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映画脚本術に学ぶ、ストーリー構成の黄金律(フィードバックの流儀IV)

小説やエッセイを書く時や、他の書き手の作品にフィードバックする時に、何か指針となる構成術が知りたい……

そんな狙いで、映画の脚本術に関連する本を色々読んでいます。この記事では、私が編集参加したサトウカエデ『さよならのバックパックがくれたひと夏のこと』(🍺)、ならびに私の初フィクション作品である『【小説】レジに立つ青年』(🍅)のメイキングを実例として、最近学んだ《ストーリーづくりのキモ》をまとめて共有します。

ベースとした教科書は、ラリー・ブルックス『工学的ストーリー創作入門 (Story Engineering)』および『物語を書く人のための推敲入門 (Story Fix)』です。

(1) 作品全体を要約する「プレミス」(または「ログライン」)

構成の話をする前に、「それ、どんな作品?」という全体要約から確認していきましょう。「ストーリー全体の設定が十分面白くなかったら、中身をどう直しても意味がないというのはラリーの主張の核でもあります。

2作品の全体要約を考えてみます。


🍺『さよならのバックパックがくれたひと夏のこと』:

同棲していた男と破局した「私」の元に、大学時代の旧友が現れ、ひと夏限りの2人暮らしを始める。旧友との生活の中で、私は失恋の痛みを消化し、少しずつ立ち直り、再生する。

▼twitterにシェアする時の「帯」を考えるとわかりやすいです(帯から逆算)。


🍅『レジに立つ青年』:

アルバイト初心者で引っ込み思案の18歳・夏彦が、スーパーのレジ係に挑戦。最初はてんでうまくいかないが、憧れの先輩やベテランのパートさんなどに支えられながら、一人前のチェッカーを目指す。

こう比べると設定がまだ弱いですね……w(現場経験に裏打ちされた「業界固有のディテール」で稼いだ感じ)

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こうした1行要約は、業界的には「ログライン」と呼ばれ、ラリー・ブルックスは「コンセプト」と「プレミス(premise, 前提)」と呼んでいます(本稿では「プレミス」を用います)。

このプレミスが十分な「新鮮さ、独自性、ひねり」を備えていること——「惹きつけて離さない魅力を持っていること(compelling)」が、作品づくりの出発点になります。起業家などが言う「エレベーターピッチ」に近いものです。「それって一言で言うとどんな話?」という問いにキャッチーに答えられるよう、設定や世界観を練りましょう。

ラリーは、コンセプトを「what if?(もし〜〜したら?)」の形で考えることを助言しています。確かに「もし〜〜したらどうなる?」という問いは必然的にユニークな物語を生み出しそう。仮定で「何を、どう変えるのか」を考えるわけです。「一人暮らしの1LDKに突然大学時代の男友達がやってきて『しばらく泊めて』って言ってきた……さあ、どうする?」というわけです。


▼プレミス/ログラインに興味がある人は、横紙やぶりさんの『ログライン・プロット大賞』に是非ご参加を〜


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(2) 感情移入できる、登場人物の造形

プレミスと構成をつなぐ視点として、登場人物(キャラクター)の設定があります。

まずは「主人公」がどんな人物なのか……外見や属性はもちろん、内面の葛藤や、そのストーリーに至る背景(バックストーリー)も織り交ぜて、立体的な造形にしていく必要があります。

ここで重要なのは、「読者が感情移入しやすい」人物設定にすること。そのコツは、主人公にとって「乗り越えるべき危機、解決すべき課題、守るべき大切なもの」がなんなのかを分かりやすく提示することです。このためには、悪役(ヴィラン)の配置が有効なこともありますし、サポーター的なキャラクターも重要になります。


🍺『さよならのバックパックがくれたひと夏のこと』:

主人公(私)→25歳女性。バリキャリ。恋人との破局で傷心中、自信を失っている。仕事のしすぎで大切なものを失ったことにショックを受けており、立ち直りたがっている。
□ サポーター(K)→私の大学時代の男友達。旅好き。子どものように朗らかで人なつっこく明るい性格。大きな手。
□ 元彼→私のことを好きだったが、今は完全に見放して絶縁するつもり

ここでは読者が性別や年齢問わず「私」にどれだけスムーズに感情移入できるかがポイントになります。恋人より仕事を選んでしまう、誰にでも心当たりのありそうな、ずきんとくる設定をシンプルに描写する(へんな横道や邪悪な性格とかを入れない)ことで、読み手の裾野が広がります。

主人公の造形上のポイントは、葛藤 (conflict)。内面のモヤモヤした対立をどのように解決していくのか、どのような決断をするのか。これこそが主人公の旅であり、起伏 (arc) になります。

さらに、旧友Kを「いいやつ」にしつつ、一方の元彼を「冷たい、ちょっとひどいやつ」にする、この対比も作品のポイントだと思います。


🍅『レジに立つ青年』:

■ 主人公(夏彦) →18歳男性。中背で痩せ気味。大学1年で東京に出てきたばかり。引っ込み思案で言葉少な。緊張しい。成長志向がつよく、まじめ。
□ サポーター(黒田店長、菅原先輩、貝塚チーフ、パートリーダー野原) →それぞれ「プロの仕事」をする、穏やかでキリっとした店員。オオゼキの社員さんがモチーフ。

この話は主人公が弱い自分と闘いながら成長していく形なので、悪役がいません(強いて言えば未熟な自分が敵)。短編なのでさらっとしていますが、ここに「意地悪な同僚」や「厄介な客」などが登場し、それらに対峙していくと、さらにハラハラする展開で成長速度が上がるはずです。トレーニングは適切な負荷を掛けることが必要なわけですね。


このように、主要な登場人物の設定は、コンセプト/プレミスの一部に含む形で、構成以前にクリアにしておくとベター。特に主人公のストーリーにおける起伏(arc, アーク)——ストーリーの中で主人公がどう変化するのかを、うまく設定していきましょう。


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(3) 構成:ラリー流の「四幕」といくつかの転換点

さて、コンセプト・プレミスと登場人物が描けたら、いよいよストーリー全体の構成を整えます。

ラリー・ブルックスは全体を4パートで分けています。

パート① 導入(セットアップ):つかみ(フック)
 プロットポイント【転換点】1、全体の20-25%地点
パート② 反応(レスポンス)
 ミッドポイント【中央分岐点】
パート③ 攻勢(アタック)
 プロットポイント【転換点】2、全体の75%地点
パート④ 解決(レゾリューション):クライマックス

後述する伝統的な「三幕構成」の、第2幕をミッドポイントの前後で分割したものと考えて良いと思います。

作例の構成を見てみましょう。


🍺『さよならのバックパックがくれたひと夏のこと』:

パート① 導入:Kの登場
 プロットポイント1:Kが料理を振る舞う
パート② 反応:徐々に仲良くなる二人(ハンモック)
 ミッドポイント:元彼からのメール
パート③ 攻勢:夜の会話シーン
 プロットポイント2:焼鳥屋で
パート④ 解決:去って行くK

印象的な4〜7つのシーンによる見事な構成です(今回「編集」で加わっていますが、構成は初稿段階からほぼ変わりません)。

ここで最重要なのは「プロットポイント1」をもってストーリー全体が大きく動き始めるという点です。このプロットポイント1が明確であり、早すぎず遅すぎない(全体の20-25%地点)であること、プロットポイント1までに「設定解説」を済ませておくことが【王道】の構成術です。

ちなみに、初稿から編集プロセスで構成上触ったところは、第2幕(ハンモックのシーン)の冒頭です。ここが早すぎないように。ここはプロットポイント1を受けての「反応」なので、ある程度時間をかけて徐々に登っていくリズムが必要です。最終稿では3往復の台詞で仲の良さが表現されました。


🍅『レジに立つ青年』:

パート① 導入:バイトに応募する(菅原先輩の技を見る+店長と話す)
 プロットポイント1:デビュー初日での失敗
パート② 反応:チェッカーの仕事に徐々に慣れる(玉子を落とす)
 ミッドポイント:「サッカー回ってくれる?」
パート③ 攻勢:野原さんとの会話
 プロットポイント2:繁忙日の大行列を捌く
パート④ 解決:菅原先輩の異動

この作品はそもそも「ラリー流四幕構成を実験してみたい」という動機で初のフィクションに挑んだ経緯なので、いちおうちゃんと構成に沿っています。……が、いま書き直してみると、ミッドポイント/パート3/プロットポイント2の区切りが少し曖昧な気がしました。1シーン足りないか、このあたりのシーン描写をもう少し厚くした方がいいのかもしれません。

四幕構成は、いわゆる「起承転結」にも近いので、理解しやすいと思います。要は「ひねる」回数をかなり多くした方がストーリー的には面白いということ。

これはハリウッド映画的なセオリー(映画でも戯曲系やドキュメンタリーの構成は違う。『マトリックス』や『ダ・ヴィンチ・コード』を観ながら勉強しましょう)であり、だいたいの小説作品には掌編・短編含め適用できそうです。おそらく一部のエッセイでもいけると思います(エッセイに一部虚構を混ぜれば小説になる……w)。


このように構成が固まれば、あとはここまでに練ったコンセプト・プレミス・登場人物の起伏(アーク)から逸れないように注意しながら、シーンを書き込んでいくだけ!

構成の名前には本当に諸説あるので、気に入ったものに沿うのが良いと思います!

ラリー流メソッドに沿った作品の壁打ち/フィードバックはいつでも歓迎です。twitter DMからお声掛けください。



(おまけのうんちく)三幕構成と脚本術の系譜

私が買った脚本術系の本には、ブレイク・スナイダー『SAVE THE CATの法則 本当に売れる脚本術』や、K・M・ワイランド『アウトラインから書く小説再入門』などがあるのですが、フィルムアート社から出ているこの手の本は大概同じことが書いてあります(笑)。

その元祖は、1979年初版発行の『映画を書くためにあなたがしなくてはならないこと シド・フィールドの脚本術』という本に全部書いてあります。また、このセオリーのエッセンスは、Wikipedia「三幕構成」にかなりまとまっているので、この辺りを参照することをオススメします。


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