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ボストンのベンチャーキャピタルへ

最初に就職したエネルギー系の会社で新規事業を担当することになった私は、事業のネタ探しのために投資したボストンにあるベンチャーキャピタルに1人で駐在することになった。ある夏の日にボストンに到着した日のことは良く覚えている。私よりも一回り近く上の先輩である前任者がランチに誘ってくれた。海沿いのテラス席で、ボストン名物のクラムチャウダー、ロブスターをご馳走になった。その先輩は、システム系出身で技術にも詳しく、トップ10のMIT(Massachusetts Institute of Technology)でMBAを取得している優秀な方だった。既にいくつもの案件を日本に紹介して頂いていて、エネルギー系のスタートアップは実際に事業開発をスタートしていた。

早速翌日にそのベンチャーキャピタルの投資委員会に呼び出された。アメリカ人だけのミーティングに参加するのは久しぶりで、また「Say something!(何黙ってんだ?)」と突っ込まれる(アメリカでの授業やミーティングで黙っていて良くこう言われたのでトラウマがあった、、、)と思っていたが、今回は投資家という立場だったので歓待してくれたようだった。メンバーたちが順番に自分が今デューデリジェンス(案件精査作業)している案件の検討状況を説明していく。自分のボスであるパートナーに対して説明をするアソシエイトたちはとても緊張しているように見えた。財務状況やビジネスの状況などかなり綿密に調べた結果を事細かにアソシエイトたちが説明していくのだが、パートナーたちの突っ込みはかなり厳しい。私も日本に事業進出できるスタートアップを探すべく、早速、特に事業面の質問を投げかけた。気になるのは投資検討しているスタートアップカンパニーの提出した事業計画の現実性なのだが、その根拠や裏づけとなる証拠について私は質問を繰り返した。パートナーたちは、さらに細かい内容をアソシエイト達に質問してくる。書類に書かれた数字だけでとても判断できるものではない。実際にその会社を訪問し、そこの社員たちとインタビューを繰り返し、顧客に対しても同様に客観的な調査をするといった地道な活動しないと納得してもらえるだけの根拠などと言うものは出てこない。私も東京でベンチャー企業やベンチャーキャピタルへの投資を担当していた時に、同様の調査活動は行っていたが、ここのアソシエイトたちの仕事っぷりを見ていると自分のデューデリがいかに甘かったのかを痛感し、恥ずかしくなってしまった。

こうした厳しいデューデリジェンスの後で実際に投資まで至るベンチャー企業は100社に1社といったところだ。どこに投資することになったかは公に発表されるのでウェブサイト等でも見ることができる。私がベンチャーキャピタルに乗り込んできたのは、その影に埋もれた99社の情報を得ることであった。実際にはとても良い技術を持っていたとしても、チームメンバーが今一つであるとか、ちょっとした技術要素が足りないとか、私がいたベンチャーキャピタルの投資対象内に事業内容がはまっていないとか、そういった理由で投資に至らない会社が99社の中にはたくさん眠っているように見えた。10億円近い投資をしてベンチャーキャピタルに常駐させてもらっている理由はそこにあった。

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