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【連載小説】「好きが言えない3 ~凸凹コンビの物語~」#10 でこぼこコンビ


⚾【前回のお話 #9 部長らしく

ここまでのあらすじ

犯人扱いされることを恐れた大津は一度逃げたが、真実を話そうと本屋に戻る。
そこで再会した路教と大津。
犯人の容疑が晴れた大津は、路教に「部長らしく」振る舞うよう意見する。

至らない点を指摘され落ち込む路教だが、彼の言葉で「部長・野上路教」の方向性が定まり始める。

(以下、話の流れ上、前回の文章も少し掲載しています)

10

「大津。明日からは真面目に部活に顔出せよ?
 今晩中に、練習メニュー作っとくから」

「明日から?
 センパイ、急にやる気だなぁ。
 鬼部長は向いてないって言ったばっかりなのに」

「鬼になる気はさらさらねぇよ。
 でも、やるんだ、おれは。
 大津だって、もう一度甲子園に行きたいだろう?

 おれは本気だよ。
 みんなで力を合わせれば絶対いけるって信じてる」

「おっ、その言葉、待ってましたよ」

 大津が、今度は目を輝かせながらおれを見上げた。

「おれ、今度こそ甲子園でホームラン打ちたい。
 ちゃんと成績残したいです。
 たぶん、おれだけじゃない。
 みんな同じ気持ちだと思います」

「ああ、そうだよな」

 結局、甲子園では全員試合に出させてもらったものの、誰一人として活躍することが出来なかった。

 とりわけ、おれと大津はそれぞれ二番手。
 本来のポジションでの出番はなく、最終回で試合経験をさせてもらうためだけに外野の守備についたというのが真実だ。

 いい経験になったのは確かだけど、悔しい気持ちがないと言えば嘘だった。
 だから大津の「ちゃんと成績残したい」という言葉はおれの想いでもあった。

「見に来てくれた家族にいいとこ見せられなかったのはおれも悔いが残ってる。
 おれの場合は今年が最後だ。
 部長でもあるし、やっぱり活躍する姿を見せたいよ。
 ……おれが部長になって半年の間、ずっと空回りしてて悪かったな」

「センパイ……」

「なぁ、大津。
 おれとおまえと、二人で力を合わせれば部の立て直しも出来るんじゃないだろうか。
 おれは祐輔じゃなくて、大津に頼みたい」

「えっ、おれに?」

「永江先輩のアドバイスでもあるんだ。
 おれにははっきり助言できるパートナーが必要だって。
 それは祐輔じゃない。
 多分、大津が適任だ」

 大津がにやりと笑うのがわかった。

「野上センパイのお墨付きなら遠慮なく発言しますよ。
 どうせこのままじゃ一年生も集まらないだろうし、野球が続けられるんだったら何でもやりますよ。

 ……でもいいのかなぁ、副部長抜きで話進めちゃっても。
 後で怒られても知りませんよ?」

「なぁに、祐輔だってこの半年、まずいと思いながらも改善に向けた行動を何一つとってこなかったんだ。文句は言えねぇはずさ」

 今思えば、おれたちはずっと余韻に浸っていたかったのかもしれない。
 あの素晴らしい夏の、まるで夢みたいな出来事を引きずることで現実逃避していたかったに違いない。

 半年経った今。
 よみがえる悔しさ。
 このままじゃいけないっていう焦り。
 あのとき感じたはずの気持ちは今「闘志」となって吹き出そうとしている。

 おれはずっと「部長」の自分だけで解決しなければと思い込んでいた。
 だから苦しくて押しつぶされそうになっていたんだ。

 でもおれは助けを求めてもいいと知った。
 協力してくれる仲間がいることもわかった。
 おれは一人じゃない。
 誰かと一緒なら、前に進める。

 情けないと言われるかもしれない。
 でも、それがおれのやり方だ。

   ⚾⚾⚾

 「よし、帰って早速練習メニュー作るぞぉ!」
 センパイが気合いを入れるように夜空に向かって叫んだ。

「なんか、最初の予定とずいぶん違うけど、まぁいいや。
 言いたいことは言えたし」
 おれはベンチから立ち上がり、持っていた空缶を自転車の前かごに放り込んだ。

「まったく、言いたい放題すぎるぜ。
 双子の兄貴も口達者なの?」

「……え、今、なんて?」

 センパイには兄弟関係の話は一切していない。
 なのになぜ急にそんなことを……?

 戸惑っていると先輩が種明かしを始める。

「実はさっき本屋の前でおまえを待ってるとき、兄貴の方に会ったんだよ。
 同じ顔だったからてっきり戻ってきたかと思って声かけちゃったんだよな」

 こんなところまで、一体何の用事で?
 昔から、おれとハヤトは考えや行動が似ることがあるけど、そのせいだろうか?

「で、なにか話したんっすか?」

「まぁ……。おばあちゃんと散歩してたからさ。
 おばあちゃん想いなんですね、って言ったら『大切な家族なので』って。
 おれ、しばらくばあちゃんに会ってないから、今度の休みにでも会いに行こうって思ったよ」

「ハヤトが……ばあちゃんと……」

 昨日あんな会話をしたばかりだから意外だった。
 早く真相を確かめたいと思った。

 センパイはそれ以上聞いてくることはなかった。
 ただ一言、

「それじゃあ、また明日な!」
 と言って、さっさと走って行ってしまった。


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