他の社員のために働いている管理部門やマーケティング部門の社員もお客様のはずだ。」というようなことを言われた。確かにそうだ。しかし、本当にドラッカー教授が聞きたかったのはその先だった。

What are your results?  What is your mission?  What is your plan?

矢継ぎ早に質問された。答えられなかった。何をどのような計画を立てて実施したかということは言えたが、曖昧な返事になってしまった。お客様に対して、徹底的に考え、とことん尽くしているのか? 改めて考えると、効率的に仕事をしようとか、収益のこと、社内の評価といったことばかりを先に考えていて、お客様のことをとことん考えて尽くしてきたかと言われると、正直そうではないと思い、考えさせられた。顧客第一と看板を掲げることは簡単だが、実際にそれが実践できている会社は少ない。私の仕事のやり方の基本はこのドラッカー教授の質問から変わっていった。









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