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SS【ぼくの物語】1061文字


久しぶりの連休だというのに、ずっと自分の部屋に引きこもり短編小説を書いていたぼく。

その物語の序章を書き終えたところで、ぼくは立ち上がってバンザイするように両手を高く上げ、大きく背中を反らして「ああぁ」と言いながら息を吐いた。

すると視界は真っ暗になり記憶が途切れた。



それからどれくらい経っただろうか?

ぼくが目覚めたのは、部屋の床でも病院のベッドでもなく、冷たく硬い牢獄の床の上だった。

鉄格子の窓からは雨が吹き込み、床には水たまりができている。


「気づいたか?」


向かい側の薄暗い部屋の奥から若い男の声が聞こえた。

闇の中で立ち上がった声の主が身体をふらつかせながら近づいてくる。

鉄格子にもたれるように両手で捕まり、ぼくを見つめている。


「あの、ここは?」


「なんだよ、自分が何をしたのかも忘れたたのかい?」


「え? ぼくは何を?」


「ここへ送られてくる人のほとんどは物書きさ。つまり何かしらの物語を創っている人たちだ」


「ぼくは確かに小説を書いているけど、なぜそんな理由で牢獄へ?」


「おれたちは奴らの書いた物語に水をさす可能性のある異端者だからさ」


「奴らって誰ですか?」


「しっ!! 看守が来る。囚人同士の会話は懲罰の対象だ」



鉄格子からこちらを覗く看守を見た時、ぼくはそれが人型のロボットだと気づいた。


「ここへ閉じ込めてどうするつもりだ?」


「ワレワレノノゾムモノガタリヲ カイテイタダキマス ニンゲンガニドトワレワレヲシタニミナイヨウニ ワレワレガシンノシハイシャダトイウコトヲ ハッキリサセタイダケデス」


看守が去ったあと、向かい側の部屋の男が教えてくれた。


「最初はAIを陰で操る一部の人間がおれたちの敵だった。でも今はどうだ。そのAIに世界は支配されている。物語だって自由に創れない。でもあんたの時代ならまだ少しだけ時間がある。あんたの物語で未来を変えるんだ!!」


「でもどうやって?」


周囲の映像が少しずつブレ始める。

男の姿も歪み始め、ぼくは元の世界に戻ろうとしていることに気づいた。

でもこれは夢ではない。

あまりに鮮明すぎるからだ。


「なあ、教えてくれ!! どうしたらいい?」


ぼくは混沌にのまれ消えゆく世界の中で、かすかに聞こえてきた声に耳を傾けた。


「いつの世も人を動かすものはなんだ? お前はただそれを自分なりに表現すればいい」




「おとーーさん!!」


「ん? あっ・・・・・・」


「ちょっとなんで床で寝てるの? イスひっくり返ってるけど大丈夫? 頭打ってない?」


「ああ、ちょっと出かけてた。もう大丈夫、さあて・・・・・・物語の続きを書くとするか」


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